第337話 今日中に

 トレイナ曰く、とりあえず遠くの地に出現した巨大な光については無視して構わないという話。

 ならば、今しなければいけないことは……


「なにぃ!? お兄さんがどこかの土地を買って俺たちにくれる!?」

「ああ。それが一番手っ取り早そうだ。エスピやスレイヤの私有地ってことにすれば、そこに無断で入り込む度胸のあるやつはいねーだろ?」

「いやいや、土地って……あっ、やっぱお兄さん……お坊ちゃん?」

「うっ、その言い方はやめろ。一応自分で稼い……あ、あぶく銭だけども……」


 俺の提案に族長はじめ、流石に皆が戸惑い出した。

 土地を買って急にそこに住めと言われても、「はぁ?」ってなるだろう。


「でも、そんな土地を買うような大金をもらうわけには……」

「別にタダでってわけじゃねぇ。そのうち返してくれりゃいいさ。利子はいらねぇ」

「あ~、つまりお兄さんに借金……いや、でもなぁ~……」

「そんな難しく考えてくれなくていいよ。せめて……あと十数年ぐらいディスティニーシリーズを続けてくれりゃな」

「いや、十数年って……それ、どんな超大作ッ!?」

 

 俺の冗談交じりの言葉に族長はビックリした顔をしているが、実際に族長は今から十年以上も小説を書き続ける。

 そして、その小説がまた、俺とトレイナにとっては重要なものだったりする。


『はは……まさか、ディスティニーシリーズの続編が出続けていたことに俺が関わっていたとはな』


 トレイナと出会った日。大魔王の幽霊という存在に俺はどう接すればいいのか分からなかった中で、あの小説があったからこそ色々と俺はトレイナに関して考えを改まったり、情を抱くようになった。

 そのきっかけとなった本は、まさか俺がこうして過去に関わったことで未来へと繋がっていたと思うと、なんだか奇妙な運命を感じずにはいられなかった。


『…………』

『……トレイナ……?』

『ん? あ、ああ、そうだな……ん? どうした?』

『……いや……』


 ただ、そのことをトレイナに振るが、少し心ここにあらずといった様子だ。

 俺には気にするなと言いつつも、やはりあの光の柱がどうも気になっているんだろうな。

 まぁ、大体色々と察しは着くが……


「でも、仮にいつか返すとして……お、お兄さんどこの土地を……」

「ん? あぁ……それは……」


 とはいえ、これからのことを話し合う上でトレイナには色々と教えてもらいたいし、そう思って心の中で何度かトレイナの名を呼び……


『あ、ああ……ふむ。土地か……そうだな……ここから森を抜け、少し街道を……まぁ、その移動時にあまり目立たないことを第一として……旧・シソノータミを越えた先にいくつか小さな山がある。そこは確かジャポーネ王国の……ん?』


 シソノータミの遺跡。そこは俺がこの時代で目指すべき地でもある。

 ただ、エルフたちの土地云々の問題を解決するにはシソノータミを一回越えなきゃいけないってことか?

 まぁ、預り所で金を引き出すための証明書さえあれば別に俺じゃなくても……だから、あとは任せた……ってわけにもいかねーよな。

 目的はシソノータミであったとしても、急ぐわけじゃない。

 もう少し、エスピとスレイヤとも旅を……


『あ……あっ!? そ、そうか……余としたことが!?』

「うおっ!?」

「へ? お、お兄さん?」


 急に俺の傍らのトレイナが大声を出した。

 思わず声に出して驚いちまった。

 一体何が……


『余としたことが……童よ。我らの旅の目的地はシソノータミ……だが、シソノータミに行って終わりではないぞ?』

『は?』


 何事かと思ったが、そんなことは俺も分かっている。

 シソノータミの遺跡に行って……



『遺跡は無人なわけではないのだぞ!? 魔王軍と連合軍が奪い、奪い返しを続けて……つまり、常にどちらかの軍が戦争終わるまで拠点にしていたのだぞ!? そんな中でどうやって遺跡に侵入する気だ!?』


『……え?』



 言われて俺はハッとした。

 そもそも未来でも、遺跡に行こうとしたらノジャとフーの親父さんが同じタイミングで行こうとしてたから避けたんだ。

 それに対してこの時代は、どちらかの軍が駐留している?

 つまり、軍の目を掻い潜って遺跡に侵入しなければ……



『しかしだ、この時代で唯一遺跡がわずかな間だけ無人となるタイミングがあるのだ。それは……シソノータミに駐留していたゴウダ軍……ゴウダが迫りくる連合軍に対して出陣し、シソノータミ近くの平原で貴様の父であるヒイロと交戦する…』


『親父が……』


『そして、ゴウダは戦死。シソノータミに駐留していたゴウダ軍の残党が撤退……それを確認し、翌日に連合軍が無人となったシソノータミに入り、晴れて連合軍がシソノータミを魔王軍から奪還……となるのだ』


『ほ、ほぉ……』



 たしか、そこら辺の歴史の流れは俺も勉強したことがある。教科書にも載っているし、人類が初めて六覇大魔将軍の一角を討ち取った歴史的な出来事だしな。

 あれ? でも、そうなると……


『つまり、ゴウダが死んだ今日! 今日以外にシソノータミの遺跡内部に侵入するチャンスはない! 今日を逃すと、何万もの連合軍がシソノータミに入って旗を掲げることになる!』

『え!? じゃあ、さっきの光って……』

『うむ……』

『で、でも、今日ってそんないきなり……それに土地の話とか……エスピたちに後は任せたって言うのか? いや、そもそもエスピとスレイヤとこんな急になんて……』

『……では……先送りにするか? 戦争が終わるまで……』


 その瞬間、俺はどうしてトレイナが急に慌てだしたのかがようやく分かった。

 つまり、今日を逃したらそれこそ戦争が終わるまで、俺はずっと帰りたくても帰れなくなる……ってことに……


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「お兄さん?」


 いや……まぁ、別にそれはそれで……それに戦争が終わるって言ってもそう遠くない未来に……


 でも、そう考えだすと……果たして俺はいつまでもこの時代にいて、歴史の裏で関わり続けるっていうのもダメな気もするし……


 そもそも、関わらないようにしようといいつつ、俺は七勇者でもあるエスピとガッツリ関わり、コジロウとも出会った。


 六覇に関しても、ノジャとハクキとも出会ってしまったし、ハクキ軍の幹部やらエルフやらとも関わってしまった。


 これ以上関わると……


『……まぁ……そう遠くない未来にこの時代の余も死ぬだろうから……その後になれば軍も遺跡から撤退するだろう……』

『ッ!?』


 そのとき、俺は思った。「それだけは嫌だ」と。

 この時代のトレイナが死ぬまで待つっていうのも……このままだと……俺はそのつもりはなかったとしても、間接的に俺がこの時代でやることが、魔王軍の敗北どころかトレイナの死に繋がることがありえるかもしれない。

 そもそもこの数日で六覇と立て続けに関わっているわけだし……



「いやだな……ああ……それだけは嫌だよ……」


「「「??」」」


『童……』



 たとえ、トレイナが死ぬのが歴史の流れだったとしても、その流れに俺が関わってしまうことだけは嫌だ。

 

 やっぱり俺は帰らなきゃいけない。


 いつかじゃない。


 今日だ。









――――――


読者さまへ。

いつもお世話になっております。

コミカライズや原作小説だけじゃなく、WEBも頑張ってますので引き続きよろしくです。……買ってもいいんですぜ?


また、本日は日間ランキング4位に入り込んでおりました。皆様の多数の★ドリル注入に感化されて、こちらも意地でも更新せねばとケツを叩かれるどころかケツをドリルで……頑張ります!


これからもどうぞよろしくお願い致します。

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