第312話 競うように

「ガアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 凶暴な火竜の群れに遭遇した。

 上空から火を吐いて森を燃やし、その鋭い爪や牙を振り回して暴れる。

 大型で敏捷性もあり、実に手強い……と、昔の俺なら思っただろう。


「パワーはアカさんと比べ物にならず、スピードも俺より遅く、戦い方も全部単調……吐き出す炎の威力はフー以下……何よりもバサラを見た後だとなぁ……なるほど……これが火竜か……」


 でも、今はこうだ。


「ふわふわパニック! よし、三匹目だよぉ!」

「ノーザンクロスシューティングスター! ボクも三匹目だ!」


 今はもうあれだ……火竜の方が可哀想になってしまう……


「大魔ソニックスマッシュ!」

『まぁ、所詮は野生の火竜。知能も低く、レベルもそれほどではない……今の貴様やエスピとスレイヤの相手になるまい』


 そして俺も拳の衝撃波一発で竜を昏倒とさせちまった。

 これまで俺が出会ったドラゴンって、冥獄竜王バサラだけだったから、アレに比べたら……つか、比べ物にならねぇ。


「へへ、そういや……フーとリヴァルは留学先で火竜の群れに襲撃され、それを討伐したってことでドヤ顔してたな……まっ、俺もやろうと思えばこんなもんだな」

「三匹! 私の勝ちッ!」

「ぼ、ボクだって三匹倒した!」


 シソノータミを目指して、深い森やら山を進んでいたところ、何やら火竜の巣に遭遇しちまったようで、俺たちに気づいた火竜たちは一斉に襲い掛かってきた。

 だが、トレイナの言う通り知能が低いからか、相手の力を分からないようで、俺とエスピとスレイヤでアッサリと返り討ちにしてやった。


「はいはい、二人ともいーこいーこ」

「む~」

「むむ~」


 というか、俺は一匹だけしか倒してねぇ。

 ここ数日、このようにエスピとスレイヤがどうも何事にも張り合っている様子で、なかなか困ってる。

 お前ら将来的に結婚すんだから仲良くしろよと思うが……


「で、二人とも……殺してないよな? 元々あいつらの巣を横切ろうとしたのは俺らなんだしよ」

「うん。気絶させただけ」

「無暗に生態系を荒らすようなことはしないさ。ハンターの基本だよ。でも、それはそれとして……これだけの火竜を倒したら、街の換金所かなんかで相当な報奨金がもらえるけど、それはいいのかい?」

「ああ。金には困ってないんでな……お馬さんで色々あって……」

「そうだよね。おにーちゃん、お馬さんでいっぱいお金もらったよね。スレイヤくんがいなかったときに!」

「む……」


 こうやって、「仲良くしろ」以外の俺の言いつけはちゃんと守るので、まぁ、仲が悪いことは我慢することなのかもしれねぇな。


「とにかくイエーイってことでいいだろ? ほら、タッチ!」

「イエーイ!」

「い……いえーい」


 三人でハイタッチして喜び合ったりしながら、俺らの旅は続いていた。


「しかし、ゲンカーンから平原を渡り山越えに入って数日……シソノータミまではまだ遠いな~」


 ちょっと目を離した隙に喧嘩しそうになるチビッ子を宥めながら、山の頂上から見える広大な森を目の当たりにして、まだ目的地までは遠いことを確認。

 つまりこの旅はもうちょい続くということだ。


「うん、そうだね。シソノータミへ辿り着くには……ほら、ボクの地図を見て。ここが、ボクらが今いるところで、もう2~3日経てば少し大きめの街、イッカナーイ都市があって、そこを経由しないといけないんだ」

「つまり、もうちょいキャンプか……」

「うん。でも、これだけの森なら食べられる獣とか果物とか野草とかもあるだろうから問題ないよね。その……カリーもまだ作れるでしょ?」

「ああ、そうだな」


 荷物から地図を取り出して広げるスレイヤ。子供とはいえここら辺は流石ハンターってところだ。

 俺も地図は持ってなかったので助かる。


「スレイヤはイッカナーイ都市に行ったことあるのか?」

「何回かね。あそこは結構色々な仕事が舞い込むことが多いからね。モンスター討伐、生態調査、あとはマフィアとか……エルフ絡みのこととか……とにかくボクに何でも聞いてね」

「ああ。助かるぜ」


 そう言って、また不意にスレイヤの頭を軽くポンポンしてやった。

 正直、数日前まではこの行為もこいつは「やめてくれないか? うざいんだけど」みたいな態度だったような気もするが、今は普通に受け入れている。

 それどころか……


「……ふふん」

「むぅっ!?」


 なんか、エスピに勝ち誇ったような笑みを向けたりするまでもある。


「……お兄ちゃん。私のふわふわ飛行ならもっと早く着くよ」

「いやいや、そこまで急ぎでもねーし……」


 エスピも対抗意識を燃やしたようにくっついてくる。

 飛行……確かにそれもアリなんだが……


『それでは何の訓練にもならぬだろう……これだけの山々や森はキャンプにはうってつけだしな』


 と、キャンプトレーニングも兼ねているので、師匠の言いつけもあって俺はそういうちょっとしたズルは控えることに。

 しかしその分、仲の悪いチビッ子たちの面倒も増えるのが少し悩みになるな……


「う~……お兄ちゃん、疲れてなーい? 肩もみしてあげるよ?」

「あっ、あざとい! お……お兄さん、疲れないかい? ボクがマッサージしてあげるよ」

「……むぅ、私がするの! マネしないでよ!」

「ボクの方が力あるから上手なんだ!」

「ぶぅ~」

「む~……」


 いや、仲が悪いというか、これはこれでこいつらは似た者同士なのかもしれねえな。

 何よりも、こういう場面はこれまで何度かあったが……


「はい、それまで。ケンカはメッだ。それよりもあそこに川も見えるし、今日はあそこでキャンプにしようぜ。カリーだ」

「あ、うん! カリーッ! よ~し、デザートは私が何か探してくる!」

「あぅ、カリー……うん、わかったよ、お兄さん。今日の火起こしはボクがするから!」


 そう、何度ケンカしても、結局カリーでこいつらはその争いを忘れてしまうのだった。

 恐るべしカリー。

 つか、こいつらカリーにハマりすぎだ。

 まぁ、現代でこいつら二人と会った時の、カリーが絡んだ時のあの豹変ぶりを考えれば分からなくもねぇがな。


『ふふん。それだけ余が考案したオリジナルカリーは素晴らしいということだ』


 トレイナもどこか嬉しそうというか、誇らしげに「ふふん」とドヤ顔している。まぁ、俺も好きだけどさ。


『しっかし、それなりに日数はかかるだろうけど、この様子ならシソノータミまではそんな難しい旅にもならなそうだな』

『ん? まぁ、確かにそうだな。一応、イッカナーイ都市はボクメイツ・ファミリーの傘下が居たところと聞いたことはあるが、所詮は二次~三次団体クラス……特にもめ事を起こさなければ問題ないであろうし、今の童が警戒するほどの相手でもあるまい』

『おぉ、ボクメイツ……なつい』


 カリーが待ちきれないとばかりに二人競うように走り出したエスピとスレイヤの背中を見ながらそう呟いた俺の言葉に、トレイナも否定しなかった。


『気を引き締めるのはシソノータミ周辺だ。その辺りになると、魔王軍も連合軍も近場にいるからな。両軍の目を掻い潜り、なんとか遺跡最深部へ……』

『そこにたどり着けば……現代へ帰ることが……』


 現代に帰る。それがこの旅の目的だ。

 ただ一方で、俺が帰るってことはつまり……


「お兄ちゃん、早くぅ!」

「お兄さん、何をタラタラしているんだい!」


 この二人と……それだけが俺の心を抉るな……でも、それまでは……そして、その時が来たら……

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