第426話 大捕り物

 色々とからかわれたけど、団子はすごい美味しかった。

 アミクスたちにもお土産用に包んでもらうことにして、俺たちはノンビリとジャポーネ茶を飲んでいた。

 これも帝国の茶とは違って、何だか渋みがあるけどけっこうイケる。

 そしてそんな風にまったりしながら……



「へぇ~……って、魔穴を鍼でこじ開ける!? そんなことできるの!? って、お兄ちゃんにそんな危ないことをさせたの!?」


「そんな裏技があったとは……そしてトレイナさんと組手……なるほどね。お兄さんのレベルアップも頷けるね」


「ああ。マジカルラダートレーニングから始まって、帝国にいる間だけでも色々と教えてもらったり、鍛えられたんだよ」



 これまでトレイナの存在を教えてなかったがために残っていた疑問点とか、俺がトレイナと出会ってからのこと、何を教わったとか、何を一緒にしたとか、そういうことを話していた。


『おい……そろそろ話はそれまでにしたらどうだ? 当初の目的を忘れたわけではあるまい? 余も色々と見てみたいしな』

「あ……そうだな。うん、あのさ、トレイナもそろそろ街中をもっと見た方がいいんじゃないかって。団子のお土産は後で取りにくればいいだろ?」


 とはいえ、流石にトレイナの言う通り、そろそろ話を切り上げた方がいいかもしれない。

 本当はジャポーネの中をみんなで散策したり遊んだりってするはずだったんだ。

 けど……


「え~~~、もっとお兄ちゃんとトレイナの話を聞きたい~!」

「たしかに……集落に戻ったら他の皆の目もあるからトレイナさんの話はしづらいかもだし……」

「いや、でもお前ら……流石にこれで団子だけ持って帰って、ずっと団子屋でダベってましたって言うのも……なぁ?」

「たしかに……それは悪いかもだけど……ノジャとかにスゴイ怒られそう……」

「ま、……うん……ジャポーネ軍の様子とか、民たちの様子とかもう少し知った方が良いかもだから……」


 何だかエスピとスレイヤは俺とトレイナのことについて話をする方が重要というか、いくらでも聞きたいことがあるみたいな様子だった。

 エスピとスレイヤはまだ物足りなさそうな顔をしているが、だがそれでもやるべきことはあるわけだ。

 それに、ちょっと会話を止めて周囲に聞き耳立ててみると……

 


「なぁ、聞いたかよ。この前の税務部隊の件……あれで、飴屋の嬢ちゃんも連れてかれたってよ……」


「ああ。それと、八百屋が陰で国王……陛下の悪口を言ったのがバレて連れていかれちまった……まったく、ヒデー話だ……どうにかなんねーのか? 流石にもう……国王は……」


「やめろ! どこで……忍者連中が監視してるか分からねーんだからよ……昨日、農家の連中が武器持って決起しようとしたのだって事前に潰されただろ?」


「ああ。オウテイ様、ミカド様、コジロー様、たちがいなくなって、もっとヒデー……」



 俺たちの座る席から少し離れた場所でオッサンたちが団子を食いながらコソコソ話している。

 素人なりに、結構周囲を気にして内緒話をしているようだ。

 まっ、俺たちが少し神経を張り巡らせて聞き耳立てるだけで全部筒抜けなんだけどな……


「……パッと見じゃ分からなかったけど、やっぱ民たちもスゲー反感持ってるみたいだな」

「そりゃそーだよね……トーゼン、反逆しようとする人たちだって民たちの中にもいるだろうし」

「とはいえ、なるほど……国王側の忍者戦士が街中を見張っている……どこで聞き耳立てているか分からない。そういう状況か」

『少しでも反逆や反抗の意思を示せば、粛清される……どこで情報が抜かれるか分からぬゆえに……何も出来ぬ……か』


 最初ジャポーネに足を踏み入れた時は、パッと見るだけじゃ分からなかったが、そりゃそうだ。

 まぁ、その連れていかれた女たちは全員救出して、エルフの旧集落で保護してるんだけどな。

 とはいえ、今すぐ返しても、その瞬間にジャポーネ王国軍にバレて面倒なことになる……いや、もう面倒ごとにするんだけど……




「今だ、確保ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



「「「「「応ッッ!!!!!」」」」」




―――――ッッ!!??



 

 そのとき、全く予想もしない声が店の外から聞こえてきた。

 

「え、なに!?」

「私たち……じゃないよね?」

「あ、うん、店の外から……」

『ふむ?』


 ビックリした。俺たちだけじゃなくて団子屋のお姉さんや、さっきコソコソ話していたおっさんたちも自分たちのことかと思って顔を真っ青にして椅子から落ちてやがる。

 でも、どうやらこの場に居る俺たちに対する何かじゃなさそうだ。

 外?

 俺たちは席から立ちあがって、外に出てみた。

 すると、


「うわ、なんだ!」

「なんか、民の人たちが誰かを捕まえた……のかな?」

「それに、あ、民たちが……違う、民の格好をしているが……体つきや、服の中にも隠し武器が確認できる……あれは、忍者戦士たちだ!」

『どうやら、私服で警備していた忍者戦士たちが誰かを捕まえたようだな……』


 外を見ると大きな人だかり。

 その中心では、民に紛れた忍者戦士たちが誰かを捕まえた?


「大人しくしろ!」

「ふ、ふははは、まさかお前たちが帰ってきているとはな!」

「だが、これは大手柄だ! 待っていろ! 既に侍戦士隊を呼びに行っている」

「これは特別ボーナスを期待できるかもしれん」

「ああ……それに侍どもも、少しは俺たちの評価を変えるかもしれん」


 犯罪者(?)を捕まえたことに目に見えて喜びの様子を見せる忍者戦士たち。

 冷遇されているという忍者戦士たちからすれば、手柄を上げることは嬉しいことなんだろう。

 だが、一体誰を……


「くっ……不覚……拙者としたことが……」


 押さえつけられているのは、三人組の男?

 そのうちの一人が悔しそうな声を……ん? 今の声……どこかで……



『あっ……童、よく見ろ。あやつは……』


「ん?」



 そこには、コジローが被っていたような編み笠を被っている三人の男で、その内の一人が編み笠をはぎ取られて素顔をあらわにした。

 そして……


「あっ! あいつは……」

「お兄ちゃん、知ってるの?」


 眼帯を付けた、整った顔立ちをした黒髪の男。

 思い出した。あいつは確か……



「ほ~……帰ってきているという噂は本当だったようでごわすな。それにしても……くくく、かつての同僚に捕まえられるとはどういう気分でごわすか?」



 そしてその時、大通りに十数人の侍戦士たちが現れた。

 どいつもこいつも厳しい顔つきと、帝国騎士たちと遜色ないオーラを放っている。


「マクシタ隊長! 我々がこやつを確保―――」

「忍者もまだ役に立つでごわすな。この手柄で、僕もまた出世しちゃうかもでごわす! パパも大喜びでごわす! なんせ、現在の超重要人物の一人でもあるこの男を、僕が捕まえたでごわすから!」

「……あ、あの……捕まえたのは、わ、我々……」

「ん~? ……ごっつあんです♪」

「ッ!?」


 特にその先頭の男は一際巨漢。黒髪を頭の上で縛っている。

 ただ、顔つきは口調と同様に少し幼い? あと、何かいやらしくニタニタしているのがイラっと来る。



「お、お前は……」


「久しぶりでごわす。フウマ・ストークッ!!」



 その巨漢のサムライはそのまま捕らえられている男の名を呼び、次の瞬間他の民たちもざわつき出す。

 そう、あの男は! かつてアカさんをイジメ……って、そうじゃなくて……



「……捕まってんの……シノブの兄ちゃんだよ」


「え、そうなの!?」


「なんと……」



 そう、シノブの兄ちゃんだ。ジャポーネに帰ってきてたのか。しかも捕まっちまって……あと、一緒にいるのはイガとコウガとかって……



「お前は……マクシタ・リキシ……侍将軍のジュウリョウ・リキシの息子……隊長とはいつの間にか出世したではないか……」


「ぐふふふふ、そういうお前は随分と落ちぶれたでごわす。抜け忍になり、そしてお前の父も母も……ぷぷぷぷぷ」


「……黙れ……将軍家の七光りめ」


「あ~あ、負け犬の負け惜しみは痛くも痒くもないでごわす。それと僕自身も……ふん!」


 

 互いに顔見知りのようだが、あまり良好な関係ではなさそうだ。

 さらに、マクシタとかいう男はサムライ戦士の制服の上着を脱いでその肌を見せた。


「見るでごわす! 僕はもうお前が知っているころの僕ではないでごわす! ジャポーネ全戦士の中でもトップクラスのパワーを誇るでごわす!」


 デブ……じゃなく、まあまあ硬そうな筋肉してるけど……


「う~ん……」

「あれだけのオーガを見た後だと……」

「見劣りするというか……」

『そっぷ型だな……肉のつき方も非力だな』


 正直あまり誇れるようなものでもなさそうな気もする……と、思ったら、エスピ、スレイヤ、トレイナも厳しい評価。

 しかし、自分に自信のあるマクシタとかいう男は更に吠える。



「さらに、僕はこの前に行われた18歳以下のジャポーネ戦碁大会で優勝したでごわす!」



 それはフツーにすごい! いや、でもそれが何か関係が……


『……ほう』


 あれ? なんか、トレイナがそこだけは反応?



「ふん……シノブが出ていなかったからだろう……」


「……ぐふふふ、言うと思ったでごわす……大会優勝後に周囲もそんなこと言っていたでごわす。そこで、僕は今日その決着もつけようと、ワザワザ戦碁盤を部下に持たせ……って、おい! シノブはどこでごわす!」



 すると、シノブの兄ちゃんのツッコミに対してマクシタはハッとした様子で辺りを見渡した。

 シノブ? シノブは……



「シノブはどこでごわす! 一緒ではないでごわすか? 一緒に抜け忍したはずでごわす! シノブ……僕の花嫁! 力でも戦碁でもシノブより遥かに強くなった僕があいつを屈服させ、そして僕の女にするでごわす! それなのに……逃げたでごわすか!」


 

 ……な、なにぃ? お、おい、これって……



「おお、意外な展開。ぷっ、ご、ごめん、お兄ちゃん……なんか、ぷっ、うふふ」


「ふふふ、状況はシリアスなはずなのに……ふふふ、お兄さんにライバル登場かな?」



 なんか、エスピとスレイヤがものすごい笑ってるし。

 いや、俺にどうしろと……いや、シノブの兄ちゃんを放っておくわけにもいかないけども……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る