第346話 部位集中

「ぜぇ、ぜぇ、アースゥ……おもしれーことしてくれんじゃねぇか、オオオオ?」


 戦闘開始からそれなりに攻撃を叩きこんだ。

 大魔フリッカー。

 大魔螺旋アース・スパイラル・ソニックインパクト。

 大魔クロスカウンター。

 大魔螺旋アース・スパイラル・ブレイク。

 だが、致命傷になってねぇどころか余計にゴウダは荒々しく吼える。

 ただ、ダメージはよく分からないが、パンプアップの影響がかなり響いてるのか、息が荒くなってやがる。


「へ、二度と使わないと思ってた技を使った以上、二度も三度も同じだ。お気に召したならもっとやってやろうか?」

「ああん?」

 

 俺自身もそこそこヤバい。

 魔力は魔呼吸で回復できる。体力もある。

 でも、右腕がぶっ壊れてるな。

 とはいえ、それでもやめるということにはならねぇけどな。

 重要なのは今の自分の状態で何ができ、次に何をすべきか。


「けっ、ウロチョロチョコマカ小細工バッカのくせに調子こきやがって!」


 だが、ゴウダもまた疲弊して今にもぶっ壊れそうな体でも構わず高速スピードで俺に再び向かってくる。

 なら、俺も無茶するしかねぇ。

 ゴウダが自爆するまで逃げ回るんじゃなく、あくまで倒すために動き回る。


「ふぅ……ゾーンからのマジカルレーダー!」


 ブレイクスルー状態でのゾーンでレーダーも発動。

 これにより、より相手の動きと先読みをアップ。

 こうすれば……


「大魔スプリットステップ」

「ぬぐっ!」


 ゴウダの剛腕を空振りさせる。

 単純なフック、アッパー、ストレートも全て回避。しかし、距離は取らない。

 あくまでゴウダの間合いの中での距離を保ちつつ、台風の目の中で俺は回避しながら待つ。

 結局ゴウダに叩き込んで倒せる技は大魔螺旋ぐらいしかねぇ。

 だが、馬鹿正直にぶつけても回避されたり、ゴウダの力を込めた肉体や技で粉砕される。

 反撃や力を込める隙を与えない状態に一度持っていかなくちゃならねぇ。


「オラオラオラオラオラオラアアアアアア!!!!」

「大魔キャリオカステップ! 大魔スピン! 大魔クロスオーバーステップ! 大魔スリッピングアウェー!」


 そのためには、カウンターで叩き込むんだ


「いい加減に砕けろやああああ!」


 ここだ! このタイミングならいける!


「大魔螺旋アース・スパイラル―――――」

「知るかアアアアアアア!」

「ッ!?」


 踏み込んできたゴウダに対して避けようがないタイミングでカウンターを打ち込もうとしたら、そもそも避ける気のなかったゴウダが構わず突進してきて、大魔螺旋で体を削られながら……しかしそれでも構わず恐れも無く突き進み、大魔螺旋をまた砕きやがった。


「今さら半端な痛みで俺様が揺らぐと思ってんのかぁぁぁぁ! 俺様をなめてんじゃねーぞッ!」


 そりゃそうか。相手は六覇。

 もうじき爆発しようってやつが、今さら体が多少削られたぐらいどうってことねぇか。

 精神が痛みを完全に超えてやがる。

 むしろ、俺の方がそれぐらいやらなきゃいけねぇってのに……


「うおおおおおお、大魔ジョルト!」

「あん?」


 なら、左腕の大魔螺旋が破壊されたなら、右で打ってやる。

 ぶっ壊れちまってまともなパンチすら打てねえし、肘を曲げたり伸ばしたりするだけで激痛が走るが……命に比べりゃ屁でもねぇ!

 歯を喰いしばりゃ……


「ガハハハハハハハハ、いい根性じゃねぇか! だが……貧弱うぅぅぅ!!」

「ッ!!??」


 壊れちまった右腕を無理してもう一度だけ振った。全体重を乗せて歯を食いしばり。

 だが、その拳に合わせるようにゴウダが左拳をぶつけてきやがって、簡単に俺のジョルトが弾き返された。

 右腕が死んだ。

 しかも、相手の隙を突くつもりが、俺の上半身が完全に反らされて、態勢が崩されちまった。


「ま、まずっ!?」


 上半身が反れて、バランスが崩れ、ステップも踏めねえ。

 両手も動かせねえ。


「終わりだああああ、アーーーースゥゥゥッ!!!!」


 そして次の瞬間、ゴウダが右拳を振りかぶり、その腕だけが巨大化しやがった。

 こいつ、この一撃を右腕に込めて、俺を殺す? 消滅? もう、存在すらも消し去るぐらい……ヘッドバットでカウンター? 無理、そんな次元じゃねえ!

 大魔螺旋で……でも両腕がこの体勢からじゃ……


「ッ!?」


 そのとき、俺はメチャクチャなことを考え、同時にすぐに実行した。

 できるかどうかは別にして、やらなきゃ死ぬからだ。


「大魔螺旋ヘッドバットッ!!」

「ッッ!!??」


 大魔螺旋はブレイクスルー状態から全魔力を腕に集中させる技。

 右腕に。時には左腕に。時には両腕に。

 でも、よくよく考えたらそれは腕に集中させているだけであって、腕でしかできないってわけじゃない。


『お……おお! 魔力の部位集中……童め、腕だけでなく他の箇所にもできるようになったか!』


 全魔力を頭に込めて、後ろに反らされた状態から反動を利用して、俺は大魔螺旋を額に作って飛び込んでやった。


「うお、お、おおおおおおおおおおお!?」


 これまでアカさんの拳やアオニーの膝を受けてきた俺のカウンターヘッドバット。

 今度は大魔螺旋で全身を投げ出すようにヘッドバット。

 それは、ゴウダの膨張した渾身の拳を……


「ぬ、ぬがァ!?」


 弾いた!


「こ、こんのぉぉ……アースゥゥ!!」


 そして、ゴウダが後ろへよろけた。カウンターで威力を数倍にあげた大魔螺旋ヘッドバットがゴウダを後退させた。


「はあ、はあ、はあ……ここだッ!」


 負けちゃいねえ! 俺も! 

 咄嗟だったが、腕だけじゃねえ。

 頭にも。いや、この感覚……必要に応じて、足に、体の一部に魔力を瞬間的に集中させることで強化することができる!


「うおおおおおお!!」


 千載一遇のこのチャンスを逃さねえ。

 両足に魔力を込める。今まで以上に大地を力強く踏みつけて、勢いよく飛び出せる。

 そして、即座に魔力をさっきと同じように頭に大魔螺旋を作って飛び込む。


「大魔螺旋アース・スパイラル・ダイビングヘッドバットブレイクッ!!」


 入る! ……いや……


「やりやがったなコラぁぁぁあ!! ロックンロール・ビートルズヘッド!!」

「ッ!?」


 ゴウダもバランスを崩されながらも両足で無理やり大地を蹴り、俺と同じように反った上半身を反動で引き起こして、俺の大魔螺旋ヘッドバットに角の生えた頭部でヘッドバットを返してきやがった。

 俺の大魔螺旋を砕いたあのヘッドバット……いや、今は俺もさっきより威力がある!



「うおおおおおおおっ!!」


「うるああああああっ!!」


――――――――ッッ!!!



 重たい鐘が鳴り響くかのような……頭と頭のぶつかり合い……



「つ、が、ま、また、このバケモンが……俺の大魔螺旋に二度も頭で……のやろうああああああ!」


「っ、この、……うらああああああああああ!!」



 もう、集中だとか先読みだとかの思考がふっとんだ。

 とにかく分かっているのは、今のヘッドバットのぶつかり合いは互角? いや、俺の方が勢いよく跳ね返された。

 だが、ゴウダも僅かに後退している。

 いずれにせよ、ゴウダも俺も弾かれたが、互いに倒れちゃいねぇ。

 なら、もう一回。

 身体を即戻して……



「大魔螺旋アース・スパイラル・ダイビングヘッドバットブレイクッ!!」


「ロックンロール・ビートルズヘッド・ワンスモアァァァァァァァッ!!」



 もうバカになってやけくそになって……両手が使えないならもうこれしかねぇ。

 

「ぬがあっ!?」

「ごあっ!?」


 パワーも体重も馬力も全然違う相手に、ヘッドバットをぶつけ合う……いや、バカじゃん俺……


「っ、知るかあああ、バカでいいんだもう!」

「は、がは、ガハハハハハハハッ!!」


 もう、それでいいか……


「お、お兄ちゃん……また……あんなことやって……」

「お兄さん……どうしてあそこまで……恐怖はないのか!」

「……なぜ……なぜ奴の戦いは……女である私ですら体が熱く疼くほどの……」

「お兄さんったら……頭悪くないのに、状況に応じてバカも出来るって……ほんと……」


 嗚呼、この数日でまたヘッドバットを……エスピとスレイヤも呆れてんだろうな……もっとスマートに華麗なステップで勝てなくも……でもいいんだ。

 どうせ、ゴウダを受け止めるとかなんとか言ったんだし、カッコつけてねぇで泥臭く血みどろに根性と気合むき出しで最後はぶつかってやる!


「うおおおおお、がっ?!」

「うらああああ、おごっ!?」


 何度でも……何度でもだ!



「はあ、はあ、けっ、……は、はは……ガーハッハッハッハ! やりゃできんじゃねぇか! 小細工するよか、今の方がよっぽどいいツラしてんじゃねぇか! そんだけできるんだから、最初からチョロチョロ小細工しねぇで、足止めて殴り合えやぁ!」


「勝手を言うな。俺は弱いさ。そんなのずっと昔から知っている。俺よりもパワーやスピードがあって、俺よりオールマイティに優れていたり魔力があったりな幼馴染たちや親父たちと比べられ……だから他で補うんだよッ!!」


「テメエはツエーだろうが、もっと胸張って堂々と正面からくりゃいいんだよ、ボケがぁぁ! 小細工は雑魚がやることだ!」


「劣った部分を補う小細工や技術は、弱さの証明じゃねえ!」


「男気の話してんだよぉぉ!!」


「うるせえ、もう付き合ってやるからかかってこいやぁ!」


 

 俺は気付けば両足を止めて正面から頭突きのぶつかり合いをしていた。

 バカだと思いつつ、口で何と言おうとも、俺の本能がここは引けないと、引いたら負けだと分かっていた。


「はあ、はあ、うおあああああ!」

「来やがれ、アースッッ! ……ぐほっ……うっぷ、おえ……はあ、はあ……もう、時間ねえか……だが……寿命数秒ぐらいいくらでももっていけやゴルルアアア! 俺は今を生きてるんだからよぉ!!」


 ゴウダだって、今にもぶっ壊れそうな体に鞭打って、死が早まると分かっていながらも全てを出し尽くそうと、最後の輝きを放っていやがる。


「くれてやるぞ、アーーースッッ!! 俺様の最大最強の残る全てを!!」


 もう、ゴウダは連合を巻き込んで自爆がどうとか考えてねぇ。ここで逝く気だ。

 なら、もうこれでケリをつけてやる!!

 もっと威力を!!

 今までの大魔螺旋より、もっと……もっと……もっと!!

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