第424話 遊びに行こう

「えっ、メンドクサイのじゃ。あやつらも子供じゃないんだし、勝手に帰れるのじゃ。帝国の連中もおるし……コジロー、あとよろしくなのじゃ」


「そういうわけにはいかないじゃない。昨日の集落でひとまず待機してもらっている帝国と魔界の調査団。それと捕虜のお嬢さんたち。ちゃんと彼らに今のジャポーネの状況を説明し、今後について相談しないとじゃない」



 昨日の激戦や宴から一夜明け、タピル・バエルの集落ではこれからのことについて話し合いが設けられていた。

 ハクキの配下であるオーガたちによって捕虜にされていた、帝国と魔界の調査団のメンバーやら、ジャポーネ王国で税の代わりに拉致された女たち。

 彼らは一旦囚われの身から解放したうえで、ハクキ達から奪還した旧・エルフの集落にてそのまま待機してもらっていた。

 彼らにこのタピル・バエルについて知られたくなかったのと、人数が多かったことが理由である。

 それに、ここから少し距離が離れているが、何かあれば族長の能力で動物たちから知らせを受けられるし、ラルウァイフのワープですぐにたどり着けるので。


「うう、やなのじゃ! わらわはせっかく正気に戻ったのじゃ! 婿殿とイチャイチャえちちなことをいっぱいしたいのじゃ! もう魔界政府の仕事とかどうでもいいのじゃ! それよりも、わらわは妊活に専念したいのじゃ!」


 そして、魔界の調査団もいるんだからノジャもそっちの仕事に……と当たり前のことなのに、寝転がってオモチャを買ってもらえなくて駄々をこねる子供のような態度を取るノジャに、コジローたちは頭を抱えていた。

 てか、妊活って生々しすぎる……恋人すらできたことないのに……


「そうは言っても、今のオイラたちはジャポーネからすればお尋ね者。オイラたちだけで彼らの所に行っても色々疑われそうじゃない? エルフの方々に頼むわけにもいかないし……それに、帝国出身とはいえお兄さんは―――――」


 苦笑しながらコジローはノジャを説得する。

 そう、帝国と魔界の調査団の連中とこれからについて話をするにしても、今のコジローたちは反政府側。

 そして俺は……



「私のお兄ちゃんを、帝国なんて腐った国とは今後一生関わらせないから! ヒイロとマアムと皇帝のソルジャくんが土下座したってダメだから! ぷんだっ!」


「まったくだ。ボクのお兄さんを、あんな器の小さな愚かな人間たちが集う国の連中なんかと関わらせてたまるか。ましてや、お兄さんの心に深い傷を負わせた国……正直、ボクが滅ぼしたいくらいだ」



 一応帝国出身とはいえ、あんな形で国を出た俺が出ていくと変なことになりそうだし……そもそも、エスピとスレイヤの二人が、俺が帝国と関わるのは断固反対と俺を左右から抱きしめながらコジローにアカンベーした。

 そういや二人はあの御前試合での出来事も見ていたわけだしな……


「というわけで、適任者がノジャしかいないじゃない?」

「ぬわあああ、やなのじゃぁああ! もう、わらわも退職したのじゃ~! わらわはもうフリーダムなのじゃぁ! なんで昔の職場の連中の面倒見なければならないのじゃ~!」

「昔って……昨日まで同僚じゃない?」

「ふんがああああああああああ! 婿殿ぉおおおお!」


 そういうわけで、今日はノジャ、コジロー、ミカド、ラルウァイフたちはそっちの仕事をするということになった。

 そのうえで、オウテイさんたちと亡命できるかとかそういう重たい話もあるんだろうけど、とりあえずそこに俺が関わることはなかった。


「あは……あはは、ノジャちゃんも困ったさんだね……昨日、シノブちゃんが言ってたことと真逆のことをやってるね」

「そうね……ハニーもすごい人に惚れられたものね……まっ、最後に孕むのは……じゃなくて、最後に笑うのは私だけどね! ……いえ、間違ってないわね……いや、孕むのはむしろ最初だからやはり間違っているわね……」

 

 そんなノジャの姿に苦笑するアミクスとシノブ……おい、シノブ……幻聴じゃなくて、ハッキリと聞こえてしまったんだけど……ツッコミは入れないようにする。



「まっ、とりあえずオウテイさんとカゲロウさんたちは今日もここでゆっくりしていけばいいよ……逆にあなたたちが大人数で外でウロチョロして、敵連中に見つかってゴチャゴチャする方がこっちにとっても嫌だし……」


「族長殿、かたじけないでござる……」


「ほんま、感謝しかありまへんえ」



 というわけで、連日のバトルの日々も一旦落ち着いて、今日は一旦お休みって感じになっちまったな。

 まぁ、冷たいことを言うなら、ジャポーネの問題も帝国や魔界の調査団の問題とか、「俺たち」には関係のないことなわけで、別にこのままどこかへ行ってもきっと誰も咎めない……が……


「さて……俺たちは……」


 もし、この場にこれ以上留まるってことは、否応なしに今後のジャポーネの問題に関わることになるだろう。

 目の前で、シノブたちが王国側連中と戦ったりして、それを無視するなんてことは絶対にできない。

 そういう意味では俺はもうこれからのことに関わらざるをえなくなるわけだが……


「お兄ちゃん」

「エスピ……?」

「どうしよっか? 私は別に何するにしてもお兄ちゃんについていくだけだから」


 そんな俺の頭の中での悩みを見透かしたかのように、エスピが俺に呟いた。

 スレイヤも同調するように頷いてきた。

 どうやら、二人とも分かってるみたいだな……俺がゴチャゴチャ考えすぎてまだ結論出せていないこと……いや、違うな……結論はもう出てる。



――シノブちゃんは助けを求めるよ? 口に出さなくても、そういう雰囲気を出しちゃうよ?



 昨日、コマンが言っていたことだ。

 今のところ、シノブはそんな態度を見せていない……いや、見せないようにしているだけだろうけど……でも、あいつの言ってることは正しい。



――マクラは私の小さい頃からの同級生で、クラスメートで、友達なの!


 

 あのとき、あれだけ悲しそうに叫んだシノブが忘れられない。

 シノブの危機なら、やっぱり俺は助ける。

 だから、結論は出てるんだよな。

 内政干渉みたいなことはしたくない……けど、シノブの危機なら助ける……そういうことだ。



「まっ、放っておけるわけないし……つか、そもそもこのままこの問題を放置したらエルフの皆も危ないかもしれないし……だろ?」


「うん!」


「まっ、そういうことだね、お兄さん」



 俺の意思を尊重と言いながらも、エスピもスレイヤも俺がどうするかなんて分かりきっていたようで、笑顔で頷いた。

 というわけで、俺はこのジャポーネの問題にガッツリ関わる。



『……ってことで、いいか? トレイナ』


『好きにするがよい。そもそも……友のピンチだが内政問題なので空気を読んで何もしませんでした……などという理屈をいつまでもこねるのは貴様には合わぬ』


『はは、そりゃそうか』



 トレイナも俺が決めたことならばと、特に反対するでもなく頷いてくれた。



『とはいえ、あまり何も知らぬまま関わるというのも問題だしな、童よ……今日は暇だというのなら―――』



 そして、トレイナは更に俺に提案。

 それは実に面白そうなことだった。

 トレイナの言う通りだし、俺もせっかくここまで来たんだし……



「なぁ、エスピ、スレイヤ!」


「なーに?」


「なんだい?」



 だから……俺たちは……



「今日はやることなさそうだし、せっかくだから今日はジャポーネの王都に遊びに行かねーか? 俺らは別にお尋ね者ってわけじゃないんだしよ」


「「ッッ!!??」」


「「「「「ッッ!!!???」」」」」



 まずは現地に行って自分なりにジャポーネという国を感じてこよう。

 そんな俺の提案にエスピとスレイヤだけでなく、シノブたちも驚いたように振り返った。

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