第660話 お仕置き

 慌ただしくアースは起こされた。


「鑑賞会が中断?」


 恥ずかしいからと鑑賞はパスして、その間は夢の中でまさに夢のような時間を過ごしていたアースは現実を叩きつけられた。


「うん、みんなで鑑賞会のために空を眺めていたら……なんか、たぶん……月? うん、ウソみたいだけど、月の破片が……」

「お兄さん、これは本当のことだ。それに、ソレを見てヤミディレたちも心当たりがあるようで騒いでたんだ」


 エスピとスレイヤに挟まれて、何が起こったのかを説明されるアース。

 そしてその中で「月の破片」という言葉に、ハッとして、アースは傍らのトレイナに振り返り、トレイナも「ん~?」という感じで腕組していた。 

 すると……


「アース・ラガン。貴様は、カグヤ……いや、月光眼を知っているな?」

「ウキー、懐かしすぎる名前……」

「せやけど、その懐かしい名前の奴が、そういうの使っとったわ」


 遥か昔から存在する、ヤミディレ、ゴクウ、タツミヤたちは告げる。ソレを聞いて、アースもまた「やっぱり」と確信した。



「おいおい、どういうことだ? まさか、月光眼を持ってる奴がどこかにいて、その誰かさんが世威羅亜ムーンを使ったとかって言いてえのか?」


「「せいらーむーん?」」


「「「ッッッ!!!????」」」



 ソレはつい先ほど、まさに夢の世界でアースが体験した力。しかしトレイナとてそれは「現実では使えない」と苦笑したような力。

 なぜならソレを使うと、敵も味方も関係なく全滅させて、世界すら破壊してしまうような恐ろしいものだからだ。

 だが、それを実際に使った者がいる? 

 そのことに、アースも、そして傍らのトレイナも驚いた表情を浮かべた。 

 すると……


「アース、せーらーむーんとはなんですか?」

「アース様は御存じなんですか? あれ? でも、アース様の鑑賞会で月光眼っていうのは出て来てませんよね?」

「……え?」


 純真無垢な表情で、クロンとアミクスがアースに聞いてきた。そのことにアースもまた「ハッ」とする。

 そう、アースの過去の戦いを包み隠さず鑑賞会で流してきたから、アースがまだ月光眼を持っているものと戦っていないということを皆が知っていた。

 それなのに、アースが月光眼の技を知っている。


「せやな~。しかもワイらが知っとる月光眼持ちはカグヤしかおらんかった」

「ウキ? アースは何で知ってるんだ?」


 自分たち太古の時代の存在ぐらいにしか知られていない月光眼をどうしてアースが? 

 タツミヤもゴクウもアースが知っていたことに疑問を抱く。 

 すると、焦ったアースは……



「い、いや、その、知ってる奴に教えてもらったというか、さっきちょっと夢で体験、あ、えっと、その、そう、知ってる奴に以前教えてもらったことがあって……」



 そう誤魔化すアース。


「まあ、そうなのですか! 流石はアース、博識なのです!」

「アースさま、強くてカッコよくて物知りで……そういえば、アース様は学校でも頭が良かったと……素敵♡」

 

 そのことに騙されるのは、単純なクロンとアミクスのみで……


「ほーう……『教えてもらった』か……夢で体験?」

「ふーん……そーなんだ、お兄ちゃん……『さっき』……なんだ~」

「おやおや、お兄さん……恥ずかしくて寝る……って言ってたけど……本当は何をしていたんだい?」


 ニッコリとものすごい何か強い感情の籠った怖い笑みを浮かべて、ヤミディレ、エスピ、スレイヤの三人がアースを取り囲む。


「おい、アース・ラガンよ……まさか、貴様……よもや、貴様……この私が傍にいるというのに、黙って……黙ってあの方と……」

「ねえ、お兄ちゃん……あのさ~、今度から私たちに内緒も隠し事も無しっていうの……その約束どうしちゃったのかなぁ? かなぁ?」

「お兄さん……お兄さんの傍にいる見えないけど存在する人と、二人でコソコソ何をしていたんだい? ねえ? 二人は許さないよ? 弟の僕に隠れて内緒? そんなの許さないよ?」


 そして三人とも、どこか病んだような目でアースに激しい圧をかける。


「い、いや、待て、別に隠れてじゃなくて、ちょっと戦いの前にイメージトレーニングをしていただけで……」


 史上最強と戦って耐性をつけた筈のアースが、愛しき弟妹と義母候補(?)の圧力にタジタジになってしまった。



「尻を出せ、アース・ラガン! この私に黙ってあの御方と時間を過ごすなど……クロン様との結婚後もそれは許さんぞ! 親戚となるなら猶更であり―――」


「お兄ちゃん! たとえ見えなくても、もう私たちは、お兄ちゃん、私、スレイヤくん、そしてあの人の『四人』ってことになったんでしょ? だったら、黙ってコソコソしないでちゃんと言うこと! ちょっとぺんぺんしちゃうから!」


「困った兄さんだ……僕たちはね、兄さんが僕たちに黙って何かをすることをどれだけ怖いか分かっていないんだから……少し、いや、僕もだいぶ怒ってるよ?」


「ちょ、ま、待て、お前たち! 別に隠してたんじゃなくて――――――ちょまっ――――ッッ!!??」




 










 夜が明け、ハクキはシミジミと呟いた。


「ここまで言うことを聞いてもらえぬとは、吾輩も甘くなった……いや、これが現代ッ子というものなのか……戦争を経験する者で吾輩の指示を聞かぬものはいない……だから緩んでいたかもしれぬ。まさか戦争を経験しなかった世代の若造に、ここまで吾輩を軽んじられるとは……」


 人類の盟主たるディパーチャー帝国。

 文明、生活水準、あらゆる面において地上世界最高峰。

 かつての大戦が終えてからはより一層栄華を極め、その美しく巨大な大都市に憧れ、目指す他国の者たちも多かった。

 そしてそこには戦争が終わった世でも世界最強の軍事力もあったため、誰もがまさかこのような事態になるとは思っていないかった。


「あの帝都が……なんとも無残じゃもん」


 かつては魔王軍として人類と戦争を繰り広げてきたハクキ、さらにテングや配下のオーガたちも上手く言葉が出なかった。

 その巨大さ、壮観さ、美しさ、それらすべてが無残な瓦礫の山となっていた。


「くそぉ、俺の家が……なんでこんな……」

「早く瓦礫を……うう、どうしてこんな……」

「これから私たち……どうなるの?」

「うぇーん、いたいよぉ~」

「居住区、商業区、工業区、高級住宅街も全て被害が……」


 普段は栄華の中にいた帝都民たちも薄汚れて黒く汚れながら呆然としたり、泣き喚いたり、なんとか瓦礫を撤去しようとしたりしているが、そのほとんどの表情に希望も強い意思もなく、ただ絶望しかなかった。

 そんな人類を眺めながら、帝都の中をハクキの軍団がゆっくりと足を踏み入れる。


「お、おい、アレ……」

「ひ……ひいいい、あ、ああ、お、オーガだ……」

「そんな……し、しかも、あ、あう、うそだ……あの顔……」

「あ……ああ……ハクキ……だ」

「ろ、六煉獄将のハクキだぁあああ!」

「逃げろぉおおお!」

「おい、急いで女たちを地下に、嗚呼、た、助け、ひいいい!」


 戦争の頃からハクキを知っていた者たちだけではない。今では鑑賞会を通じてほとんどの者たちがハクキの顔を知っていた。

 そしてハクキが未だ人類の敵にして最恐であると知っているからこそ、絶望していた民たちがより一層恐怖に染まり、震え、涙し、腰を抜かし、失禁する姿を晒していた。


「こういう形で陥落させる気はなかったが……それにしても無様……こうして総大将たる吾輩を目の前にしたのだ。命を懸けて首を取り、一矢報いに来る勇敢な者が一人もおらぬとは……」


 無理もないとはいえ、ハクキはもともと肩慣らしのつもりとはいえ、それでもかつてのように血肉を沸き躍らせる「戦」をもう一度……という気持ちでここまで来ていた。

 しかし、独断で動いた部下の不意打ちで、既に帝都の心は折れてしまっており、振り上げた拳の降ろしどころが無くなったことで空しくなってしまっていた。

 そして……


「陛下ぁぁ! 陛下……いかん、もっと薬を、いや、治癒魔法を!」

「全身の火傷、損傷も酷い……このままでは」


 帝都全土で無残な惨状になり、辺り一面瓦礫の山。

 だが、その中でも人々が集まり、オロオロと情けなく右往左往している塊があり、そこには……



「何とも締まらぬ再会になってしまったなぁ……ソルジャよ」


「「「「「「ハ……ハクキッ!?」」」」」



 その一団に部下たちを引き連れて足を踏み入れるハクキ。

 彼らの中心には、全身ボロボロとなり、火傷や傷に加えて片腕が欠損している無残にして瀕死の男が倒れていた。

 その男を見ながらハクキは目を細める。

 だが、その男こそが……


「これでも被害を最小限に抑えた方か……でなければ、全滅どころか消滅していたところだろう。若造相手に命を懸けてそこまでしかできぬと取るべきか……最後に勇者として皇帝としての意地を見せたと取るべきか……」


 ソルジャだった。

 美しく威風堂々とした若き皇帝が、全身ボロボロとなって意識もない瀕死の状態で横たわっていた。

 ソレも全ては、帝都を守るために全ての力を出し切って己を犠牲にしたからだ。

 かつての宿敵のそんな姿にハクキも一瞬複雑な想いを抱くも、すぐに踵を返す。


「テング。ソルジャにも『蟲』を入れておけ。ついでに、どこかに槍が落ちているだろうから拾っておけ」

「……首を刎ねなくてよろしいじゃもん?」

「別に……吾輩の軍が勝利したわけではないからな……」

「……承知しましたじゃもん」


 本来、戦争であれば相手の大将の首を獲れば勝利。しかし、もはやそんなことをするまでもなく、帝国は戦争をする前に敗れてしまった。

 たとえ、レンラクキがハクキの部下だったとしても、独断で指示を無視して勝手に動いてこれだけのことをやってしまった。

 それを自分の勝利と誇れるものではないため、ハクキはソルジャの首を刎ねてそれを掲げて晒して勝利を誇示しようとはしなかった。

 そんな中……


「ひ、やめ、陛下に触るな……あ、……うう」

「くそぉ、くそぉ! ハクキ! この鬼め! ようやく終わった戦争……ようやく訪れた平和を壊しやがって……」

「この鬼め! 悪魔め! くそぉ、なんで連合軍はさっさとこいつを殺さなかったんだ!」

「くそぉ、上層部の奴らは責任取って辞任しやがれ!」

「だいたい、他の帝国戦士は何やって……だいたいヒイロ様がちゃんとしてないから……」

「そうだ、いや、待て……そうだよ、まだヒイロ様が!」

「そ、そうだ! ヒイロ様、マアム様、ライヴァール様がいる!」

「覚悟しろ、ハクキ! お前は必ずヒイロ様たちが……」

「そうだ! それにこの国には……勇者の子たちもいる!」

「アース・ラガンだってきっと!」

「その通りだ、お前たちはもう終わりだ!」

「帰れ! 帰れ! 帰れ! 帰れ!」

「暴力主義者どもは帰れ!」

「クソ鬼どもはもうおしまいだ!」


 多くの民衆たちが、ハクキたちに向かって罵声を飛ばして声を上げる。

 だが、それらを見渡して……



「嬲るぞ?」


「「「「「「「「ッッッッッッッ!!!!!!!!????????」」」」」」」



 たった一言呟いただけだった。

 しかし、そのたった一言で、一睨みで、発する一瞬の強烈なプレッシャーが、帝都全土に駆け巡った。

 イキりかけていた帝都民たちは誰もが腰を抜かし、言葉を失い、涙を流しながら激しい恐怖で震えてしまう。

 なぜなら、そのハクキのたった一言だけで、「あまりにも生々しいイメージ」を想像してしまい、そのイメージが深々と頭と心に刻み込まれてしまったのだ。

 さらに……


「ハクキ様……殲滅には……」

「しなくてよい。そんな価値もない。ヤル気満々だった部下たちは肩透かしだろうが……その気持ちはこれから来る本番に取っておくように伝えよ」

「承知じゃもん」

「ただ…………」

「ただ?」

「……覚悟なく罵声を浴びせるような無知には、少々お仕置きでもしてやらんとな……だから、少し狂わせておけ」

「承知じゃもん!」


 ハクキは冷たい目で傍らのテングに告げる。

 すると、テングはその身に力を漲らせ……


「幻術ではない……心に問いかけよう……精神力なき人間からのた打ち回るがよい……我が妖術! 妬我低無ネガティブの風!!!!」


 その風を帝都全土に吹き荒れさせる。

 すると……


「うわあああ、なん、なんだ、この気持ち悪い風は!?」

「気分が悪くなる、ぐっ、なん……」

「くそぉ、散々だ! 家の借金もまだあるのに、店が……」

「どうなっちまうんだよ……家も何もかも……」

「うわあああああ、おしまいだぁぁ、もうおしまいだああ、俺の人生もう真っ暗だ」

「くそ、ぉ、死にたい、もう死にてえよぉ」

「いやあああ、このワタクシがぁあ、嫌よ庶民の、底辺の浮浪者になれと? いやあああ!」

「上級国民じゃったワシがぁあ、もうすっからかんじゃああ、うひゃひゃひゃひゃ」

「たすけ、殺され、いひいいいいい、鬼に殺される!」

「いやああ、私、しょ、処女で、ああ、怖い怖い怖い怖い、きっと穢される!」

「いでええ、ケガ、あああ、死ぬぅ、う、死ぬぅぅうう」

「学校も壊れたぁ! もう俺の将来はぁああ!」

「許してください許してください……ああ、でも、でも殺される、鬼は許してくれない、ひいい! もう、もうこの世は終わりだぁあ!」


 もはや阿鼻叫喚の悲鳴が帝都中から響き渡った。


「醜いじゃもん……十数年前の大戦で、折れない心を持った連合軍には通じなかったが……同じ人間でも、環境と時代が違えばこうなるじゃもん……それにしても……」


 見苦しくみっともなく絶望に狂って嘆き散らして苦しみのたうちまわる帝都民を見下ろしながら、テングはふとその場から離れるハクキの背を眺める。



「首を斬るわけでも辱めるわけでもなく……あの御方は一体何を考えているじゃもん……戦争をしに来た割には随分とお優しく……いや、甘く収める。レンラクキが先走りはしたが、結果的にあやつの力でこちらの兵は一人も犠牲者を出すこともなく帝都を堕とせたというのに……まるで、そうなることを望んでいなかった?」



 それは、かつて凄惨な戦争をし、ハクキの部下として長年付き従ってきたテングだからこそ感じる何か。

 ハクキには何か別の思惑があるのではないかという疑問をいだいた。

 そして、当の本人は……



「全ては外で決着をつけ……アース・ラガン……そして、もう一人……『あやつ』が来て、ここで全てを終わらせたかったが……ままならぬことになったか……まあ、こうなればできるかぎりそう徹するしかないということになるか……」



 ハクキは誰にも打ち明けられぬ心境を一人吐露し、だがすぐに首を横に振って歩きだし……



「さてと、吾輩は吾輩で今のうちに見つけておくか……たしか……報告ではヒイロの屋敷に封印されていたということだが……『あの剣』は……それで、茶番とはいえ親子喧嘩の体裁は整うか」

 







――あとがき――


もう、八月末……だけど、まだ暑いィィィィィい!

みなもまだまだ気をつけろい!


さて、拙作の『戦犯勇者の弟妹』のコミカライズ最新話が更新されたので、是非見てみそ!

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みんなが買ってくれたら……いつか、クローナを信奉する堕ちた女神・ザンディレも出てくるかもだし……マジでお願いしますね。



 さて、一方で……



『第661話 乱入(ネタバレ注意:禁断師弟でブレイクスルー・先行投稿)』

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おいでおいで、みなさんおいで!

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