第605話 ややこしく納める
「うおおおお、アース・ラガンだ!?」
「ほんとだ! クロンちゃんと一緒に……おらぁ、アース・ラガン、お前、クロンちゃんを選ぶんだろうなぁ!」
「俺らのクロンちゃんを泣かせたらぶっ殺すからなぁ!」
「そうだ、確かに他の女の子たちも魅力的だし、こんな……こんなオッパイにうつつを―――」
――バルンバルンバルンバルン
「「「「ん……ん~……うーむ……」」」」
現場で作業していた男たちがようやくアースの存在に気づいた。
鑑賞会を通じて世界的に有名になったアース。
クロンと並ぶことで、その光景に男たちは歓声を上げる……のだが……
「わわわ、な、なんですか? う~、視線が……」
男たちの視線を釘付けにしてしまうアミクスの奇跡のオッパイ。
それは、「クロン×アース」のカップル成立を心から応援していたはずの男たちの意識を奪ってしまうほどの威力。
「もも、もぉ~、なんですか、皆さん! あれほど私を応援していてくださったではないですか~!」
「ウラアアアア! 浮気かコロスゾこのクソ野郎共ぉお!」
「おい、労働者共……貴様ら、クロン様から目を逸らし何を見ている?」
むくれるクロン、怒り狂うドクシングル、そして闇のオーラを発するヤミディレ。
その三凶に男たちも委縮しそうになる。
「ま、待って下せぇ、姐さん!」
「ち、違うんだ、クロンちゃん! 俺たちは決してクロンちゃんの応援をやめたりしてねえ!」
「おうよ! だ、だからもう、見ねえよ……見ねえけど……」
「で、でも、でも見ちゃう! 男の子だもん!」
しかしそれでも目で追いかけてしまうアミクスの胸。
その視線に耐え切れず、アミクスは怯えたようにラルウァイフやエスピの背後に隠れて震える。
「ったく……おー、よしよし、アミクスこわくないよ~、お姉ちゃんが守るからさ~」
「まったく……スケベな人間の男どもめ……」
怯えるアミクスをあやすように抱きしめて頭を撫でるエスピとラルウァイフ。
すると労働者の男たちは……
「お、おお……鑑賞会で既に見ていたとはいえ……あの、小っちゃくてお兄ちゃんッ子だったエスピがお姉ちゃんしてる……」
「あの復讐に囚われたダークエルフのラルウァイフが母性に満ちて……」
「し、しかも、あのエルフの子が異常なオッパイってだけで、エスピも、り、立派に……アレをスレイヤは自由にできんのか」
「アカさんってのも羨ましいよな……」
エスピとラルウァイフにもそそられているようで目がいやらしく垂れ下がっていた。
「まったく……女性になんて視線を……みっともないと思わな――――」
「「「「「スカート姿のガアルちゃん足綺麗で巨乳隠さずこれまたやべえええええ!」」」」」
「ちょ、な、なんだい、ぼ、僕にまで!?」
そして、ガアルの姿にまで男たちは抑えきれない興奮の声を上げる。
「も、もぉ、皆さん! 困ります、そんなの!」
「おいおい、おめーらよぉ、あんまみっともねえところはだなぁ……」
「……今日はライスを大盛り無料にしてやろうと思ったがやめた……スケベどもめが」
そんな分かりやすい男たちに、クロンもブロもヤミディレも呆れてしまう。
そして……
「だ・か・ら……ゴラぁぁぁぁぁぁぁあ、わっちの前でえぇぇぇぇぇぇ、これが寝取られを超える見取られッてやつかァァあ! そんなによぉ、女の乳房がいいかゴラぁぁああ! わっちの胸筋を、腹筋を、上腕二頭筋から他に目移りしてんじゃねえぇえ、ぶっ殺すぞォぉぉ!」
ただでさえ怒りに満ちていたドクシングルが再びブチ切れて荒れる。
「おらぁ、アース・ラガン! あと、スレイヤとか言ったか!? テメエらの女ぐらいちゃんとベロベロに唾つけて所有をハッキリさせとけゴラァ! ラルウァイフもさっさとアカってのと再会しとけぶっ殺すぞォ!」
剥き出しの憤怒と殺意。
その爆発的な気迫に、思わず多くのものが吹き飛ばされそうになる。
「だァ、もう、何だよこの感情剥き出しの鬼は……ゴウダみてえに荒れやがって」
『本当に何も変わっとらんな……戦闘力はあるが、精神力が……』
ふざけた場面で、洒落にならないほどの気迫を全身から発し、その腕で軽く誰かに触れただけでその者は肉片に変わる光景が容易に想像できる。
それほど分かりやすいほどの力を全身から発して荒れるドクシングルに、アースもトレイナも呆れが収まらない。
「あー、とりあえず、落ち着けよ、あんた」
「アアン?! 何だァ、アース・ラガン、ナンパかァ?! 浮気したらコロスゾぉ! 初デートは美味しいスイーツとマジカルプロテインを摂取できる店にしろよなァ?」
「……とにかく落ち着いてくれよ。つーか、マジであんた俺らとはどういう関係になるんだ? 一応ハクキの配下のトップクラスの奴なんだろ? 戦うのか? どうすんだ?」
「タタカウ? 六覇と連戦してきたからって、わっちを舐めんなよなァ!」
話が進まない。
昨日は曖昧なままでとりあえず深く突っ込み入れたりはしなかったが、流石に今日は違う。
互いの立ち位置、そしてこれからどうするのかはハッキリさせなければ、アースたちも安心できなかった。
そして……
「それは私にとっても同じだ、ドクシングル」
「ぬっ、ヤミディレ大将軍……」
「貴様が個人的にショジョヴィーチと友人であるので会いに来たというのは分かった……が、私やクロン様やアース・ラガンたちとこうして相見えたわけだが……どうするのだ? 当然、ハクキにも報告をするのだろう?」
「……………」
流石にヤミディレに真顔で問われれば、荒れていたドクシングルも僅かにトーンダウンする。
そして少し落ち着きながらアースたちを見渡して……
「そりゃ、いくら世話になった大将軍だろうと……わっちらの前に立ちはだかるなら……そっち側に立つってんなら」
「…………そうか」
やはり敵であることには変わりない。
ドクシングルのその言葉に少し切なそうになるヤミディレ。
すると、アミクスをラルウァイフに預け、エスピが真剣な表情で前へ出て……
「……じゃーさ……今この場で私たちがあんたをぶっ飛ばしちゃっても、それは仕方ないってことになるよね?」
「ア゛?」
「そうすれば鬼天烈の戦力も大幅ダウンだよね? いつか、お兄ちゃんや私たちの前に立ちはだかるの確定なんだし、だったら……」
今ここでドクシングルを葬ったほうが後々楽になる。
エスピのリアルで冷たい言葉で、一気に場が緊張に包まれる。
「へっ、ビービー泣いてた七勇者のクソガキが、わっちを? 舐めてんのか?」
「は? あのさ、六覇に及ばない三下のくせに……舐めてんのはそっちでしょ?」
一触即発。
ほんのわずかなきっかけで、一気に戦闘モードに入るエスピとドクシングル。
「ちょ、待て、エスピ!」
「ちょ、ちょ、いきなり何をするのです! やめるのです、お二人とも!」
慌ててアースもクロンも間に入って仲裁しようとするが、二人は互いに睨み合い止めない。
それどころか、スレイヤもラルウァイフもいつでも動けるように臨戦態勢に入った。
このままでは本当に始めてしまう。
だが……
「おいおい、現場作業の邪魔だぜ。やめねーか、妹ちゃんもイカした姉ちゃんも」
「「ッッ!?」」
このまま戦いが始まってしまうかと思ったそのとき、ドクシングルとエスピ、二人の肩に腕を回してブロが割って入った。
簡単に人を肉片に変えられるパワーの持ち主であるドクシングルと、アース以外に頭を撫でられたら力を使って誰だろうと容赦なくぶっ飛ばすエスピに触れる。
そのあまりにも命知らずの行為にアースたちも思わずひっくり返りそうになる。
「ちょ……」
「な、ん、てめ……」
だが、ドクシングルもエスピもブロの行動は予想外だったため、思わず戸惑ってしまっていた。
「妹ちゃんよ~、お兄ちゃんが大好きでお兄ちゃんのためにも脅威となりそうなものは~って気持ちは分かるがよ~、言葉を交わして敵かどうかを確認しなきゃ分からねえ程度の相手ならよ~、喧嘩する理由探すよりダチになる方法でも考えようぜ~」
「いや、ちょ、な、何を……」
「つーか、彼氏でもある弟君も止めねえとよぉ。何を一緒にオメーさんまで参戦しようとしてんだよ。兄弟も言ってたろ? 一人を相手に多人数でボコるのはなんとかって、ゴウダとの戦いでよぉ」
「むっ……」
「そんで、あんたもだよ、イカした姉ちゃん。問答無用で喧嘩始まるならまだしもよ、問答から始まるならそんな急いでやり合う必要もねーだろ? つーか、あんたは妹分たちのダチでもあるナンゴークの家族のダチで、昨晩は助けてくれて、んで、俺のダチでもあるトウロウやスケヴァーンたちとも一緒に戦ってくれただろ? ダチのダチはダチってことにせっかくできるんだからよぉ」
「ふぇっ……?」
本来は、不良という人種であるがゆえに誰よりも喧嘩好きで喧嘩っ早いはずのブロから、まさかの仲裁。
そしてそれはエスピやドクシングルたちだけでは及ばぬ考え。
「喧嘩はいくらでもやりゃいい。だがよ、殺し合いなんざ、せっかくの楽しい雰囲気がぶち壊しだぜ?」
だが、不思議とその言葉が一触即発だったエスピたちの戦意を削いで空気を和らげた。
「……ブロ……」
「な? いいだろ~、兄弟もよ。ハクキとかってのと因縁あんのかもしれねーけどよぉ、こんな所でおっぱじめんのはよ」
「……ま、そりゃ……そうだ」
そして、ブロの言う通り、いくら何でも周囲にこれだけ多くの人がいる中で戦うのはありえない。
アースもエスピを止めようとしていたため、ホッとして拳を緩めた。
「つーわけだ、ドクシングルつったか? あんたも勘弁してくれよ?」
「…………」
「な?」
「……………………じめて……」
「は?」
そして、ドクシングルに対してガキっぽく笑みを浮かべて頼むブロ。
するとドクシングルはボーっとしたままブツブツと……
「うまれて…………はじめて………おとこにだかれた……」
「ん? なに?」
そして、ややこしいことになってしまった。
――あとがき――
不意打ち投稿だァァあ! オラァ、油断したなァ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます