第609話 圧倒
「かっぱっぱ、さあ――――」
「ぶぅ~」
通路の壁を突き破って、アースたちの前に現れた二人の亜人。
『童、こやつらは―――』
その二人を見ただけでトレイナが反応。
そして、トレイナに言われるまでもなくアースも感じ取っていた。
――只者じゃない
ということは。
それこそ、先ほどの自分たちをグルリと取り囲んでいた深海兵たちよりもランクは上の雰囲気。
あの犬耳女のハチコらのように幹部の風格を……
「初めまして。俺はファイブジョー!」
「おいはエイトカイだぶぅ!」
そして登場し、通路の前後に分かれて、緑色の亜人が『ファイブジョー』と名乗り、細身の亜人が『エイトカイ』と名乗った。
その名に、アースもピンときた。
物語の世界では有名人。
ゴクウなどが実在しているのだから、登場してもおかしくないと言えばそれまでだが、ここで登場したかと思わず笑った。
「スーパースターのアース・ラガン……うちの猿が世話になり、昨晩は姫と亀、今では犬まで世話になった……流石に大人しく言うこと聞いてくれとはいかないかっぱ……だから――――!」
次の瞬間、ファイブジョーが拳を握り、親指を突き立て、人差し指をアースに向け、まるで銃口のように向けたその指先から……
「ウォーターガン!」
アースの右足目掛けて、目にも止まらぬ光線のようなものを放った。
「わ、な、アース!」
「んあぁ、撃ってきたのん?!」
ファイブジョーが放った光線は、アースの右足の『真横』を通り、そのまま艦の床に亀裂を走らせた。
そのスピードと破壊力に、クロンとヒルアもオタオタする。
だが……
「……大人しくしてくれないと、次は当てるかっぱ」
ファイブジョーが眉を顰め、アースは不敵な笑みを浮かべる。
「まるで外してあげたみたいに言ってるけど、俺が避けただけだと思うけど? その水鉄砲」
「ぬっ……」
そう、ファイブジョーは今の光線、普通にアースの足を撃ち抜くつもりだった。
しかし、アースはクロンやヒルアでは分からないほど最小最低限の動きだけで、初見なはずのファイブジョーの攻撃を見切って回避したのだ。
「……ぶぅ……ぶぅっ!」
そんなアースに今度は背後から、エイトカイが接近する。
細身の体から繰り出される素早い動き、そして細身とは思えないほどの力強い踏み込みから、一気にアースへ向けて掌打を―――
「猪突! ぶひっ?!」
「大魔クロス」
その瞬間、エイトカイの視界が暗黒に包まれた。
何が起こったか分からないエイトカイ。
だが、次に視界が明るくなった時には、エイトカイは床に尻もちついた状態で、アースを見上げていた。
「なっ…………ぶ、ぶ?」
「正面から殴ってくるなら……せめてゴクウより速いスピードや小細工を使わないとさ」
「ッ!?」
ハッとして、慌ててその場から飛び退いてアースから距離を取るエイトカイ。
だが、飛び退いたものの、膝がガクガクしてふらついている。
何故攻撃しようとした自分が倒れて、そしてダメージを受けているのかをまだ理解できず混乱している。
だが、離れて見ていたファイブジョーには何があったか分かった。そして戦慄して冷や汗をかいている。
「こ、こいつ……エイトの掌打に被せるように……カウンター……これがアース・ラガンのクロスカウンターということかっぱ……」
そう、エイトカイがアースに打撃を正面から打ち込んだ、その腕に被せるように左の拳をアースが先に叩き込んだのだ。
それをあっさりとやったアースの技術、動体視力に震えた。
『ふっ……だいぶブランクがあるようだな……鑑賞会で童の力を知ったはずだが、どこか気の緩みがあるようだ。何の小細工も戦略もない単純な攻撃で、今の童に触れることなどできはしない』
そんな驚く二人を見ながら、トレイナだけはニヤニヤとドヤ顔をしていた。
「ふぅ……ちょっと驚いたかっぱ…………」
「ぶひっ……危うくそのまま気絶するところだったぶぅ……」
そして、次の瞬間にはファイブジョーとエイトカイの目つきが変わる。
「流石は現代のスーパースターのアース・ラガン。やるかっぱ」
「もう、油断しないぶぅ。アース・ラガン……『ミクラさん』を再び呼び戻すため……久々に連携を見せてやるぶぅ」
獲物を食らう獣のように鋭く、そして静かなる圧を放つ。
本気モード。
そして、二人がかりでアースを倒す気である。
「……アース! わ、私も戦います! どうか指示を!」
「んあぁ、クロンちゃん危ないのん! だ、だけど、クロンちゃんに怪我なんてさせられないのん! 僕がやるのん! クロンちゃんが怪我したら現場のおっちゃんたちにぶん殴られて、ヤミディレおねーちゃんにぶっ殺されるのん!」
アース一人では駄目だと、クロンがアースの隣に立ち、びくびくしながらもヒルアも身構える。
するとアースは……
「ああ、一緒に戦ってくれ、クロン。ヒルア。二人への指示、それは……応援してくれ」
「はい! ……え?」
「んあ?」
笑いながら二人にそう言った。
「俺たち二人を相手に一人で戦う気かっぱ? だが、エイト、油断してはならないかっぱ。どのタイミングで暁光眼が発動されるか分からないかっぱ」
「もちろんだぶぅ。そして、アース・ラガン……さっきのカウンターでおいを仕留められなかったのは致命的だぶぅ。アレが最初で最後の勝機――――――ぶひっ!?」
アースに対し「舐めるな」という憤りがこみ上げながらも、それでもクロンの瞳は無視できないと最大限の警戒を解かない二人。
だったが、次の瞬間、エイトカイの顔が跳ね上がった。
「大魔フリッカー……」
「ぶ、ぶひ……?」
エイトカイは油断などしていなかった。
いつでも動き出せるように身構えていた。
しかし、アースのフリッカージャブの距離、そして初動に反応することができなかった。
「悪いが……最初から最後まで俺たちの勝機は変わらねえよッ!」
「「ッ!?」」
そのままエイトカイに向かってフリッカーの連打を放つアース。
「おのれぇ、舐めるなかっぱぁ!」
「ぶちのめすぶぅ!」
迎撃すべく構え直すエイトカイと、慌てて背後からアースを襲うファイブジョー。
この瞬間二人は当初の目的を忘れたのか、アースを叩きのめしてやると吠えた。
「大魔フリッカーッ!」
「ぶううう! たしかに速い、鞭みたいに肌を……が、軽いぶぅ! 芯まで響かないぶぅ!」
繰り出されるアースのフリッカー。
その連打を全て回避するのは難しいと判断したエイトカイは、姿勢を低くし、両足の指で床を掴むように身構えて、アースのフリッカーの衝撃波を防ぐ。
この堅い防御を破るには、もっと踏み込んで一撃を叩き込むしかない。
(中距離では向こうに分があるぶう……が、おいは仕留められないぶう。さぁ、もっと近づいてくるぶぅ……そのときこそ、見せてやるぶぅ……おいの『意拳』! お前が踏み込んできたところを粉砕するぶぅ!)
しかし、それがエイトカイの狙いでもあった。
そして、アースは狙い通りに踏み込んだ。
「ここだ―――――ぶぅ!?」
「大魔スウェー」
エイトカイは手の届く距離での超接近戦には自信があった。
相手を呼び込み、踏み込んだ瞬間にカウンター気味に相手を跳ね返す技術があった。
が、アースを懐に呼び込んで、いざカウンターを叩き込もうとしたら、アースが上体反らしでエイトカイの掌打を空振りさせ、その拳の死角から……
「大魔ファントムパンチ」
「ぶぺらぁ!?」
右のカウンターでエイトカイの豚鼻を思いっきり殴りつけた。
「なっ……エイト!? ぐっ、斬り裂くかっぱ!」
背後から迫るファイブジョーは驚愕しながらも手刀をアースに突き出す。
殺すつもりで、切り刻むつもりで振り回す。
「ウォーターカッターッ!」
まともに受ければ、人間の手足など容易く斬り裂くほどの切れ味。
まともに受ければ……
「大魔スリッピングアウェー!」
「か、ぱ?!」
斬られる方向に、斬られるより早く首を回して受け流す。
その結果、アースの頬には僅かなかすり傷すら負わず……
「大魔ソーラープレキサスブロー!」
「かつぷるああ?!」
驚き、動きが一瞬止まったファイブジョーのみぞおちにアースの拳が深々と突き刺さった。
「かっ、ぱ、ぱっ、が……」
「ぶ、ぶひっ? ぶっ……」
それは全てが一瞬の攻防。
その一瞬で、エイトカイは鼻血を吹き出し、ファイブジョーは胃液を吐き出し、両者アースに見下ろされるように膝をついていた。
「あんたたちこそさ……あんまり俺らを舐めるんじゃねえぞ?」
「「ッッ!?」」
ダメージと驚きで狼狽える二人は、アースを見上げながら何も言葉が出てこなかった。
そして……
『すまんが、ファイブジョー……エイトカイ……圧倒されてもらおうか? そして分からせてやろうぞ、童。深海に引きこもっていた連中に……誰にケンカを売ったのかを! もう、お前たちの時代などとっくに終わっているのだとな!』
その傍らでトレイナは魔王の笑みを浮かべていた。
――あとがき――
気イ抜くなって言ったろうがあああああ!
投稿予約忘れはよくあることなんよなぁぁああ!
つーわけで、10分時間差不意打ち攻撃!
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