第597話 潮時

「はは、なかなかの威力だな。俺の力が上がってるってのもあるけど、お前から感じるモノも前よりずっと伝わってくるぜ」

「ええ、アースの隣に……このポジションにいつまでも……私の野望ですから。シノブや他のライバルにこの場所は渡しません!」

「…………」

「あら? アース……えへへへ、照れてますね~」


 まさに、天を貫くほどの螺旋のうねり。

 圧倒的な存在感を放つ二人に、味方も、そして敵ですらも目を奪われるほどのモノであった。


「ヘラヘラと……忌々しい……しかしあれが……アース・ラガン……ツナの弟子であるヒイロ・ラガンの……『アレ』を受け継いでいなくともこの力……」


 その身を皆の前に出し、禍々しい狂気を滲みだしていたオツすらもこの時は動きが止まった。

 アースとクロンが空に向けて放った力をただ見上げながらブツブツと呟き、そして、二人並ぶアースとクロンを見る。


「だが、今はこっちよりも……ふふふ……」


 オツはアースとクロンに脅威を感じつつも、その視線を二人からもう一方へ移す。

 その先には……


「うう~~~、アース様すごいよぉ! 今日もあんな大きい怪獣を倒したと思ったらここでも……しかも、まるでお姫様のピンチに現れたかのように……きゃ~~!」

「落ち着け、アミクス……というか、早めにアミクスだけでも帰さねば……」

「え~、ラル先生ぃ、せっかくだからもう少しいさせてよぉ~」


 アースとクロンの協力技の一部始終を特等席で見て、クロンに対する嫉妬を超越してアースの雄姿を見れたことに感激と興奮が抑えられないアミクス。

 

「第一世代の娘……アレを――――」


 溢れる邪な笑みを抑えきれないオツ。

 その企みを思わず口にしそうになったその時――――


「あのさ……人の妹を見て何企んでるの? またぶっとばすよ?」


 エスピが強烈な怒気を滲ませて、宙に浮かぶオツの背後に回り込んで、その後頭部に手を翳していた。

 妙な動きを少しでもしたら、いつでも攻撃できるようにと。


「……七勇者のエスピ……魔王軍の六覇と渡り合う英傑か……」


 だが、エスピに後ろを取られても、オツはそれほど慌てる様子もなく、鼻で笑う。



「あのさ、ゴクウが喋ってたけどさ、昔の好きだった人に会うために色々とやろうとしてるみたいだけど、それはあんまり人を巻き込まないでやってくれないかな? お兄ちゃんのお嫁さん候補だったり……あと……今、何を考えて私の妹を見たの?」


「……それをお前が言うか? わちしも例の鑑賞会を見ていた。大好きな兄と再び会うために、世界の戦争に私情を挟んだ小娘が」



 オツの言葉に僅かに反応を見せるエスピ。

 そしてオツは嘲笑しながら今度はヤミディレを見て……



「ああ、そうだった……ヤミディレ……お前の敬愛する主……大魔王を殺した張本人の一人がこうしてここに現れたわけだが、どんな気持ちだ?」


「オツ……」


「もっと言えば、かつての時代……あの時代にアース・ラガンが現れなければ……ふふふふふ、七勇者は全滅していたかもしれんし、大魔王は敗れることもなかった。そんな元凶共が目の前に現れて、ましてや救ってもらうなど……ふっ……散った大魔王も草葉の陰で――――」



 オツの言葉は明らかな挑発が混じっていた。

 パリピの鑑賞会を見たことから明かされた歴史の真実。

 その情報を元に、この場に集っているアースたちを挑発してかき乱そうとしていた。

 だが、次の瞬間には……


「ふわふわインパクトッ!」

「――――ッ!?」


 エスピが衝撃波を放ち、オツを海面へ勢いよく叩き落した。


「うっさいなぁ! ぶっとばーすっ! ネチネチネチネチイヤーな女ッ! いーい? 私たちのことを……お兄ちゃんとトレイナのことを何も知らないくせにゴチャゴチャ言ってんじゃないってのぉ! 何も知らなくせにさーッ!」


 エスピの怒り。

 自分たちはアース、そしてトレイナの関係性を教えてもらった。

 だからこそ我慢できなかった。

 だが……


「わ? あれ? あの人、いません!」

「……幻術……いつの間に。クロン様、油断してはなりませんよ!」


 エスピがオツをふっ飛ばしたと思ったら、それは幻だった。

 なら、本物のオツはどこに?

 すると……



「え? 幻って……それじゃあどこに……」


「ぬぐっ!?」


「ふぇ?! わ、あ、え?」



 甲板でキョロキョロと海を見渡すアミクスだが、次の瞬間背後から引きつった声が聞こえた。

 慌てて振り返ると、そこにはオツが……


「だからさ……人の妹にさ……」

「何をしようとしているか、教えて欲しいものだね」


 オツが……エスピの手が首筋に、スレイヤの鉄の剣が心臓の寸前、そして……


「このメンツを相手に出し抜こうとか、ちょっと甘く見過ぎだぜ?」


 アースの拳が寸止めでオツの顔面を捉えていた。


「わ、わわ、アース様ッ!?」

「あの人、いつの間に……でも、流石はアースたちです!」

「ふっ……流石だな」


 オツが突如としてアミクスの背後に現れたことを、一瞬で気づいたアース、エスピ、スレイヤの三人が、オツが何かをする前に三人で囲んでその動きを封じた。

 これには流石のオツも目を大きく見開いて固まっている。

 

「私を出し抜こうとしても無駄だよ? 空気の流れで簡単に分かるんだから」

「この船を作ったのは僕の力。誰が乗っていて、誰が乗り込んできたのかは感覚がリンクしてすぐに分かるんだよ」

「俺は神様(笑)から『アミクスの周囲を警戒しておけ』って言われてたからな」

『ふん……相変わらずだな……』


 そのネタをアッサリと公表。その絶対的な自信を前に、オツも言葉が出なかった。


「……分が悪すぎるカメ……ここは一旦退却しかないカメ……姫」

「ゲンブ……」


 この状況で、観念した様子で、これまで海に浮かんでいた巨大な亀が縮小化して人型の姿になった。

 人型のサイズになったゲンブは、そのまま船の甲板に両手を上げて乗り込んできた。



「おっと、実はさっきから気になってたデカい亀……こんなふうに人型になれんのか……」


「初めましてカメ……アース・ラガン……」



 ゲンブを目の前に、アースは苦笑しながらも神経を剥き出しにいつでも動けるように構える。

 会うのは初めて。

 しかし、アースにとって……


『トレイナ……こいつが……』 

『そうだ……ヴイアールの修行での試し割で出した甲羅……アレのモデルはこやつだ』

『……甲羅の堅さ抜きにしても、ツエーな……こいつ……その上、さっきみたいに巨大化したりするわけだし』

『ああ。当然警戒せねばならぬ相手……まあ、もっとも……今この状況下では……』


 トレイナから修行の教材として出され、まだ叩き割れていないもの。

 その甲羅の持ち主である張本人を前に、何だか妙な気分になるアースだが、それでも警戒は解かない。

 だが……


「いくらなんでも、アース・ラガン、エスピ、スレイヤ……さらには天空王子や、鬼天烈の上位まで居るこの状況下でタダで済むとは思わないカメ……ゆえに、ここは退かせて欲しいカメ」


 明らかに分が悪く、自分の力を己惚れているわけでもないゲンブは中断を要求。



「おいおい、ずいぶん勝手じゃねえかよ。俺らも今来たばかりでそこまで状況分からねえけど、雰囲気的にお前らの方から喧嘩吹っ掛けてきたんじゃねえのか? またいつお前らが襲ってくるか分からねえって危険性があるなら、この場で――――」


「このまま戦ってもタダでは済まない……が、それはお互い様と思うカメ。私も完膚なきまでやられるとも思わないカメ。アース・ラガン……魔呼吸やらで無尽蔵の魔力を使えるとはいえ、今日の今日……ジャポーネであれだけの戦いの直後にそのまま来たのだから、余裕の表情に見えて全員が相当消耗していることは分かっているカメ。他の連中も疲労が相当溜まっているカメ」


「へへ、どうかな? 普段から走りまくって体力には自信があるんだぜ?」


「………………」



 アースはそう言って笑みを浮かべるが、実際のところゲンブの指摘はアースもエスピもスレイヤも、そしてラルウァイフもアミクスもガアルも、駆け付けた全員がかなりの体力消耗、魔力消耗しているというのは図星であった。

 ジャポーネでゴクウやセイレーンたちと一騒動したり、ターミニーチャンやゴドラと死闘を繰り広げ、そのままここへ飛んできたのである。

 アースも魔呼吸で魔力の回復はできても肉体や精神の疲労までは簡単に回復できず、しかもつい先ほどテンションに任せてクロンとの大技をやったばかりで、本当はこのままベッドにダイブしたいぐらいアースもかなり疲れているのである。



「そうそう、勝手じゃねえかぁ? このチン〇頭野郎がぁ! わっちも体力ありあまってるから、この場で潰してやろうかぁ? わっちと結婚したくて戦いたくねえとかそういうんだったら話は変わ……え、まさか、だから戦いを拒否してるのか? え、いや、わっちもそんなこと急に……まさかゲンブがわっちのことを……」


「おうおうどうすんでい? やるなら俺もとことん付き合うぜぇ、兄弟!」


 

 まだヤル気満々な様子のドクシングルやブロたち戦力は整っており、アースも負ける気はしない。

 しかし……



『潮時だ、童』


『ッ……トレイナ……』


『本気のゲンブを今の状態で相手をするのは相当な骨だ……仮に勝てたとしても、かなりの時間を費やすだろう。そんな中で、これ以上連中の増援でも駆け付ける方が厄介だ。向こうもここで命を懸けるまでのことをする気はない以上、ここで切り上げておけ』


 

 状況を見て総合的に最適なことをトレイナはアースに耳打ちした。

 アースもここで無理して自分や他の皆を危険に晒す方が嫌だということもあり、トレイナの意見に素直に応じた。


「ちっ、ま、仕方ねえか……今日のところはお開きだ。クロンもそれでいいな?」

「……そこの亀さんたちが、マルハーゲンさんやショジョヴィーチさん一家に今後手を出さないのであれば……」

 

 クロンもこれ以上の戦いは望まないというのは同じであり、アースの言葉に異を唱えずに頷いた。


「ちょ、おいいい、わっちはまだ……ん? 今の話だと実は他の連中たちは結構疲れてる……戦うとなったら元気なわっちが頑張ることに……わっちに無理をさせないために? それってつまり―――そんな、わっち……モテ期?」


 納得していないようで、結局一人でブツブツと言って自己完結したりのドクシングルを一同は放置し、


「ゲンブ……勝手なことを……せめて工事ぐらい潰しておきたかったが……それに、第一世代の――――」

「姫……我々の望みは地上世界との戦争にあらず……今は引き際ですカメ。後日改めて交渉がよいと思うですカメ」

「……フン」


 そして同じくあまり納得していない様子のオツを連れて、ゲンブは戻ろうとし、今宵は一旦幕となる。

 ただ、その間際……


「待ってくれ、帰る前にこれだけは聞きたい」


 オツとゲンブをガアルが呼び止め……


「僕のダディ……ディクテイタは……君たちが攫ったのか?」


 それは、本来のガアルの目的。

 セイレーンに攫われたかもしれない父のことに関してである。

 すると……



「……そこのヨーセイ・ドラグと同じ……奴は攫ったわけではなく、説得に応じて自分の意志で来たと聞いているカメ」


「…………本当に全て本当のことを話したうえで……かい? そこの彼は全部納得して君たちの仲間になっていると?」


「………………」


「まあ、いずれにせよダディはやはり君たちといるわけか……ならば、是が非でも話だけはしたいのだが……。それで、本当にダディが全てを知ったうえで君たちと共にあろうとすることを選択したのであれば……そしてそれが、天空世界や地上の方々に迷惑をかけないことであれば、僕ももう何も言わないが……しかし、そうでないときは―――」


 

 とりあえず、やはり予想していた通り、ガアルの父はゲンブたちの所へ行ったことが分かった。

 ガアルもそれが父の意思で決めたことであるならば尊重する気持ちではあった。父の好きにさせてやろうと。

 パリピとの一件で全てを失った父が望んだことであり、そしてそれが他者に迷惑をかけないものであるならばと。

 しかしそうでない場合は……


「この場は仕切り直すが、僕は子として、新たなる天空王として、全力でソレを潰す」


 その両目の紋章眼を光らせて、強い口調でそう宣言した。






――あとがき――

さて、邪魔者はさっさと帰して、クロンとアースのあれやら友や家族たちの顔合わせやらと、いろいろやるべきことが山積みや。一体、『この日』はいつ終わるのやら……


話変わりますけど、カクヨムが↓こういうイベントやって、トロフィー貰えることになりました


https://kakuyomu.jp/info/entry/kakuyomu_award_program


Youtubeの金の盾やら銀の盾みたいに、サポーターが一定の人数超えてるからとブロンズトロフィー貰えます。感謝! あざす!


このお礼は近況ノートで!



(ネタバレ注意)禁断師弟でブレイクスルー・未完成先行投稿・クロンとアースの会話

https://kakuyomu.jp/users/dk19860827/news/16817330666328128602



次話以降の『未完成・先行投稿』という形でチラ見せガッツリ見せます。

完成してないと嫌という方はご注意を~!

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