第365話 そんな都合のいいこと……
「なるほど~。つまり、お兄ちゃんは新技でこの山にぶつかって、その際にたまたま偶然通りがかったアミクスと出会って、友達になって、そのときたまたま悪いハンターたちに遭遇して、アミクスをお姫様抱っこしたり、肩を抱き寄せて守ったり、そして最後は……大魔螺旋でドッカーン……で、当ってる?」
「お、おぉ」
ものすごいニッコリと笑っているエスピ。だが、この笑顔は俺が知っているエスピの笑顔じゃない。
なんだろう……すごく怒っている時のサディスの笑顔に似ている気がする……
「ねえ、兄さん……アースくんって何者なの? なんで、兄さんと姉さんの方が年上なのに『お兄ちゃん』って呼んでるの? なんでラガーンマンで大魔螺旋で……どういうことなの? ……あんなにカッコいいけど……やっぱり恋人とかいるのかなぁ? いるよね……」
「あ~、とりあえず、怖かったね。無事で何よりだよアミクス……無事……無事なのかなぁ? これは無事と……? う~ん」
「とにかく、早く色々と話したいな~……姉さんたち、何の話をしてるの? 集落に帰ってからじゃダメなのかな~?」
そしてちょっと離れたところでスレイヤとコソコソ話をしているアミクス。スレイヤは苦笑しながらアミクスの頭をよしよしと撫でているけど……どうした?
「はぁ~~……お兄ちゃん……」
と、笑顔だったエスピが頭を抱えて溜息。溜息? エスピが俺に?
「もう、お兄ちゃんがカッコいいのは分かってるよ……でもぉ……」
「ん?」
「ちょっと、迂闊すぎるよ」
「な、なに?」
まさか、子供の頃はあんなに「ぶっとばす」ばかりだったエスピから「迂闊」という言葉が出てくるとは……成長したな……エスピ。
って、そうじゃなくて、どういうことだ?
「とりあえず、もうこうなっちゃった以上は……うん、お兄ちゃんちょっと来て」
「ん?」
そして、スレイヤとアミクスからさらにちょっと離れた場所まで俺を引っ張るエスピ。
何事かと思ったら俺を引き寄せて耳元で……
「あのね、お兄ちゃんは……ラガーンマンはアミクスの憧れなの」
「は?」
あまりにも唐突なことで、マジで聞き返してしまった。
なに?
「お、おい、エスピ……何を……あれ? つーか、ラガーンマン? それって俺?」
「うん。あのね、お兄ちゃんが未来に帰った後……族長が……」
「ああ、アミクスに聞いたよ。なんか、族長が俺を題材に小説書いたとか……」
「そうだよ~。それで、アミクスはその小説がすっごい大好きで……で、主人公のラガーンマン……つまり、お兄ちゃんはアミクスの理想の人なんだよ~」
「…………ッ!?」
思わず俺は振り返ってアミクスを見る。
スレイヤに色々と興奮した様子で問い詰めている……問い詰めようと体を揺らすだけでボインボイン揺れて……あいつの理想が俺?
「へぇ……それは嬉しいやら恥ずかしいやら……まぁ、つっても理想は理想であって……大体小説つったら俺もだいぶ美化されてんじゃねえのか?」
「そんなこと……ないし……実際、お兄ちゃんは超カッコいいし」
「そうか? でもさ、俺らついさっき出会ったばかりだしよ、そんな慌てること―――」
「出会ったばかりとかカンケーないよ。私もスレイヤくんも出会ってすぐにお兄ちゃんを大好きになったもん」
「あ、そ、そうか……」
とは言っても、出会ってすぐに恋とかなんとか、そんな都合のいいことが――――
――ハニー! 私は君にゾッコンラブなのよ!
あったよ……そんな都合のいいこと経験済みだったよ。
「理想ねぇ……しかし、そんな……」
そりゃ、エルフで美人で可愛くて感情豊かで胸がサディスよりはるかに大きくて、俺を理想の男とか思ってくれている女の子がこの世に居るなんて考えたこともなかった。
でも、あくまでエスピがそう言っているだけだし、案外そこまででもないのかもしれないんじゃ……?
「……チラリ」
「はぅ、……ぷいっ……どきどきちらちら」
チラッと見たら顔を真っ赤にして目を逸らされ、だけどチラチラとこっちを……
「……分かった? お兄ちゃん」
「……うん、分かった」
惚れられてる!? これ、ゼッテー惚れられてるッ!?
いや、俺も今までこういうことはなかったし、クロンやシノブのように直接的に言われなきゃ気付かないぐらい疎いみたいだし、だからフィアンセイのことも全然気づかなかったわけで……でも、そんな俺でも分かるとか、相当だぞ?
「でもね……だから、心配なの。お兄ちゃんは……モテるわけだし、他に女の子がいるでしょ?」
「いや、いるって、別に誰かと付き合ってるわけじゃ……」
「そうだけど! でも……族長さんやラルさんが言ってたんだけど……やっぱり、エルフが人間を好きになるって、本当に大変なことで、悲しいこともあるから……だから……お兄ちゃんがフラフラしちゃったら……アミクスは可哀想だよ……」
「っ、う、う~ん……」
まぁ、アミクスの気持ちはなんとなく察した。とはいえ、いきなりすぎて俺も処理が出来ない。
そもそも出会ってまだ一時間も経っていない女の子に「俺のことを諦めてくれ」なんて言うのか? 何様だ? どんだけ自惚れ屋なんだ?
『なぁ、トレイナ……どうすりゃいい?』
『…………』
『トレイナ?』
『え? あ、うむ、……なんだ?』
『は?』
あれ? かなり珍しい。何かボーっとしていたのか、トレイナが話を何も聞いてなかった?
『どうしたんだ、トレイナ。なんか気になる事でもあったのか?』
『いや……何でもない。少し考え事をしていた』
考え事をしていたぐらいで、トレイナが何も話を聞いていなかったなんてな。何を考えてたんだ?
つっても、トレイナからすれば俺の色恋云々はくだらねぇことなのかもしれねぇけど……
「う~……ねえ、姉さん! まだ何か話ししているの? 長くなるんなら、一旦集落に行こうよぉ!」
「え? あ、うん、そうだね。あ~、スレイヤくん、このハンターの人たち……」
「うん。ボクが近くの街に連れて行って、ちょっと説教含めて色々と聞いておくよ」
すると、何だか我慢できなくなったようで、アミクスが大声上げて俺たちを呼んだ。
エスピも仕方なさそうに頷き、そしてスレイヤも溜息を吐きながら俺が蹴散らしたハンターたちを一旦山から連れ出すということになった。
そして……
「えへへ、とにかく集落に着いたら、いっぱい、い~~~~っぱい、あなたのことを教えてよね、アースくん♪」
「ん、お、おお」
「あと、私が色々と案内するからね! あと、それとそれと……」
どこかウキウキワクワクした様子のアミクスは俺の腕を掴んで引き寄せてくる。
そして……
「助けてもらったお礼に……アースくんには、私の自慢のパイパイをいっぱい食べさせてあげるから!」
「……んあ?」
……え?
「遠慮なく、い~~~っぱい食べてね♪」
「ぱ……ぱいぱい?」
「うん、パイパイ! 私のパイパイ、すっごい美味しいんだよ! 食べたら絶対やみつきになっちゃうんだから! えっへん!」
「あ、ああ……た、たしかに、すっごいけど……た、べたら、やみつき? あ、いや……たべ、て、いいの?」
「うん。わたし、がんばっちゃうから!」
「が、がんば、るって、なな、なにを?」
パイパイいっぱいパイパイいっぱいパイパイいっぱい?
いや、誇らしげに胸を張って、え? これ自由に……?
「そういう名前のお菓子だよ! パイのお菓子だよ、お兄ちゃん! アップルパイとか、レモンパイみたいな! 果物のパイと、生地のパイで、パイパイだよ!」
「あ、あ~~、そそそそ、そうか! ああ、楽しみだな、それは!」
――あとがき――
本当は、パイパイをもっと引っ張ろうかと思いましたが、マジでただのエロ話になってしまったので一旦削除したのでした。すんません。自重します。一時はアースが「じゃ、じゃあいただきます」とモギュっとするところまで考えてましたがやめましたw
さて、諸事情で土日の更新はありません。
下記の作品をどうしてもやらねばならなくなったので。
『ブルブルバイブる! 超振動使いのリミッター解除で逆襲粉砕無双』
https://kakuyomu.jp/works/1177354055312078789
カクヨムコンに記念に登録していたら、今月中に10万字以上でないと除外という事実を知って一日五話以上を今月中に投稿せんと間に合わないので、29日、30日、31日はこれだけをやります。せっかくなので読んでくれたらブルブル震えて悦びますのでどうぞ。
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