第584話 今後のジャポーネ
そこで、前世界同時配信中の空の鑑賞が途絶えた。
黒幕が一つの区切りと判断したのだ。
これまでの鑑賞会では、続きが気になって悶えたり、感想を友と語り合ったり、そして時には完全燃焼でしばらく余韻に浸ったりと、さまざまであった。
しかし、今回に関してはほとんどが「絶句」であった。
それほどまでに、最後の最後があまりにもアレすぎたのだ。
セイレーン(ノジャ)の痴態があまりにもインパクトがあり過ぎて、誰もがそちらばかりが印象に残ってしまったが、本当なら今回起こったことはジャポーネ王国にとっては今後を左右する歴史の転換期である。
それゆえ、他国の首脳としても気が気ではない。
「あのゴクウやセイレーン……ジャポーネ王国の王妃どころか、ウマシカ国王も攫ったと言っていたな……一体何が目的か……だが、いずれにせよ……これではジャポーネの王政に空白期間ができる。ミカド様やコジローが居るから何とかなるとは思うが……」
ジャポーネの地でアース、エスピ、スレイヤ、そしてシノブが呆然としている中、帝国ではソルジャが他国の皇帝としての思考で今後のジャポーネ、そして今後どのような外交になるのかを気にした。
すると……
「いや……むしろ……」
「ん?」
そこで、ライヴァールが神妙な顔をしてあることに気づいた。
「先ほどの会話……あのシノブという娘……」
「あ……そういえば……」
そう、それこそセイレーン(ノジャ)の所為で頭から流れてしまいそうになったが、シノブとマクラの会話。
そして何よりも……
「そうだ。それこそ、ゴクウが現れた時……攫われそうになっていたウマシカ国王があの娘に向かって話していたことも……叔父と姪の関係で、そしてあの娘の父は……」
「うむ、あの娘は王家の血筋。父は、ウマシカ国王の弟とか……」
「ああ、そうだった! そして、思い出した……そういえば、ジャポーネの先代国王……たしか、もう一人息子が……ウマシカ国王の弟にあたる人物で……しかし、勘当されたとか」
そして、ソルジャもハッとした。
「そうか……つまり、王家の血筋は途絶えていない。それどころか……その、言っては何だが民衆の反応は……」
「ああ。あのウマシカ国王の支持率は最低と聞いていたが……しかし、あの娘や家族は……」
そもそも、ウマシカは私利私欲で圧政を民たちに強いてきた。
マクラもそれに便乗して好き放題贅沢三昧をしてきた。
それゆえ、国王への支持率は最低どころか、国民の不満は爆発寸前であった。
それが今回このようなことになった。
王と王妃が攫われて行方不明。
王座不在。だが、その血筋は居る。
そしてその者たちに対する国民の反応は決して悪くない。
つまり……
「ソルジャよ……ジャポーネは新たなる王が誕生することになるな」
「うん………………え?!」
この流れから、今後のジャポーネはシノブの家族が正統な王家の者として国を導くようになるのではないか……と、『ライヴァール』が口にした。
「「「「「あ…………」」」」」
そして、そこでソルジャもその場にいた臣下たちもハッとした。
「「「「「ライヴァール(様)がそう言うってことは、つまり…………」」」」」
「ぬっ……」
そして、まさにその頃のジャポーネでは……
「国王と王妃が攫われたけど……どうなっちまうんだ?」
「ああ、最初は『よっしゃ』と思ったし、正直……なぁ?」
「待って、でも心配いらないんじゃない! だって、ほら……」
「そうよ! 国王不在になってもこの国には……」
ゴドラが崩壊。王都の街に集っていたターミニーチャンたちも、民が戻ったころには既に姿形は無かった。
倒壊した建物の残骸が無残に溢れる街ではあるが、王都は完全崩壊とはいかず、死傷者もなかった。
何よりも、鑑賞会で世界的な人物となったアース・ラガンの大活躍を見ることができたことで、民たちの表情は明るかった。
国を統べる国王と王妃の不在ということで、ジャポーネの行く末を心配する声も上がったが、それもむしろ……
「オウテイさーん、どうか私たちを導いてくださーい!」
「そうよ、オウテイ様がいる! ミカド様やコジロー様だっているんだから!」
「なによりも、オウテイ様がこのまま国王になってくだされば、ゆくゆくはシノブちゃんが……」
「アース・ラガンくんと結婚して、アース・ラガンくんはジャポーネの……」
「うおおお、それでもういいじゃん! ウマシカ国王帰ってこなくていいというか、ゴクウたちよくやったって感じじゃね?」
と、圧政ゆえにもともと国民からの支持率が壊滅的であったウマシカとマクラが行方不明になったことを、むしろよかったと思う民衆ばかりであり、そして本来王家の人間であるオウテイを推し、人気と信頼の高いミカドやコジローに再び実権を握って欲しいと望む国民の声も大きかった。
だが……
「……と、いうことらしいけど、どうするん?」
そんな民衆の声を聞きながら倒壊したジャポーネの街に立つオウテイ一行。ニヤニヤした笑みを浮かべながら妻のカゲロウがオウテイに問う。
だが、オウテイはずっと瓦礫の破片を手に持ちながら神妙な顔をしたままだった。
「今回……結局拙者は何もしてないでござる……むしろ、苦しむ民の生活を知りながらも何もできず、ただ逃げ回っていただけでござる……」
「あんた?」
「今回、たまたまアース・ラガンくんたちが味方をしてくれてジャポーネの危機を乗り越えられた。しかし、本来ならば拙者が率先して危機に立ち向かうべきこと……それが……」
ジャポーネの危機は去り、どさくさに紛れて国王のウマシカとマクラが行方不明に。
そして今のこの状況、仮にウマシカとマクラが再びジャポーネに戻ってきても、再び王座に座ることを民の誰もが望まない。
だからこそ、オウテイを新たな王に……と推す声が上がるものの、今回何もできなかった自分の無力さを真面目なオウテイは痛感していた。
そして……
「結局兄者と同じで、拙者も無能……血筋だけで無能な者が上に立つことほど民にとって悲劇なことはない……だからこそ――」
オウテイはある決意をして立ち上がる。
「このまま兄者が戻らぬのであれば……もはや、君主一人が絶対的な権力を持つ王政は終わらせた方がいいのかもしれぬでござる……」
と、ジャポーネの長い歴史を覆す決断をしようとしていた。
「ちょっ……あんた……何を言っとるん? 王家を終わらす? それはつまりジャポーネが亡びると……」
「亡びぬでござる。国とは王ではなく民……民さえいればそこがジャポーネ……無くなるのは王家であり、今後のジャポーネの行く末は民たちが……議会政治で決めていく方が良いのではないかと思っているでござる」
「ッ!?」
それは、これまでのジャポーネの歴史、さらには連合加盟国でありながら、王家の人間が「王は不要」という考えに至ったのである。
これにはいつも夫よりも前へ出るカゲロウも言葉を失った。
そして、それは冗談などではなく本気の目だと分かったからだ。
(まぁ、拙者はもはや王の器ではないし……何よりも……その方がシノブも自由に人を愛せるだろう……。ジャポーネ王家にアース・ラガン君を迎え入れることを国民は望むかもしれぬが……彼はそんなことに靡かぬであろうし、これ以上恩人に迷惑をかけれぬしな)
と、王としてだけでなく、親としても色々と考えたうえでのオウテイの想いであった。
そして……
「……ということは、マクラは無事なのね? ……って、ノジャに攫われたのであればソレはソレで心配だわ! いくらお咎めなしというわけにはいかないとはいえ……別の意味で拷問よりつらい苦痛を……」
「さー、そこらへんはご両親とよく話し合って決めたら? 俺っちにできるのはここまで」
鑑賞会が途絶え、ようやく周囲の目を気にせずに話ができると、アースたちのもとにオウナ、アミクス、そしてガアルが駆け付けた。
先ほどのセイレーンに化けたノジャの行動の意味を知り、ホッとしたようで色々とやはり不安だったりと、シノブも反応に困っている様子。
一方で……
「アースさまぁ~、お疲れ様です。あの、と、とっても、とっても、素敵でした」
「まったく、本当に恐ろしい坊やだよ。お腹の奥がキュンと疼くほどにね♪ もう、本当に君を敵には回せないよ」
「あのさ~、アミクス。お兄ちゃんの前であんまりジャンプしながら興奮しない方がいいよ……揺れすぎ……お姉ちゃん、ダメって言ったでしょ?」
「まったくだ。僕のお兄さんの教育によくないよ……」
戦いが終わり、先ほどのアースの新技に興奮が隠せずにハシャいでいるアミクス、ガアル、そしてそれを苦笑するエスピとスレイヤで明るい空気であった。
「ったく……それにしてもだいぶ大ごとになっちまったけど、オウナ……お前がまさかパリピと裏でそんな色々とやってたとはよ……」
「はははは、感謝してくれ、アースッち。俺っちがアースっちをクーデターの英雄にしないように画策したんだから。あ、でも英雄であることには代わらないけどね」
「そうか、ま、色々と気を使ってくれてありがとよ。だけど、パリピの野郎とお前はもう一生口を利くんじゃねえぞ? マジで」
「そう? 俺っち、その六覇の人とけっこう話が合うんじゃないかと……」
「いや、マジでやめろ。マジで話すな。お前らは繋がるな」
アースは自分の知らないところでかつての旧友が裏で色々と動いたり、パリピと色々と画策していたりという奇妙で恐怖の繋がりに戦慄して釘をさしていた。
そして……
「でよ~、マクラってのは今後はとりあえずシノブやオウテイさんたちに委ねるとして、ゴクウたちがマジで連れて行ったと思われるウマシカ国王はどうすんだ? 放置でいいのか? 一応そういう話だったしな」
「……う~ん……」
「ってか、ゴクウたちのやろうとしていること、それはそれでスゲー気になるし……」
そう、もともとゴクウたちの目的はウマシカ。自分たちがウマシカを攫うため、そして自然な流れでシノブたちが今後のジャポーネに携われるようにと演技をしていた。
途中からアースとゴクウが演技を忘れて白熱したり、ノジャやセイレーンやガアルが乱入し、アミクスが爆乳インパクトを残し、ターミニーチャンやらゴドラ出現でもはや当初の流れと大きく変わってしまったものの、「ウマシカ誘拐」というのは当初の予定通りだった。
結局、ゴクウたちとはその後に会話をできないまま消えられてしまったので、実際にこれでこのまま放置でよいのかというアースの問いに、流石にシノブも答えづらかった。
何よりもゴクウたちが向かっている深海の世界での話も、自分たちは知らんぷりでよいのかというのも気になった。
すると……
『ひははははははは、気になることなら……いっそもう一度話を聞きに行ったらいいんじゃね? ねぇ? ボス~』
「「「「「ッッッ!!!???」」」」
そこに響き渡る声に、アースたち一同は「げっ」という表情を浮かべ、振り返ると魔水晶を持った謎の覆面が立っていた。
「テメエ、パリピ……よくもまあ、俺の知らんところで色々とまた……あの空のアレといい……」
『おっと、怒らないでよ~、ボス。いいじゃない、おかげであの阿婆擦れ小悪党娘の断罪とかにならなかったんだし』
アースが開口一番でパリピへの怒りを口にするが、パリピはまるで悪びれない。
「ちっ、ふざけやがって……つか、お前もう一度話を聞きに行ったらとか、ゴクウたちのアジトがどこにあるのかも分かんねえのにどうすりゃいいってんだよ」
『ひはははははははは……それは、大丈夫♪』
「は? なにが?」
『奴らの居場所は分かったから』
「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
さらりと、不明だったゴクウたちのアジトの場所が分かると口にしたパリピ。
これにはさすがにアースたち全員が絶句した。
そしてパリピは……
『(ひははは……ちょいと、忍者娘とボスは今回親密になり過ぎたからねぇ……どうにかしてボスをあの地に行かせて、アッチの娘に巻き返してもらわないと……ひははは、オレもなんて優しいキューピットなんだ! ここで、アレと再会すれば撮れ高ヤバ過ぎて、また世界が興奮で面白くなりそう!)』
と、全く別の思惑があったのだった。
――あとがき――
お世話になります。
なんか、ここ数日何やらブクマやPVが激増したりと色々あったようです。誰かの何かがバズった影響とか何とか……(ワシのTwitter(@anikkii_burazza)は平和なんでワシ発じゃないす)……てっくとっくだかTiktokだか、というのもすごいもんすね。
とはいえ、私は私でマイペースで頑張りますんで、引き続きよろしくです!
つーことで、まだブクマ(フォロワー登録)されてなかったり、「★★★」のご評価されていないかたがいたら、おなしゃすっ!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます