第360話 ハイに

「え? そのクロンちゃんって……あの六覇のヤミディレがカクレテールで育てていた女神様……え~、そんなことが……」


「カクレテールやヤミディレについては、ボクたちもノジャから、そしてエスピが絶縁する前にベトレイアルを通じてある程度の情報は……でも、そのクロンって子は知らなかったな……」


「え? そうだったのか?」


「うん。カクレテールは一応、ボクメイツファミリーとか……あのハクキが関わっていたって噂もあったからね。でも、だからこそ積極的に干渉もできなくて……そーいうの、ヒイロたちの仕事だし」


「関わると面倒みたいだったし、ボクらはとりあえずお兄さんとの再会は、お兄さんがカクレテールを経由してからってことは過去に聞いたから、そのためだけに気にしていただけだから……」


「……そっか……」


「ん? でもさ~、今の話だと……そのクロンちゃって……人間じゃなくて魔族なの? っていうことは、お兄ちゃんは……異種族との恋愛にも全然問題なしなの?」


「あっ、そういうことなの?」


「は? いや、別に偏見はないし、嫌だなんて言わないけど……だいたい、アカさんとか友達だし……」


「あ~、そっか……う~ん、そうなると……」


「エルフも全然あり……ってことになるよね……あの子は余計に期待しちゃうんじゃ……さらに、それを知ったあの妖怪幼女が余計に怖く……」


「いや、お前ら本当に何を気にしてんだ?」



 妹と弟とのコイバナは恥ずかしいことこの上なく、悶えてしまった。

 特に色々と乏しい俺を二人の方から逆に可愛がって来るという、倍で恥ずかしい。


 一方で、そういうコイバナで盛り上がったからか、不意にあいつらが今何をやっているのか気になった。


 サディスやフィアンセイは何をやってんだろう?

 リヴァルやフーと一緒に帝国に帰ったのかな? 

 親父や母さんと合流したのかな?


 シノブはどうしているだろう?

 仮にサディスたちが帝国へ帰ったとしても、シノブが帝国に行く理由も無い。

 そして、よくよく考えれば俺らが向かっているエルフの集落はジャポーネにあるわけだ。

 まぁ、あいつはヌケニン? とかいうやつで、そもそも兄貴や仲間たちと一緒に国を飛び出してハンターになったとかって経緯があったし、ジャポーネで再会することも無いよな?


 クロンもどうしているだろう?

 ヤミディレとブロとヒルアと一緒に世界を旅している。

 今頃どこで何をしているんだろうな?



 ん?



 クロンといえば……そういや……『あの時』……



 ブレイクスルーやゾーンやレーダーだけじゃなく、あの状態になれば、鬼ごっこももう少し――――

 











「スレイヤくん、どう思う? 今日のお兄ちゃんは」


「何か狙ってるよね? 昨日みたいにガムシャラじゃない」



 昨日と同様に今日も鬼ごっこ。

 俺の前方の離れた位置で逃げるエスピとスレイヤ。

 何度も後ろを振り返って、俺の位置を確認しているが、今日は昨日よりも振り返る回数が多い。

 よほど俺の様子が気になっているようだ。



「ふふ、気になってるみたいだな。ま、分からねえだろうな」


『だろうな。あやつらが知っている貴様は、あくまで過去の時代で見せたものだけ。そして覗き見ていたという御前試合での戦い程度。コレに関しては知らぬだろう』



 俺の狙いをあの二人は分からないと、トレイナも思ってくれているようだ。

 そう、俺は昨日と違うことをやろうとしている。


「挑発に乗ってこないね……」

「ブレイクスルーで一気に距離を詰める気配もない」

「ただ、前を走る私たちをひたすら追いかけているだけ」

「あれではただのランニングだね。ボクたちを捕まえる気がまるで感じられないね」


 俺が今やろうとしているのは、あいつらを捕まえるための下準備。


『持久戦……そのテーマにおいてソレをやろうとするとはな……まぁ、色々と試すがよい。それもまた後々必要な要素』


 これが正解かどうかをトレイナは言わない。

 俺に自分で考えさせて、その上で試してみろと背中を押す。

 

「クロンの力が無くても……自力で……」


 昨晩のコイバナでクロンの話題が出たときに思い出した。

 


――アース、あなたなら何でもできます!

 


 冥獄竜王バサラと戦ったとき。クロンは俺にそう言ってくれた。

 その時発動された、暁光眼の力。『魔瞳術・プラシーボキアイダ』。

 脳の思い込み。

 自分にはできるという揺るぎない自信を持つことで、いつも以上の力を発揮した。

 引き上げられるモチベーションなども合わさり、やがて疲労や苦しみを快感に変える。


「マジカル・ランナーズハイに!」


 クロンに頼らなくても、魔法を使わなくても、自力であの境地に到達することが出来れば?

 疲れを感じさせない状態に持っていけば、少しはあの二人を驚かすことが出来るんじゃないか?

 そう思って俺は、エスピとスレイヤを捕まえるのではなく、今はひたすら走り込みのような考えで、とにかく自分を追い込もうとしていた。


 コイバナしたものの、あいつらも今はそれぞれ遠い空の下。


 今はコイバナなんかを気にするより、己を高める方が先決だ。







――あとがき――


色々会わせたり、再会させたい奴らも多いし、やることありすぎますな。

ゆっくりやらせてください。


あと、まだ出会ってもない奴がヒロインとか言われても分からないっすよ? どうなるかなんて。



関係ないけど、まだ読まれてなかったら、こっちもよろしくです。一話で読める短編です。


『私が死んだからって「彼のことは私に任せて!」とか勝手に言わないでよ!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055227098095

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る