第356話 鬼ごっこリターンマッチ
「なに? 鬼ごっこ?」
「「うん♪」」
朝に目が覚めて、荷物をまとめて、「さぁ、これからエルフの集落目指して出発!」ってところで、エスピとスレイヤが俺に提案してきた。
「これからその場所へ目指すんだけど、歩いて行ったら時間がかかる。まぁ、ゆっくりでもいいんだけど……せっかくなら遊ぼうと思ってね」
「私たちが先導するようにビューって行くから、お兄ちゃんは私とスレイヤくんを追いかけてきてね♪」
そう言われて俺はようやく意味を理解した。
「ほぉ、なるほど……昔やったのとは、逆だな……」
俺のその言葉に二人はニタリと笑った。
「昔はお兄さんの動きにボクたちは手も足も出なかったからね……でもね、今はどうかな?」
「お兄ちゃん。私たち、強くなってるよ? 今度こそお兄ちゃんと一緒に戦えるように、そして守れるようにね。私も昔のように、国がお金を積んで無理やり手にしただけの七勇者じゃないよ? ま、私はべつにそんな称号もういらないんだけどね♪」
天才のスレイヤと七勇者だったエスピ。
俺と違って二人は十五年の時間があったわけだ。
あのときは自分の恵まれた能力に頼った戦いしかできなかった二人は、俺の動きにはついてこれなかった。
だが、今は違うと自信に満ちている。
「なるほどな。確かに、昨日この時代に戻ってきたばかりの俺の力は、お前らが最後に見たゴウダとの戦いの時のままだ。あのときの俺は、もう超えてるとでも言うのか~?」
俺がちょっとからかうようにそう聞くと、二人は……
「そんなこと言うわけないじゃないか。流石にボクらも六覇の力も六覇を倒したお兄さんの力を甘くみてはいないさ。あの時のお兄さんの力……アレをボクたちは目標にしていたんだ」
「ただ見て欲しいんだよ! 私たちだって頑張ったんだよってことを!」
そう言って微笑む二人は「俺よりもう強い」ではなく「今の自分たちを見て」という気持ちが滲み出ていた。
こんなこと言われたら、当然断る理由なんてない。
だって、俺には「今の自分を見て欲しい」という気持ちが誰よりも分かるからだ。
「いいぜ、二人とも。ちゃんと追いついてやるからな。だから、見せてみろよ!」
「うん! ふふふ、お兄さんとの鬼ごっこなんて、あの船の甲板以来だね。そう、ボクとお兄さんの思い出だね♪」
「む~~! あのとき、私だけのけ者だったのにぃ!」
俺にとってはついこの間。だけど、二人にとってはとても懐かしい思い出だと嬉しそうにしている。
とはいえ、俺も簡単に負けて兄貴の威厳を失うわけにはいかない。
必死で食らいついてやるさ。
『ふむ……ジャポーネの山岳地帯……ここからどれだけ速く走っても数日はかかる……数日か……』
数日。そのことにトレイナは何か思うところがあるのか、何かを考えている様子
何か―――
「それじゃぁ、お兄さん!」
「よ~~~い、ドーーーンッ!」
「あっ! ずるっ!?」
だが、それが分かる前にエスピとスレイヤは少しフライング気味にその場からダッシュ。
一気に森の中を駆け抜けていく。
「あっ、んのやろ~……兄貴をあんま舐めんなよなぁ! 二人がどれだけになったか、ちゃんと確かめさせてもらうぜ!」
とにかく俺も追いかける。
生い茂る木々もレーダーで事前に位置を察知し、マジカルパルクールで最短ルートを見極める。
「おっ、来たねお兄さん!」
「うんうん! あの動き~、懐かしいなぁ~」
「ちゃんと作戦通りにね、エスピ」
「分かってるよ。それと、あの光り……ノジャが言っていた『ブレイクスルー』ってのが発動されたら要注意だからね」
「ああ。気を抜いたらすぐに捕まってしまうからね」
前を走る二人は振り返りながらもどこか嬉しそう。
余裕のつもりか?
でも、確かに手足が伸びてるだけじゃなく、走りもスムーズで無駄がない。
余裕のつもりか? じゃなくて、余裕がまだまだありそうだな。
だが……
「常に最短ルートを走って、距離を徐々に詰めて……必ず捕まえるぜ!」
とにかく追いかけながら、見せてもら――――
『童。この鬼ごっこ……なかなか良いトレーニングになる』
「え?」
そのとき、傍らのトレイナが俺に囁き……
『これを遊びではなく、トレーニングの一つと思ってあの二人を真剣に追いかけよ。成長した二人の姿を見てやるなどという上から目線ではなく、挑戦者のつもりでな』
そう提案するトレイナの様子から、今のスレイヤとエスピの力はそれほど成長してるってことなんだろうな。
確かにそうなのかもしれない。
ただ、それだけでなく……
『単純な鬼ごっこと思うな。これは持久戦になる。そして、それこそが今後の童に課す課題となるな……』
「なに?」
『とりあえず、童が次に身に付けねばならないものを体感するがよい』
お兄ちゃんと妹と弟との再会を祝した鬼ごっこ対決を、まさかのトレーニングにするとはな。
だが、トレイナがそう言うからには当然意味があるわけだ。
だから俺は成長した二人の力を目に焼き付けながら、今の俺の全力で二人を追いかけることにした。
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