第347話 太陽を穿つ

「ゴウダが……あんなの、私も知らない……っ、あ、あっちっち!? な、なに? すごい暑くなった!」

「き……気温が変わった? ゴウダが発する熱か!? こ、これだけ離れているのに、ボクも火傷してしまいそうな……」

「なんという熱量……あ、あれが……六覇……ゴウダ様の力……」

「あんなのもう触れもしないんじゃない?」


 今にも爆発しそうなゴウダにカウントダウンが入った?


「おおおおおお、滾る! 燃え上がる! 灼熱爆熱大噴火ぁぁぁぁ!」


 胸元で鼓動していたマグマのような赤い塊の色が、真っ黒だったゴウダの外殻全身に行き渡った。

 全身マグマ色に染まったゴウダの圧倒的な熱量。

 これはある種の、ゴウダ流のブレイクスルー?


「これが俺様……バーニングゴウダ様だぁぁぁぁ!! ロックンロール!!」


 ゴウダの咆哮と共に周囲一帯が灼熱の空気に一変。

 汗が一気に噴き出して、周囲に陽炎やら蜃気楼やらが発生して周りが歪んで見える。


「うるああああああ! バーニングゥパアアアアアンチ!!」

「ッ!?」


 ゴウダが間合いの外から拳を振る。拳そのものは俺に届かない。

 しかし、これまでは拳圧だけで衝撃波が飛んできた。

 そして、今度からは……


「うおっ、うそお!?」


 ゴウダの拳から巨大な火柱が衝撃波と共に飛んできやがった。


「うおおお、これやると俺様もあっちいんだよ、火傷おおお、ウグラアアアアアアアッ!!」


 今度はその場で大きな口を開けて……なんだ? 光が……げっ!? 


「バァーーーニングブレスウウウウウッ!!」


 なんか、口からもマグマの閃光が飛んできやがった。

 いやいや、詠唱も無しで何級の魔法だ!?


「ゴウダが口から火を噴いた!?」

「火竜のブレスどころじゃないぞ!」

「詠唱なしでギガ級……いや、もっと……」

「……もうちょっと離れないと……俺たちも溶けちゃうよ……」


 完全に火山の大噴火だな。

 もう、全てを飲み込むまで収まりそうもねぇ。


「大魔螺旋シールドオオオオ!!」


 咄嗟にその場で大魔螺旋を発動して渦巻く防御壁で……無理!


「つ、お、おおおおおおおおおお!!??」


 ふっとばされる燃える熱い焦げる!


「お兄ちゃん!?」

「な、なんて威力だ……」


 ダメだ。悔しいが、俺の大魔螺旋はもうこいつにとっては脅威でもなんでもねぇんだ。

 くらえば怪我するかもしれねえが、砕くことなんて簡単なんだろうな。

 とんでもねぇ破壊力。


「つっ、くそ……やりやがったな……」


 強い。

 これが一対一で本気で殺す気でくる全力の六覇の力。

 大魔螺旋で多少は威力を軽減したにもかかわらず、ふっとばされちまったよ。

 でも……


「ぐ、ぐっあああああ、舌がやけるうう、歯が溶けるぅ、いってええええ!」


 あいつ……自分が攻撃するたびにゴウダも痛がってるよ……


「は、はは、なんてやつだ……自分も痛いのかよ……もう、メチャクチャじゃねぇか」

「ちっ、……はあ、はあ、……ガハハハハハハ! ま……仕方ねぇだろうが。テメエがアッチー野郎なんだから、俺様も熱くならねぇと嘘だろうがァ!」

「ッ!?」


 俺が呆れたように笑うと、ゴウダは苦痛から無理やり笑みを浮かべて俺に向かってそう言ってきた。

 なんだろう……この場の気温よりも、今の一言の方が俺の体を内側から熱くしてきやがった……


「へ、へへ……まったく……本当にスゲーな、あんたは……」

「あたりめぇだ、今さら気づいたかバカタレがぁ!」

「俺もけっこーバカだってことを、あんたも今さら気づいたのか?」

「ガハハハハハハハハ! 俺様はバカでもロックだからいいんだよぉ!」


 こんなヤバい状況なのに、何で俺はこんなに嬉しがってんだよ。

 いや、当然だよな。

 殺さないように手加減したり、遊びだったりのヤミディレ、パリピ、ノジャとは違う。

 本当の本気で、自分すらリスクを負うような力まで振るって向かってくる六覇が、俺を認めてくれているんだから。

 でも……



「で、も……ワリーけど……この熱さ……長くは……続かねえ」


「……ゴウダ……ッ!?」



 豪快なゴウダが初めて見せる、どこか寂しい笑みがそう言ってきた。

 そうだ、この時間はいつまでも続かない。

 短すぎるほどに。

 だけど、分かっていたことだ。


「もうメチャクチャだけどよぉぉぉぉ、聞けよなああああ、俺の歌をなァ!! アンコールはねぇからよぉぉぉ!!」


 連合軍はまだ来る様子もない。つまり、どうやってもゴウダは連合軍へ損害を与えることは出来ない。

 あとは……


「ああ、俺も……一緒に歌わせてもらうぜ!」

「……あ~?」


 この場から皆と地下へ急いで避難すれば死ぬことはない。

 だけど、逃げるわけにはいかない。

 それどころか、この一撃に関しては今までのステップのようにチョロチョロ動き回っても駄目だ。

 何故なら、この一撃はこれまでとは重みが違う。

 これに応えてやらねぇで、何が弟子だ。

 何が……



「俺も全部出してやらぁぁぁぁあ、ゴウダァァ!」


「そうかい……ありがとよ……アース。確かに……テメエはヒイロとは全然違ぇ……あいつは皆で力を合わせてとか、正義だとか光の力でとかうんたらかんたらと、バカのくせに空気読めねえやつだったからよ……ガハハハハ、一緒に歌うか……初めて言われた!」


「当たりめぇだ。勇者ヒイロなんて、強いかもしれねぇけど空気読めないバカだし、きっと将来は子育てもまともにできねえ奴だから、一緒にされても困るんだよ!」


「ガハハハハハ! なら、やってやろうじゃねぇか! だが、テメエは俺様のロックについてこれるかぁ!?」


「ついていくさ! どこまでも!」



 こいつの最後に応えてやるんだ。

 すると、ゴウダは飛んだ。

 上へ、空へ、遥か高くへと。

 真っ赤に染まるデッカイ炎……


「うおおおおお、これが俺様の全力全開だああああ!」


 もはや、太陽。あの状態でここに落ちてくる気か?


「あっちいいいいいいいいいいい!! ウガアアアアアアア!!」


 空が灼熱色に染まり、空から落ちてくるゴウダ。

 見ただけで分かる。

 この辺り一帯全てが消し飛ぶ……


「大魔螺旋・アース・スパイラル!」


 でも、ダメだ。これじゃぁ、勝てない。


「もっと……もっとデカく……!」


 もっと威力がないと……でも、理論的にそれは無理だ。

 魔法の放出に関して重要なのは魔穴の数。

 魔穴の数によって一回の魔法で出せる魔力の放出量が決まってくる。

 つまり、今の俺にはこれが限界。

 この一瞬で魔穴を増やすなんて無理。


「くそ……この左腕だけでやるしか……えええい、やけくそだ! この左腕に全てを込めて……込め……て?」


 それは、ほんの一瞬の閃き。

 これまでの大魔螺旋。ブレイクスルー状態で体内の魔力の全てを左腕に集中させて螺旋を作っていた。

 その際、他の部位はどうなっている?

 腕に集中しているため、他の部位は魔力が空になっている。

 なら、他の部位のみ魔呼吸したらどうなる?

 さっき戦いの中で、頭とかにも魔力を集中できた。

 なら、魔呼吸も……


『ッ! 自力でそこに辿り着いたか……童!』


 マチョウさんとの戦い、そして今のゴウダとの戦いを見て気付いた。

 部分的に筋肉を巨大化させたり、全身を巨大化させたりの戦い方。

 なら、俺は……


「部分魔呼吸!!」


 できた。


「うおお、おおおお、は、入ってくる! さらに魔力が! じゃぁ、それをまとめてまた左腕に! そしてまた部分魔呼吸で!」


 全魔力を腕に纏わせる大魔螺旋の代償として、腕以外の部位の魔力がゼロになったので、左腕以外で魔呼吸をしたら魔力を取り込むことが出来た。

 そして、新たに受け入れた魔力をまた左腕から放出して大魔螺旋にまとわりつかせ、また左腕以外は空になった魔力を魔呼吸で取り込む。


「うお、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「お、おお、おおお、なんだそりゃ!?」


 魔法は魔穴から放出する。

 そのため、『瞬間的』に放出する魔法の威力は魔穴の数で決まる。

 しかし、一度に出す量は少なくとも、こうやって永遠に魔力を供給し続ければどうなる?


『そうだ! 理論上、大魔螺旋は永続的に強化し続けることが可能! 放出する魔力が膨大になればなるほど螺旋の形状を維持する集中力や技術、肉体への負荷も尋常ではなくなる。しかし、童は元々ゾーンをマスターしており、更にマジカルレーダーをこの時代で習得。それにより、集中力と技術はこの時代に来て格段に向上……残る肉体への負荷など……気合と根性で乗り切れる。今となっては貴様の最も得意な分野で……っと、余はこの戦いに関してはあくまで中立な立場。興奮して立場を忘れてはならぬ。冷静に冷静に……』


 溜めて放出して溜めて放出して溜めて放出を繰り返せば、それは次第にとんでもなくデッカイものに……


『だが、落ち着くなど無理か。この地はかつて大魔王であった余の大魔螺旋によって滅んだ……それが今……同じ地で同じ技を使う者の手によって……誕生する! その目に、体に、魂に焼き付けよ、ゴウダ! そやつが……そやつこそが、貴様の最期を受け止めるにふさわしい……貴様と同じ……余の―――――』


 これならいける!

 パンパンになるまで膨れ上がった大魔螺旋。これ以上は俺の体も破裂しちまうかもしれねえが……その限界を超える!



「限界突破だ! 極限大魔螺旋アース・スパイラル・リミットブレイクゥゥゥ!!」


「完全燃焼太陽面大爆発激ッッ!!」



 俺も飛んだ。最後の最後に両足に魔力を込めての大ジャンプ。

 限界以上にデッカイ大魔螺旋で、落ちてくる太陽に突き立てる。


「うおおおおおおおおお!!」

「うがああああああああ!!」


 ぶつかる。

 伝わってくる。

 俺とゴウダの交差する熱が。

 魂が!


「くははははははははははは! あんたぁ……!!」

「ガハハハハハハハハハハハ! テメエは……!!」


 短い時間。

 だけど、俺たちは……



「「サイッコーじゃねぇか!!」」



 一生分の会話をできたような気がした。

 そして……



『ついに貴様は太陽すらも穿つか……そして……ゴウダもまた見事』



 俺は太陽を貫いた。

 貫いたその先には青い空が広がっていた。

 そして……


「あぁ……ほんと……に……たの……さいご……に」

「……ゴウダ……」


 振り返る。するとそこには半身を失ったゴウダが……


「たのしくはじけ……たな、アースよぉ……」

「ゴウダ……」

「たのしく……うたっ、て……最後は……寿命で死ぬかぁ……ロックンローラーとしてはしまらねえが……ま……」

「寿命って……俺が――」

「寿命だぁ……」


 魔力と全身の力を失って、飛びそうな意識の中でついに俺も落下する。


『……友の手によってではなく……寿命で死ぬか……本当に貴様というやつは……そうか……貴様は戦死ではなく……寿命だったのか……』


 そして、力なく笑みを浮かべるゴウダと入れ違いに……



「七勇者のクソガキいいいいい! テメエの兄ちゃんが落ちるから受け取ってやれぇええええええ!」


「ゴウダ!?」



 そしてゴウダは最後の力を振り絞るかのように叫び、そして落下する俺とは逆に自分の意思でもっと上空へ……



「すま……ねえっす……大魔王さ……」


『謝るのは余の方だ……すまなかったな、ゴウダ。そして見届けたぞ。貴様は紛れもなく魔界の誇りであり……魔王軍の誇りであり……そして余の誇りだ……心の底からそう思うぞ』



 あいつ、まさか!



「ッ!? ゴウダ、謝るなあああ! むしろ、大魔王トレイナはあんたのことを……あんたのことを心の底から誇りだと言っている!」



 あの野郎。最後の最後で爆発に俺を巻き込まねえように……



「ガハハハハハハハハハ! ありがとよ……そして、あばよ! 最後に出会った……心のソウルメイト!」


 

 そして、遥か上空で太陽が最後の光を放って散った。

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