第452話 真逆の叫び

「うおぉおおおおおお、さっさと出てこいヨーセイ! うおおお、やめろおおおおお! やめれえええ! もう誰か止めてえええ! 空か?! あの空を破壊すればこの鑑賞会は終わらせることができるのか!? うおおおお、空なんて消えちまえええ、大魔螺旋ンンンンンッッ!!!!」


 エルフの集落で発生する巨大な竜巻はまさに天に届いているかと思えるほどの勢い任せの荒々しさ。


「ちょっ、お兄ちゃん落ち着いてってば! 肝心な声が聞こえないよぉ!」

「お兄さん、子供たちも怖がっちゃうし……」

「大丈夫よ、ハニー! どんなエッチなハニーも私はむしろウェルカムよ! 私だけはハニーを見損なわないわ!」

「そ、そうだよぉ、アース様! そ、その、そんなに、そんなにオッパイが触りたいのでしたら、わ、私のオッパイ、アース様にだけこっそり、その、す、好きにしても――――」

「ぬわははは、婿殿ォ~、スケベは男の勲章なのじゃ! しかし、乳以外の魅力を知らんのはまだまだ子供! わらわがこの魅惑のボディで朝まで本気セッ―――」

「あ~、お兄さん、ほんと集落を壊さないでね? あと、アミクス。お父さんから大事な話があります」

「そうよ、アミクス! お母さんもそんなこと許さないからね! そりゃ彼は恩人だけど、本命にしてもらえないなら悲しい思いをするのはあんたよ?」


 荒ぶるアースを宥めようとする集落の面々。

 しかし、アースは止まらない。全ては……



――ここから先は一部音声のみでお送りいたします



 それは、パリピなりの配慮なのかもしれない。しかし、配慮するのなら最初から流すなというのがアースの想い。

 むしろ、見えないからこそ色々と想像してしまう。

 


『坊ちゃま。私も……経験が無いので説得力ないかもしれませんが……仮に余程のことだったとしても……嫌がったり……ましてや、私が坊ちゃまに何をされても……嫌いになどなるはずもありませんし……それに……私とて……坊ちゃまにこういうことを教えられる日が来るのを……むしろ……』

 

『あ……お、ああああああ……でも、でもぉ……こんな……』


『坊ちゃま……ご安心ください。……旦那様と奥様には……内緒にしておきますので』



 それは、優勝したアースへのご褒美でサディスがオッパイを触らせてあげるというシーン。

 二人だけの内緒のはずが、この日、この瞬間、両親であるヒイロとマアムだけでなく世界中の人に知られてしまう。


『坊ちゃま……その……よろしければ……服の背中から手を……その……ホックを……』

『なん……の……ホック?』

『坊ちゃま……慌てないでください。がっついて、間違って引き千切るような真似は女の子に良く思われないこともありますので、覚えておいてくださいね?」

『ご、ごめ……ん……』

『力もいりません。ちょっと指を動かすだけで……』

『は、はいい……ごめ、俺、知らなくて……』

『……自分で脱ぎましょうか?』

『やっ、はずさせてく……が、んばります……』

『ふふふ、レッスン1……ですね♪ ふぁいと、坊ちゃま』


 たとえ、そのシーンが音声のみであったとしても二人が何をしているのかは明らか。

 衣擦れの音やら、サディスがくすぐったそうに時折漏れる吐息や鼻息荒いアース。

 それは、年上のお姉さんにブラジャーの外し方を教わるという、いけない授業。

 世界中の大半の男たちがこの時だけ前屈みになった。


「う、う、うううううう、サディス! どういうことだ、かなりガッツリとアースに乳房を揉ませようとしていないか!?」

「えっと、ひ、姫様……その……」

「ブブブブブ、ブラを脱いで生で触らせるとか、そ、そんな、そんなの、お、おい、まさか、まさかここから先まで行ってないだろうな!?」

「い、いえ、……私は受け入れる気満々でしたが、この時はこの後―――」

「ふぐがあああああああああ! なんということだ……うううううう!」


 カクレテールで唸るフィアンセイや……


「むぅ……何でしょう……胸がズキンってします……」

「クロン様、そのお気持ちを解消するには、今度アース・ラガンと再会したら速攻で交わる必要があります!」


 クロンや……


「……サディスったら……あそこまでアースに……」

「まぁ、昔っから異常なまで可愛がってたけど……なんだか愛玩に近い感じがしてたからな……」


 ヒイロもマアムも各々がアースとサディスの秘め事に対して反応を示していた。

 だが、結局色々と世界中の鑑賞者たちを悶々ワクワクドキドキさせながらも、この二人のやりとりは……



『ふー、はー、ふー、はー……出てこい……あんな和やかなお祭りでの遊びで……結果なんてどうでもいいとはいえ……あれで、俺の女たちは傷ついた……こふー、こふー……お前の所為だ! お前を倒す! そして、試合とは違う、実戦の厳しさってやつを―――――』



 音声のみだったものが途絶え、再び場面は情景を映し出す。

 そこには、鼻息荒くして顔面崩壊して異常な様子を見せているが、ヨーセイ。

 アースとサディスの居る部屋の壁を外から破壊して侵入して、邪魔をした。



『どうでもいいわあああああああ! ちくしょ……が……じゃま……しやがって……くそがあああああああああ、俺に恨みでもあんのか! こんな不幸があるかぁ!!』


「よーし、よくぞ登場したぞ、ヨーセイ! よく邪魔した! つーか、さっさと登場しやがれってんだこの野郎ッ!!」


 

 空に映るアースと、現在のアース。二人は真逆の発言で叫ぶ。

 一方で世界の者たち……男中心に……



「「「「ぐおぉおおお、いいところで邪魔しやがってあの野郎ッ!!」」」」



 一方で恋する乙女たちは……



「ほっ、よくぞ邪魔しに入ったぞ、ヨーセイとやら!」


「ヨーセイです! あら? どうして? 私、ヨーセイがアースとサディスの邪魔をした瞬間、ガッツポーズしてしまいました……」


「いいところで乱入してくれたわね、ヨーセイくん……だったかしら?」


「あっ……アース様結局触れなかったんだ……かわいそう……よっし……じゃなくって、えっと、これならなおさら私が触らせてあげないとアース様が可哀想……」


「ぬわははは、お預けされとるのじゃ、婿殿! まぁ、わらわの婿殿がどこぞのメイドに寝取られなかっただけでも、あの小僧ナイスというところなのじゃ♪」



 フィアンセイ、クロン、シノブ、アミクス、ノジャたちはアースと同じで世界でも珍しくヨーセイ乱入にガッツポーズをしていた。


『俺は女神クロンに救われた……生まれて初めて恋をした! そうだ、クロンこそ俺の運命の人だ! だから、クロンだけは誰にも渡さない! 大神官さんだって、クロンと俺が子作りすることを望んでるんだ!』


 だが、やがて場面は「オッパイがどうのこうの」などということがどうでもよくなるほど、とんでもない展開になるのだった。

 異常なまでに壊れて狂ったヨーセイのアースに対する怒りに対し、


『実は私は……神の意思により、大会の優勝者と結ばれて次代の神を生む宿命を定められているのです。そして、私ね、アースの赤ちゃんがいっぱい欲しいのです! 今日から不束者ですが、私をもらってください!」


 クロンが女神の笑顔でえげつないトドメを刺し、


『実は私も……このことを数カ月前にヤミディレに言われたときは、ちょっと気が重かったです。私、恋とか、男の子を好きになるとか、そういうことは分かりませんでしたが、絵本で読むような素敵な王子様と幸せに暮らすお姫様の物語と自分は違うのだな……と、ちょっと悲しかったです。ですから私、今はとっても嬉しいんです。努力家で、強くて、明るくて、友達と楽しそうに笑っている……今日だってとってもカッコよかった。私、すごくドキドキしたのです。そんなアースとこれから一緒に居られる……自由ではなかった私ですが、これからはアースを思う存分好きになって良いのだと、そしてこれからの結婚生活を想うと、と~っても胸がポカポカして嬉しいんです!』


 これまでの「アース可哀想」から「ヨーセイ可哀想」に世界の者たちが徐々にシフトしていく中で……



『クロン。別に俺はあんたのこと嫌いじゃねえが……今は結婚までするほどなんて考えちゃいねえ。順序ってもんがあるしな』



 酔っぱらい、醜態を晒していたアースの酔いがさめ、真剣にクロンと向き合って、真剣に返答しする。

 その言葉にアースを想う乙女たちはホッとしたり、微笑んだりする一方で……



『不能でも男色でもあるまいし、何を気取っている?』


『ここから先は、あんたに決めて欲しくない』



 さらにはクロンとくっつけようとしているヤミディレに対してまで一歩も引かずにそう返答したのだ。

 そうなってしまえば、かつてのヤミディレを知る者たちはゾッとした反応を見せる。


「ちょ、おいおい、アースのやつ! や、ヤミディレにあんな……」

「ころされ……てなかったけども、あの子ったらあんなことを!」


 ヒイロとマアムは命知らずの息子の発言に開いた口が塞がらず……



「……なに!? なんと……こういう展開があったのか!?」



 ハクキもまた驚いて立ち上がり、笑みを浮かべる。


『やれやれ……まぁ、意識が無くとも下半身さえ反応すればよいからな。言うことを聞けば美味しい思いをさせてやったのだが……手荒に行くぞ?』


 それは、言う事を聞かないアースに対して、ヤミディレが転移魔法でアースと二人で砂浜に移動。


『単細胞な父よりは賢いと思っていたが……一対一で、私を相手にするなど、バカとしか言いようがないぞ?』


 そこで、戦争世代たちも改めて驚愕する。


「お、おい……おいおいおいおいおいおいおい!?」

「アースったら……ヤミディレに対してあんなことを……」


 伝説の六覇の生き残りと、アース・ラガンの一騎打ち。



『何言ってんだ。俺の親父も母さんも、今の俺と同じ年齢で、あんたらや、あんたの崇める神と戦って勝ったんだろ? 俺があんたと戦って、何が悪い?』


「「ッ!?」」



 そんな父と母も含めて、ヤミディレと戦おうとしているアースに驚愕する世界中の者たちに答えているかのような言葉を、アースは自信満々に口にしていた。







 そしてこのヤミディレから始まるアース・ラガンの戦い、五部作の第二部は、パリピが最大限の配慮で編集はするものの、それでも……



「これは興味深い! あの自信に満ちた……自分というよりも『何か』を信じ切った確信に満ちた瞳。この時点でのアース・ラガンの強さでどうやってヤミディレと戦おうというのか! 吾輩が見極めてやろう」



 世界に散らばる……



「なんと……婿殿はあの頭のおかしいヤミディレと戦っておったとは知らなかったのじゃ……しかし、今の婿殿ならまだしも、先ほどの闘技大会でのレベルを見る限り……まだその域までは達していないように思うのじゃ……はてさて……ミカドジジイ、おぬしもそう思うのじゃ?」


「たしかにのう……しかし、ノジャよ。おぬしが人を頭がおかしいとか……いや、別に構わぬが……」



 者たちの中で……



「そういえば……この時の私はあまりにも激高していたためか、冷静には……とはいえ、今にして思えば何故私はアース・ラガンに負けたのか……丁度いいので反省の意味も込めてジックリ振り返ってみるか……」



 数えられるほどの限られた者たちだけは……



「ふぅ……ヒイロとマアムにもベンリナーフにもノジャにも連絡が取れない状況で……『地上世界』ではこれまたとんでもないものが流れているようだゾウ……『魔界』も大騒ぎだゾウ。そして……アース・ラガン……果たして我ら六覇の一人であったヤミディレとどれほどの戦いをできるか、興味が尽きないゾウ」



 この日、アースから努力や強さ以外の得体の知れない『何か』、本来なら絶対にありえないはずなのに、できないことをできてしまうアースの『謎』に、心底震え上がり、あることを勘づく。

 




――あとがき――

新作始めました。始めたばかりなのでこちらも連休中に読んでいただけたら嬉しいです! 超お願いします。一応、カクヨムコンに参加させちゃいましたので。


ブクマして「★」でご評価いただけるだけで嬉しいです。



『段階飛ばしの異世界転移ヤンキーと利害一致のセフレたち~乙女と1Hごとにお互いLv1アップして異世界を最下層から駆け上がる』


https://kakuyomu.jp/works/16816927859544060323



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