第379話 忍者たち

 トレイナがほくそ笑みながら口にした「六覇や七勇者を引き寄せる俺の体質」というものは、一瞬何のことかと考えたが、俺もすぐにハッとした。

 ジャポーネ王国内の領土。

 俺のマジカルレーダーを察知するほどの超感覚の持ち主。

 七勇者。

 そんなの一人ぐらいしか……


「まさか……あいつ……」

「お兄ちゃん?」


 というか、あの男しか考えられない。

 それほどまでにあの男の感知能力にかつての俺はゾッとさせられたからだ。


「なぁ、エスピ……ジャポーネで……メチャクチャ感知能力スゲー奴ってさ……『あいつ』以外いるか?」

「……へ? ……あ……」


 俺がそう尋ねると、エスピも表情が引き攣った。

 どうやら、今のでエスピも察したようだ。


「なになに? お兄さんとエスピは何が起こってるか分かってるの?」

「あ~うん……多分だけどな……たぶん……七勇者の……コジロー……」

「えっ!? ……え?! 七勇者!? の、コジロウ!?」


 流石に族長も驚いたようだ。

 そりゃそうだ。

 ただ、問題なのは……


「でも、そうなると……お兄ちゃん、『どっち』か分かる? 追われてる方か……追ってる方か……」


 そう、問題なのはあの男が『どっち』なのかだ。

 そして、どういう状況でそうなっているのかだ。

 それに対して、俺たちはどういう立ち位置に居ればいいのか……


『童、左右を囲まれているぞ』

「!?」


 そのとき、トレイナの言葉に俺はハッとして身構えた。

 コジローのことで周囲の警戒を怠っていた。


「エスピ! 左右だ!」

「……だね! うんっ! 族長さん、伏せて!」

「お、おお!」


 流石にエスピもほぼ同タイミングで気づいたようだ。

 咄嗟にエスピと頷き合って、背中を預け合うように身構える俺たち。

 そして、向こうも丁度俺たちに向かって……



「むっ……違う、やつらではないか……」


「貴様等、何者……ここでなにを……ッ!? なっ、こ、この女は……」


「あっ!? 七勇者のエスピ!?」


「な、き、貴様等、まさか逆賊コジロウの援軍に……聞いてないぞ、こんなこと!?」



 俺たちを挟み込むように現れたのは、黒い装束に身を纏い、顔も覆面で覆っているいかにも怪しい四人組。

 その手には独特な短いナイフのような武器……クナイと、短い刀を背中に背負っている。



「忍者戦士だよ、お兄ちゃん!」


「忍者戦士? ってか、逆賊コジロウ? おいおい、どーなってんだよジャポーネ王国! つか、どうする? コジローは追われている方か?」


「ど、どうするって……いや、私たち別にコジローを助けに来たとかじゃなくて、状況何も分かってないから、ちょっと待って!」



 朝の新聞に書いてあったように、何やら大きい出来事が起こっている様子のジャポーネ王国。

 七勇者で英雄のコジロウが、味方であるはずのジャポーネの戦士たちに追われて逆賊呼ばわりされているんだから、かなりヤバい事態だ。

 とはいえ、俺たちは特にどっちの味方とかそういうことではないわけで……



「問答無用!」


「七勇者同士の合流を許すな!」


「その通り、我らが『ボス・シテナイ』の信頼を得るためにも、ここでその首を―――」


「知らぬガキも居るが一緒に殺れ―――」



 だが、向こうに落ち着きやら、話をしましょうっていう雰囲気でもないので、俺らの事情おかまいなしに武器を手に突っ込んでくるので……



「だから……待ってって言ってるでしょ! ふわふわパニックッ!!」


「「「ばぎゃああああっ!!!???」」」



 エスピの能力で全員前後左右に激しく揺さぶられ、四人の忍者戦士たちは悲鳴と同時に失神してしまった。



「まったくも~……私に勝てるわけないじゃん……てか、お兄ちゃんを殺すって言った? イッタノ? ネエ、ダレコロスッテイッタノ? エ? ブットバスヨ?」


「……お、おい、その辺で……気絶してるし……お兄ちゃんは大丈夫だから……」


「お、おお……流石はエスピ……てか、今こいつら結構重要そうなこと言ってなかった? 全員気絶させて良かったの?」



 俺が何かするわけでもなく、手を翳しただけでアッサリ手練れの戦士を倒してしまったエスピ。

 ってか、怖い……お兄ちゃんお前のそんな暗黒の瞳を知らない……

 

「なんだ? 向こうで大きな音が……何の騒ぎだ?」

「逆賊たちに援軍か?」

「くっ、おのれぇ……陣形を崩すな! 『オウテイ』、そしてコジロウと『カゲロウ』だけは逃がすな!」

「すまない! また奴らの一団を見失った! 奴らめ……チョコマカと……」

「死んでも探し出せ! とにかくあの三人と配下共さえ殺れば一生遊べる褒賞が組織より与えられる」

「そうだ……国王陛下も……侍共も我らを認めるだろう」

「とにかく向こうに行くぞ!」


 っと、そんなことしている場合じゃなくて、とりあえず百人ぐらいいるんだったな。

 もう、今ので俺たち側も気付かれたか?


「なんか……余計に場が混乱しちまったな……続々と集まってくるぞ?」

「メンドクサイな~……よし、お兄ちゃん。私がまずは全滅させるよ♪」

「……あの……お兄さん……エスピ……コッソリ様子見って話はどこに……」


 隠れて様子を伺いにいくだけだったのに、どうやらそんなこと言ってる場合じゃなさそうだ。

 族長が情けない顔して顔を引きつらせる気持ちも分かるが、とにかくどうにかしねーとな。


「いたぞ、こっちに誰かいるぞ! 三人いる!」

「誰だ? 『オウテイ』か? コジロウか? それとも、『カゲロウ』か!? それとも奴らの配下か?」

「構わん、始末しろ! この地に居る我ら以外の者たちは全員敵と思え!」


 レーダーを張るまでもなく、とにかく何十人もの連中が俺らの周囲を取り囲むように集まってきているのが分かる。

 

「やばい……この騒ぎで森の鳥たちも、他の動物も逃げちゃった……俺がここに居る意味もなくなったんだけど!」

「落ち着け、族長! 俺とエスピが守るからよ!」

「そうそう、アミクスを……妹を悲しませたりなんかしないから、安心して!」


 この様子だと敵は全員が忍者戦士なんだろうな。

 しかも、話の通じなさそうな。

 それに……


「ぬ? オウテイたちではない……」

「貴様等……どこの……ぬっ!? あっ……き、貴様等、そ、そこで倒れているのは……」

「わ、我らの仲間を……貴様等!」


 林の中、周囲の木の枝の上、そして俺たちの目の前に姿を現す忍者戦士たち。

 そして、姿を表わせたと同時に俺たちの足元に倒れている、エスピが倒した忍者たちを見て驚きの声を上げた。

 そう、こいつらの仲間もこうして既に倒しちゃってる以上、落ち着いて話ができるわけもない。



「あのねぇ、そいつらが私の話を聞かないで―――」


「黙れ! 貴様らやはり奴らの仲間か! 馬鹿どもめ! もはや逆賊となったコジロウたちと共に、役にも立たぬ『オウテイ』なんぞを担ぎ上げて愚道を歩むと……ん? この女……どこかで……」



 そして、案の定こちらの話を聞く様子もない。

 ただ、向こうがエスピの顔を見てハッとして驚いた。

 なら、この瞬間に一気にこいつらの顎でも撃ち抜いて気絶させてやる。


「いくぞ」

「りょーかい、お兄ちゃん!」


 俺のジャブとエスピの能力でまずはこいつらを――――



『……童、霧だッ!!』


「え……」


「あれ?」



 その時だった。辺り一面を突如深く、何も見えぬ霧が出現して一気に俺たちの視界を奪った。

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