第334話 思い出話

「家出して、森の中でさ迷って、その辺に落ちてるキノコやウサギとかすらにも手を出せず、このまま餓死するんじゃないかというところで現れたのがアカさんだった」


 ハクキからの逃走から、特に追っ手が来る様子もなく、次第に落ち着きだした空気の中、俺はあのときのことを語った。



「俺が、『オーガ!? マジかよ!?』なんてビビって臨戦態勢に入ったらよ、あのアオニー並みの巨漢とごつい体を持った人が……『おでなにもしねーだよ~』ってアタフタしてんだよ~」


「ふっ、アカらしいな……強いのに、少し臆病な所がある」


「んでよ~、それどころか俺に『腹減ってんのか?』とか『人間に悪いことしね~よ』とかって……俺も生まれて初めてオーガと出会って、『これがオーガ!?』って思ったもんだ……まっ、先入観ってやつだよ」


「まぁ……ムリも無かろう。森の中で人間がいきなりオーガと遭遇したらそうなる」


「でよ~、連れて行ってもらった森の奥の家はよ~、手作りの畑とかある木でできたこじんまりしたものでな、中に入れば精巧な彫刻とかアクセサリーとか……あっ、ちなみにさっき見せたものはその時貰ったんだ。んで、メシ作るって言ってよ~調理場に立ったらスゲー豪快に包丁とフライパン振り回してよ、メチャクチャうめー肉料理を俺に振舞ってくれたんだよ。いや~、俺も結構色々と旅したが、あの時食った肉料理はマジでうまかった」


「あ、あいつは確かに手先が器用だったが、いつの間にか畑を作ったり、料理まで?」


「ああ。で、俺がウマいウマいって言うと、スゲーニコニコしてさ~」



 俺とアカさんの思い出話。さっきまで少し離れた場所で聞いていたのに、気づけばラルウァイフは身を乗り出して俺の間近で話を聞いては、うんうん頷いたり、少し顔が綻んだりしていた。

 それどころか……


「へ~、そんなオーガがいたんだ」

「ちょっと~、私たちの集落を襲った連中と全然違うじゃない!」

「アカさんいいひと! 私も会いたい~!」

「変わったオーガだね……」


 なんか、族長も奥さんも、エスピとスレイヤも仕事を中断して俺の周りに座り込み、さらには……


「それで、お兄さん。そのアカさんと仲良くなったのか?」

「ねえねえ、それで?」

「続き、教えてよ~」


 なんか気づけば他のエルフたちも俺の周りに集まって話を聞いていた。

 それがなんかおかしくて、でも、俺はもっとみんなに知って欲しかった。

 アカさんのことを……こんなオーガもいるんだってことを……


「アカさんは人間と友達になって……料理振舞ったりとか、戦碁とかゲームやって遊んで仲良くなりたいって言ってな……だから一晩中戦碁やって遊んだよ」


 ただ、もちろんそれは楽しかった思い出だけじゃない。

 

「でさ、アカさんがケーキ食べたいって言ってな……だから俺、助けてもらったお礼にケーキ買ってきてやろうと思って町へ行ったんだ……でも、俺がケーキを買いに行ってるその間に……」


 それ以外のことも……心が痛んだことも……



「ハンターの集団が……アカさんを襲撃していたんだ……」


「「「「「ッッッ!!??」」」」」


「俺が戻ったときには……家も畑も燃やされていて……」



 ここで忍者戦士とか言うとまたややこしくなるから、ハンターと一括り。

 でも……


「スレイヤくん! ハンターってそんな酷いの!?」

「ま、まて、ボクに言われても……」

「スレイヤ、あんたハンターなの!? いい? あんたはそんな無暗に誰かを襲う大人になっちゃダメよ!」

「いや、あの、イーテェさん……」

「くっ……人間め……やはり、人間とオーガでは……」


 なんか皆の方まで感情移入しちゃってるよ。

 アカさんにあったことを、みんな真剣に怒ってる。

 でも、その矛先をスレイヤに向けるなよな。



「ま、まぁ、でもさ……そんな炎の中……倒れていたのはハンターたちの方でさ……ようするに、アカさんに返り討ちにされたんだよ。アカさん強かったんだよ」


「「「「「おおおおお、流石アカさん! 優しくて料理もうまくて……しかも強い!!」」」」」

 

「あ、当たり前だ。アカがそんな雑兵に負けるはずがない!」


「でも、その炎の中でアカさんは泣き叫んでいたんだ。臆病な人間たちの所為で……悲しんで……そして怒っていた。誰よりも優しかったから、その分いろいろなことを我慢し続けたから、それをきっかけに怒りが出てきちまったんだ」


「そんなのアカさんなにもわるくないよ~!」


「そうだ、まったく……どこのハンターだ! 同じハンターとしてボクは恥ずかしいよ!」



 そして、逆に拳を突き上げて喜んだり……お前らちょっとの間にアカさん好きになりすぎだぞ? 嬉しいけどな。



「でさ。俺もそこで……色々と溜まってるアカさんの怒りを発散させてやろうと思ってな……喧嘩しようってことになって」


「「「「なんで!?」」」」


「はは、なんかお兄さんらしいな~……あれ? っていうことは、お兄さんのことだからまさかそのときに使った技が……」


「そう、アカさんのメチャクチャヤバいパンチと俺の……」


「「「「ヘッドバッド!!??」」」」


「……あ、ああ、それのぶつかり合いをしてな」



 あの日から色んな奴らと戦ってきた。俺もその激戦の度に、またその時からも修行を重ねて、あの日とは比べ物にならねえほど強くなったと思ってる。

 だけど、それでもあの時のアカさんのパワーを色んな場面で基準にしちまう。

 それだけ俺にとっては強く、重たく、そしてデッカイ拳だったんだ。


「そこからはもう、ごっつんごっつん……もう、頭がバカになるってぐらい俺とアカさんは正面からぶつかり合った。そう……今日のアオニーとのぶつかり合いみたいに、心の奥底にあるもの全部曝け出すみてーに」


 今思い出しても頭が痛くなる。

 でも、あれがあったからこそ……


「そして、そんだけやっても……やっぱ、アカさんはアカさんだった。正気を取り戻し……すぐに涙を流しながら、何度も俺にゴメンって……お互い様なのにな。でも……良いも悪いもひっくるめてお互いのことが分かった……俺はあの瞬間、アカさんと本当の友達になれたと思ったんだ」


 ただ、そのすぐ後で……

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