第362話 全てがベタなスイカと白い三角コーナー

『大魔螺旋の回転を徐々に緩めろ! 形態変化に加え、回転数のコントロール!』


 高速でとにかくひたすら真っすぐ飛んでいく俺にトレイナが叫んだ。

 回転を緩める。それは、今までやったことがなかった。

 とにかく全力でぶん回して叩きつける大魔螺旋の回転を調節するなんて、考えたこともなかった。


「止まれええええ……!!」


 目も開けられない気流が徐々に弱まって、俺は激しい音が響く中でようやく目を開けた。

 すると……


「お、おわぁ!?」

『受け身を取れ!』


 空!? 目の前に森!? 山? 分からねえけど、とにかくぶつかる。


「な、なろッ!?」


 ブレイクスルーで着地? 防御? 無理、魔力切れ。魔呼吸している場合じゃねえ。

 俺は慌てて両手で体を防御するように構えて、目の前まで迫った木々に激突。


「うげっ!」

『頭だけ防げ! 臆するな! 大した痛みはない!』

「ぐお、だ、おど、だ!?」


 激しく木々を突き抜けて、そのまま勢いよく地面に激突して、そのまま俺は何度も地面を跳ね……



「なに? 今の音は? 誰かいるの?」


「……へ?」


『あっ……?』



 そのとき、トレイナすらも驚いた声が上がった。

 かろうじて目を開けた俺の視界には、緑の服を着た……妖精? 女神? いや、女だ!

 長いベージュの髪をした女。緑色の短めのワンピース? を着て……


「え? ええ? え??」

「あ、あぶねええ!」


 ヤバい、ぶつかる。

 かわい、びじん、スイカを二つ持ってる?

 とにかく、今はもうどうしようもない俺は、その女と正面衝……


――バイイイン♡


「は?」


「ふぁ、んんっ!?」



 何かとても柔らかいものにぶつかって衝撃が弱まった? 

 俺が弾かれて、威力は弱まり、そして俺はそのまま前に倒れこんで……


――もぎゅ♡ もぎゅ♡


「あ、あん……ッ!?」


「?」



 倒れるしかなかった俺の両手が何かを掴んだ。左右に感じるこれはなに?



――ガバ、モゾ、ぶちゅっ♡


「んひィ?!」


「もが?!」



 俺の顔面がどこかに突っ込んだ? なんだ? 熱い? 俺の唇や顔はどこに触れてる? 両脇に感じる柔らかく温かいのは? 独特の香―――


「いた、たた……え? え? ええええええ!?」

「もがもが?」

「んっ、ちょ、いや、あん……っ、え、ええ!?」

 

 息ができない。地面? いや、なんか変な感触がする。唇に感じるのは生暖かい布かなんかの感触?



『……………………………余の所為じゃないぞ?』



 トレイナが何かをポツリ。

 分からねえ。でも、体は動く。

 節々は痛いけど……


「あ、あのぉ……あのぉ!?」


 人の声!? 物凄く甘ったるくて可愛らしい女の声……あっ、そうか!


「ぷはっ、そ、そうだ、俺、人にぶつかっ……ん?」

「うぅ……うーーーー!」


 ガバっと顔を上げた俺の目の前には、女の子の白く綺麗で健康的なふとももと、白い三角コーナー。

 なるほど……俺はこの三角コーナーに顔を突っ込んでいたのか。


「て、手をぉ、あのぉ……」

「え? あ……かわい……あっ、いや……」


 更に顔を上げる。俺の正面には、顔を真っ赤にして涙目をした、美しさと可愛らしさを感じさせる妖精。

 その整った表情にドキッとさせられ、思わず俺は無意識に「かわいい」と言いかけてしまった。

 尖った耳? エルフ?

 長いベージュの髪と、肩口と太ももを露出した短い緑色のワンピースを着た女。

 その服の内側にスイカを二つ入れている……そうだ……スイカだ……スイカってこんな柔らかいわけがない。


「ど、どこさわってるのぉ!?」

「…………」

 

 俺はその柔らかい二つのスイカを鷲掴み。

 でも、そんなはずはない! だって、こんなモノがこの世に存在しているなんてありえねえ。

 未だかつて……サディスよりもずっとデッカイ……

 落ち着け。とにかく俺は、地面に打ち付けられながら、たまたま森だか山の中を歩いていたエルフの可愛い女の子と激突。

 その際に、女の子のワンピースのスカートの中の三角コーナーに顔を突っ込んで、その流れで二つのスイカを……



「ぬわああああああああああああああ!!??」


「ひゃっ!?」


「ご、ごめんなさい! ほんと、すみませんでした! いや、ほんと、ワザとじゃないんです! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」


「ひっ!?」


 

 ダッシュで俺は正座状態で後ずさりして土下座。とにかく額を何度も地面に叩きつけた。

 俺は何にぶつかった? 何を掴んだ? どこに顔を突っ込んで唇をブチュッと付けた!? どこに!? なにに!? 誰の!?

 

「あ、あなた……に、人間?」

「そうです! いや、ほんと最低なことをして申し訳ない! でも、どうか……どうか許して欲しい! 決してワザとじゃないんです!」

「人間……ッ、人間ッ!」

「へっ?」


 そのとき、土下座していた俺に対して、女はすぐに立ち上がって俺と距離を取り、身構えた。

 その目や雰囲気は、ドスケベ痴漢野郎に向けるモノとは少し違うようで……


「あ、あなたは、誰? ここは私有地だよ! 勝手に入って何してるの? 何が目的なの!」


 ああ、なるほど、侵入者に対する敵意を……私有地? エルフ?


「ひょっとして、ここって……エルフの集落がある山か?」

「ッ!?」


 すると、女の子の目は更に鋭くなった。

 身構えてバインボインブルンブルンとちょっとした動きをするだけで揺れている……って、そうじゃなくて!

 いかん、全然頭が回らない。


 

「あ、あなた、悪い人間? ひょっとして、最近この近くで私たちを探してるっていう悪いハンターの人たち!?」


「ち、違う、俺は!」


「い、いますぐ帰って! ここには何もないよ! 誰も居ないから!」



 いかん。なんか勘違いされてる。

 スイカなんて言ってる場合じゃねえ。そうだ、俺はこの子のスカートの中に顔を突っ込んで、白い三角コーナーにブチュッ……ってそうじゃなくて!


『童、落ち着け……クールになれ』


 そうだ、クールに冷静に落ち着いて俺は女の子の大事な所に口付けてって、そうじゃなくて!

 

「わ、私は怖くて悪いエルフです!」

「え、ええ?」


 俺がパニくっている中で、女の子は俺を睨みつけながらそう言った。

 そして……



「もし、黙ってこのまま帰らないなら……ハチミツかけてスイーツにして食べちゃうぞぉ!!」



 両手を広げて「ふしゃー」と威嚇するポーズを見せるエルフの女の子。


「だから、帰って!」


 どうやって食べられるんだ?

 俺は、どうやって食べられる?

 ハチミツを塗りたくられて、食べてもらえるのか?



『おい、落ち着け……妹と弟にどう顔向けする気だ?』


「ッ!?」


 

 混乱する俺に対し、トレイナが呆れたようにそう耳打ちして、俺は急に落ち着いてきた。



――ボクのお兄さんがこんな……ドスケベだったなんて


――はぁ……なんか、ガッカリだな……お兄ちゃん……


「ッ!? それだけは……」



 それだけは絶対に言われちゃならない。言われたら俺はどうにかなってしまうかもしれない。


「本当に……すまなかった。信じてもらえないかもしれないが……本当に俺は怪しいやつじゃない」

「…………」


 もう大丈夫。落ち着いてきた。

 とにかく冷静にもう一度頭を下げる。


「あれは事故で……ちょっと新技の練習してて……」

「…………」

「でも、俺は誓ってエルフの敵でもなければ、危害を加えることは絶対にしねぇ」

「……じ~……」

「っと……」


 すると、俺の言葉を少しだけ信じてくれたのか、女の子は少し俺に近づいてきて、下から俺の顔を覗き込んでジーっと見つめてきた。

 ジトっとした目で頬を膨らませて……


「ほんと~? 目つき悪いのに?」

「ああ、本当だ。目つきは勘弁してくれ」

「む~……ジー……ジー……ジ~~~~~~~~~」


 俺をジロジロと観察してくる女の子。だが、その警戒は当然だし、俺はとにかく見られるがままだった。

 だけど、女の子はしばらくしてから苦笑して……


「目つき悪い……でも、なんだろう。あなたの目、すっごいギラギラしてる」

「……なに?」

「なんだろう。すっごく、生きてるぞ~っ、やってやるぞ~っ、てパワーを感じるね」


 言っていることがよく分からなかった。

 だって、そんなこと言われることなんて普通ないし。

 ただ……


「ふ~ん、うん。たしかにあなたは悪い人間じゃないかも。えっちっちな男の子みいたいだけどぉ~」

「は……はは」


 とりあえずは、分かってもらえたんだと思う。

 だから、俺もホッと胸を撫で下ろした。





 そんな俺たちの少し離れた場所で……




「くくく、見つけた! ようやく見つけたぜ、エルフだ! しかも極上だぜ」


「へへへ、そうっすね。ありゃ高く売れるっすねぇ」


「早速攫って……んで、集落の場所を吐かせますかい」


「バーカ。まずは……ひひひ、見ろよ、あのたまんねー体。味見……しねーとな!」




 息を殺すようにケダモノでもあり、狩人のような連中が……



「ん? なんかすぐそばにも一人いるな? ありゃ人間か?」


「他のハンターに先を越されたか?」


「おいおい、それじゃあ『シテナイ様』から褒美貰えないっすよ?」


「なーに、それなら横取りすりゃいいさ! てか、見ろよ。ガキじゃねえか」



 欲望剥き出しで息をひそめて……




 俺がエスピとスレイヤに「ダメだよ?」、「極力控えるべきだよ」と忠告されたことを、早速破るためだけに現れることになる。




 そして、俺はあいつらに言われてしまう……




 よりにもよって、そんなベタなことに? と。










――あとがき――


別にアレです。エスピとスレイヤが傍に居ないタイミングでこの娘と出会うイベントにしたいためだけに鬼ごっこやったとか、ソンナコトナイデスヨ? スタミナ? ウン、スタミナ大事アルヨ。


さー、なにがおこるんでしょーかね? 最近ハーレムだ何だというものに辟易としている方も多いでしょうし、私も胃もたれするような古臭いベタな展開にはしたくないですし、この娘もただの通りすがりのチョイ役かもしれませんし、まだ分かりません!


最近、下記の作品を投稿しましたので、ご興味ありましたらブクマしてつかーさい。


『ブルブルバイブる! 超振動使いのリミッター解除で逆襲粉砕無双』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055312078789

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