第364話 全てが繋がった

「危ない、ダメ! アースくんは逃げて! 私が―――」


 一斉に襲いかかってくるハンターのオッサンたち。

 怯えていたアミクスが慌てたように俺の腕の中でそう叫ぶが、心配無用。

 全て一瞬で終わらせる。


「ふっとばされないように捕まってろ!」

「え?」


 片腕を離して、お姫様ダッコしてたアミクスの両足を地面に降ろす。

 だけど左腕はアミクスの肩を抱き寄せたままだ。ふっとばされないように。

 そして、俺は右腕を掲げ……



「そして、テメエらは果てまでふっとべ! 大魔螺旋ッッ!!」


「………………え?」



 右腕を天に掲げて、全てを吹き飛ばす螺旋の渦を発生させる。


「わっ!?」

「ぎゃっ!?」

「うおっ!?」

「ぬわあが!?」


 その渦に飲まれて四人のオッサンたちをとにかく天高らかにふっ飛ばす。

 そしてテキトーな所で回転を解除すると、打ち上げられ、ボロボロになったおっさんたちがそのまま地面に落下。

 ピクピクと体を痙攣させて横たわるその姿。もう立ち上がって戦うこともできなそうだな。

 ただ、森の木々も激しくなぎ倒し、荒れ果て、かなり自然破壊な気もするから、あとで族長に謝って……


「あ……アースくん……」

「っと、大丈夫か?」

「…………」


 俺の腕の中に居たアミクスがポカンとした顔で呆然としている。



「ん? アミクス、顔赤いぞ? 熱でもあるのか?」


「…………」


『おお、ついに童がそんなセリフを口にするとは……』



 どうやら驚かせすぎたようだな。

 って、トレイナがやけに呆れたような表情してるけどどういうことだ?


「とりあえず、もう心配いらねえよ。こいつらのことは後でスレイヤに……」

「……どうして……」

「ん?」

「どうして……アースくんが……その技を……?」

「なに?」


 技? どうして? 大魔螺旋のことか? どうしてって……いやいや逆に……


「逆にアミクスは知ってるのか? 大魔螺旋」

「ッ!? やっぱり、やっぱり……今のって、大魔螺旋!? なんで!? なんでアースくんがその技を使えるの!? なんで!」

「え? いや……なんでって……」


 やけに驚いた様子で詰め寄ってくるアミクス。まてまて体を押し付けて来るな柔らかいけど無心に。


「ぐ、ば、かな……お、俺らを……いっしゅんで……」

「ん?」

「ただもの、じゃねえ……こぞう……てめえ、なにもんだ!」


 そのとき、ハンターのおっさんの一人がボロボロで立ち上がれないまでもかろうじて意識だけ取り戻し、俺を睨みつけてきた。

 俺はその問いに……



「俺の名はアース。アース・ラガン。世界を目指す男だ。覚えておきな」


「……な、に……?」


「ッッ!!??」


 

 俺がそう名乗ると、オッサンも、そしてアミクスも目を見開いて……って、何でアミクスも驚く? 名乗ったろ?



「アース・ラガン……だと? じゃ、あ……テメエが……」


「ん?」


「なんてこっ……た……てめ、が……『シテナイ様』が……探して、いた……」


「は? シテナイ? 誰だ?」


「がくっ」


「っておい! 気になること言って気絶すんな!」



 完全に気を失ったオッサン。なんか俺の名前にやけに驚いていたけど、俺がそこまで有名に? 

 いや、世間に知られるようなことはあまりしてないはず……


『トレイナ。シテナイって知ってる?』

『知らんな。まぁ、童も家出した勇者ヒイロの息子ということで色々と変な噂が広まってるのかもしれんがな』

『ええ?』


 たしかに、「ラガン」の名前に反応したのかもしれねえな。

 あっ、それならアミクスも……


「ラガン……ラガン……まん……」

「ん?」

「……ラガーンマン……」

「なにっ!?」


 まさかの意外な名前がアミクスの口から飛び出した。

 大魔螺旋だけじゃなく、どうしてその名前を?


「ラガーンマンで……大魔螺旋……アースくん、あなた、一体……一体どうして!」

「それはこっちのセリフだよ。どうしてその名前を知ってる? スレイヤとエスピにでも聞いたのか?」

「どうしてって! だって、だって、英雄ラガーンマンは……お父さんが書いた、私たちの集落でしか存在しない小説なんだから!」

「……ん?」


 え? ラガーンマン? 英雄? 小説?



「ラガーンマン……しょ、小説って?」


「物書きをしているお父さんが十年以上前に書いた小説! 『ラガーンマンの冒険』! その主人公のラガーンマンの必殺技が大魔螺旋なの! あの小説は私たちの集落の中だけでしか伝わってないのに……なんでアースくんが知ってるの? 兄さんや姉さんに教わったの?」



 ラガーンマンの小説? いや、それって……え? 俺のこと? 俺が題材で小説? 

 いやいや、それより……


『ぷくくくく、ラガーンマンの冒険……くくく……』

『おい、笑ってる場合じゃねえよ、トレイナ。それより、これって……』

『ああ、話から察するに……ふふふ、この娘……族長の……』

『だよな!』


 小説を書くエルフなんて一人しかいない。俺は興奮して、


「なあ、アミクスってまさか、族長の娘か!?」

「え……う、うん……そうだけど……」

「くはははは、なーんだ、そうかそうか! 族長の娘か! なんてこった、すげー偶然だな!」

「え? あ、え? え?」


 まさかアミクスの父親があの族長だったとはな。しかも俺を題材に小説だとか、何だか照れくさいぜ。

 それにしても……


「ちょっと、顔をよく見せてくれ」

「ふぇ?!」

「ふ~ん……」

「あ、アースくん!?」


――どきん♪ どきん♪ どきん♪


 改めてアミクスの顔を間近でよく見てみる。


「族長にはちょっと似てないけど……奥さん寄りか?」

「あ、あのぉ、あ、アースくん……」


――ドドドドドドドドドドドドド!!!!

 

 つっても、どうしてあの奥さんからこんな胸が……じゃなくて……


「あ、あのぉ、ち、ちかいよぉ、アースくん」

「あっ、悪い」

「う、うぅん……だ、だいじょうぶ、だよ……それより、あ、アースくんはお父さんとお母さんのことも知ってるの?」

「まーな」


 いずれにせよ、そうか……俺にとってはついこの間の出来事なのに、エスピとスレイヤがそうだったように、こうしてあのとき生まれていなかった族長と奥さんの子供が俺と同じ歳でこうして会うことができるなんて、やっぱり時間はそれだけ経っているんだな。



「説明は後でするよ。でも……奇妙な感じだが、会えてうれしいぜ。アミクス」


「ッッッ!!!???」


――ズキュウウウウウウウウウウウウウウン♡♡♡


『あ、童……貴様……今……』



 十数年前の過去はちゃんとこうして今に、全てが繋がったわけだ。

 あのとき、オーガたちにエルフが滅ぼされていたらこんなことにならなかった。

 俺がやってきたことや、アオニーが命を懸けたことに、意味はちゃんと……



「お兄いちゃああああああああん!!」


「おにいさああああああああああ!!」



 そのとき、遠くから砂煙を上げながら物凄い勢いで走ってきて俺の名を呼ぶ二人。


「おお、エスピとスレイヤだ」

「ポ~……アースくん……♡」

「おーい、ここだー!」


 俺が手を挙げて二人の名前を呼ぶ。血相を変えてた二人が俺の顔を見た瞬間、安どの表情を浮かべ……


「やった! お兄ちゃん見つけた! 無事だよ! って、なんかすごい木々が荒れてるけど、なんで?」

「お兄ちゃん、一体何が……ん? ねえ、エスピ、お兄さんと一緒に誰かが……」

「うん……あれは……」

「あれ? ……あれは……アミクスッ!?」

「え? 何でお兄さんとアミクスが……ッッ!?」

「お兄ちゃんとアミクスが一緒に!?」

「どうして? 偶然? アミクスはまさか結界の外に黙って出て……?」


 あれ? 何か二人がすごい急に焦りだして……しかも顔を青くした?

 なんでだ?



『……ふむ……族長の娘……ラガーンマン……実在しない憧れ……エスピとスレイヤのあの様子……ああ! そういうことか! 全てが繋がった』



 そして、俺の傍らのトレイナだけが何故か一人納得したようにポンと手を叩いた。


「だ、大丈夫だよね? いくらお兄ちゃんでも、まだ、大丈夫だよね! 出会ったばかりだよね?」

「あ、当たり前だ! だって、ボクたちと離れて一時間も経っていないんだから、まだ大丈夫なはず!」

「だよね……あ~、もう、こんなことなら回りくどい言い方しないでストレートに言えばよかったよぉ……」

「とにかく手遅れになる前に!」

「お兄ちゃああああああん!!」

「お兄さぁああああああん!!」


 血相変え、安堵し、焦り、そして青くなり、また血相変えて……なんなんだ?

 ただ、うるさいくらい叫ぶ妹と弟の声にかき消され……






『そういうことか……つらいことになるからな……人間とエルフでは時の流れが……寿命が……いつまでも一緒にはいられぬからな……』





 その時のトレイナの呟きを……















『いつまでも一緒にはいられぬ……か……』




 


 俺は聞き取ることが出来なかった。

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