第427話 どういう関係?

「おいおい、アレは……フウマだ!」

「ああ、オウテイさまのご子息……フウマ様だ」

「し、しかし、あいつらに捕らえられて……まずいぞ! コジロー様もミカド様もいない今の王国軍に捕まったら……」

「くそ……あいつら……」


 大通りであることから、周囲には人が続々と集まってくる。

 やはり有名人なようで、皆がその様子をハラハラしている。

 そして、そんな周囲の状況をまるで気にせず、ただ大声を張り上げるサムライは……


「あれは忘れもしないでごわす……僕を戦碁大会で完膚なきまで叩きのめした幼少時……闘技大会でも同じでごわす……あの冷たく氷のような瞳で人を見下す、凛々しく美しい姿……さらに血統も王族……あれこそ僕の理想のジャポーネ撫子……僕の子を産む妻にふさわしいと思っていた……そのシノブを戦碁でも戦闘でも僕の前に屈服させる……あのシノブが僕に……それを一日千秋の思いで待ち続け、ついにと思ったところ……シノブがいないとはどういうことでごわす!」


 何だか随分とシノブに熱を入れている男のようだ……まぁ、多少歪んではいるみたいだけど……。

 とにかく、どうやらあの男はシノブもいると思っていたようで最初は上機嫌だったんだろう。

 今は顔から火が出るぐらい真っ赤にして怒っている。

 それに対し、シノブの兄ちゃんであるフウマは……



「ふっ、旅先でシノブとは別行動をしてな……今頃、旅先で惚れた男を追いかけ、桃色遊戯にふけっているだろう……」


「……あ?」


「遅かったな」



 なんか、火に油を注ぐような発言を……


「ねえ、お兄ちゃんのことだよね?」

「ふふふ、どうするんだい? お兄さん」


 そして、相変わらずエスピとスレイヤはニヤニヤしている。どうするって……



「ふっふ、ぐぷぷぷぷ、冗談はやめるでごわす! どうせどこかに隠れているでごわす」


「いや……本当なのだが……」


「黙るでごわす! ま、言葉ぐらいでしか僕に攻撃できない無力な今のお前には仕方ないでごわすが……あのシノブが惚れて男を追いかける? あのシノブに限ってそんな尻軽なことをするはずがないでごわす! 嘘が下手でごわすな~!」


「嘘ではないさ……あの男は……シノブが惚れるのも分かる……」


「ふ、ふん! そんな精神攻撃は僕には効かないでごわす!」



 いや……自分で言うのも照れるが、嘘ではなくて……っていうか、俺はシノブの兄ちゃんから随分と買われてるのか?

 正直、面と向かってまともに会話したことはないんだけどな。



「まったく、忍者がゴチャゴチャ喋るなでごわす! まぁ、いい! 腕の一本でも折れば、シノブも慌てて出て―――」


 

 そのとき、あのマクシタという男は這い蹲っているフウマの腕にその足を――――



「あぁあああああ、もうっ! おい、それまでにしておけ! 流石にシノブの兄貴が目の前でやられそうになってんのは、黙って見てられねーからよ!」


「「「「ッッ!!??」」」」



 流石に見てるだけなのもここで限界だった。

 俺はもう諦めて声を上げ、その輪の中に入っていった。


「ふふ~ん、待ってました♪」

「さて、お兄さん、どうなるかな? 連れて逃げるか……それともいっそ暴れるか……」


 俺に続くようにエスピとスレイヤも。

 俺たち三人に民衆やサムライ、そしてフウマたちの視線が集まる。



「ん? 誰でごわす? 外国人でごわすか?」


「……ッッ!!?? な、なにぃ!?」



 周囲がざわつき出す。そして驚きの顔を浮かべるフウマとその仲間の忍者たち。

 当然だろうな。


「よう。あんたとは久しぶりだな。シノブのお兄さん」

「お、お前は……な、なぜジャポーネに?!」

「ま~、ちょっと遊びに来ててな。正直あんたとはアカさんのことで色々と複雑なところはあるけども……それでも、シノブの家族である以上、見捨てるわけにはいかねーからな」

「ッ……それは……ん!? おい、シノブは……シノブはあれ以来お前を追いかけていたが……シノブはどこに……知っているか?」

「知ってるけど、それは後回しな。こいつらに聞かれるわけにもいかねーしな」


 そう、シノブの場所を言っちゃうと、エルフのことも話さなくちゃいけなくなるし、コジローとミカドのジーさんもいるしな。

 

「誰でごわす? シノブを知っているでごわすか? しかも、人の婚約者の名前をやけに馴れ馴れしく……お前、シノブとどういう関係でごわす!」


 そして、出てきた俺たちに不愉快そうな顔を浮かべるマクシタ。

 どういう関係?

 一応今はあんまりこいつを刺激しない方がいいかもだし、無難に友―――



「ふっ、その男こそまさに……シノブが生まれて初めて恋をした男だ」


「ッ!?」



 ――だち……ん?



「それだけではないでござる。その小僧は……お嬢に戦碁でも圧勝した男でござる!」


「……な、なにぃ!?」



 それは俺じゃない! トレイナ! 俺じゃない! 俺じゃ――――



「な、なにいい!? あの、あのシノブちゃんの惚れた男!?」


「ねえ、なに、何なの?」


「なんだか、シノブちゃんの恋人って男の人がいるらしいよ!?」


「うん、フウマさんがそう言ってるし……それ、あのシノブちゃんに戦碁で勝った?」


「お、おいおい、誰なんだ、あの若者は!」



 しかし、俺がツッコミやら否定やらをする前に、フウマやイガたちの発言が集まっていた民衆に知れ渡り、更に大騒ぎになった。

 ってか、忍者って表世界ではなく、裏の世界でどうのこうのなはずなのに、フウマもシノブも超有名人すぎるだろうが!


「シノブが惚れたぁ? しかも、戦碁で勝ったぁ? 嘘に……嘘に決まっているでごわす! だいたい、そんな何でもなさそうな男にシノブが惚れるはずないでごわす!」


 当然、そんなこと信じられないとマクシタが声を荒げる。

 だが、その発言に対してカチンときたのか、今度は俺の身内の方から……



「失礼ね、お兄ちゃんの魅力が分からないなんて、ジャポーネのサムライの隊長もコジロー以外は大したことないんだね!」


「まったくだ。少なくともボクたちの見立てでは、お兄さんとシノブはとても良いと思うし、釣り合っていると思う。お兄さんのお嫁さん候補の大本命だよ」


 

 エスピとスレイヤがまた余計なことを……お、お前ら……


「ぬぅ、なんでごわす! 貴様……ん? ……女……貴様どこかで……いや、どうでもいいでごわす! 何が釣り合っているでごわすか! そんな……そんな小さく貧弱そうな男に……男にィいいいいいいい!」


 あ~あ。二人が余計な事を言うもんだから、マクシタはものすごい怒りだして吠えたよ。

 エスピがコジローと同じ七勇者の一人ってことに気づかないぐらい、怒り狂っている。

 そして、マクシタは急に中腰になって……


「認めぬでごわす! すぐに化けの皮を剥がしてやるでごわす!」

「ちょ、おい、あんたも落ち着けよ!」

「うるさいぃぃいいいい!」


 ダメだ聞いてねぇ。こいつ、俺に攻撃してくる気か?



『ふむ……今の童には造作もない相手だし、侍の一個隊ぐらいどうということもないが……』


『トレイナ……俺もあんま気は進まねえけど……どうしよう……もういっそ暴れるか? それとも逃げるか? 俺らならシノブの兄ちゃんたち抱えても十分逃げられそうだし……』


『いや……まだ平和的に行った方が良かろう……手も出さぬ方が良いし、逃げて山狩りでもされる方が面倒だろう……』


『平和的に……? どうやって?』


『うむ……そうだな……よし、こういうのはどうだ? あっ、言っておくが、何もこれは余がやりたいとか久々に楽しみたいとか全然まったくこれっぽっちもそんなことないので、勘違いするでないぞ!』


『ん?』


『ほら、その……こやつ戦碁をだな―――』



 この状況を果たしてどうすべきかと、心の中でトレイナと相談してみると、トレイナは何だか何かを誤魔化すような話し方で俺に助言を……




――あとがき――

さて、明日からはシルバーウィークですね。ちょびちょび頑張って更新します。作品フォローも作者フォローもお願いします。


また、私の他の作品もお願いします。読んでいただける友を常に集っていますので、読んでいただけるとバンザイします。


『異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221087208484



『被追放者たちの天下無双』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426083860709


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