第302話 予想以上の興味
『風林火山という戦闘スタイル……一見、スピード、パワー、テクニック、ディフェンスとバランスが良いように見えるが、実はそうではない。弱点がある』
歴史に名を遺す六覇の一角と戦うっていうのに、相変わらず俺の師匠は頼もしい限りだ。
『まず、あやつがよく攻撃で使う風の技は、周囲に味方が多数いるときはあまり使えず、さらには敵ともある程度の間合いが無ければ使えぬ。敵が近くにいすぎると自分もダメージを負うことがあるからな』
『へぇ……』
『つまり、超接近戦に弱い』
その言葉の通り、俺はノジャの足元で足を止めずに動き回り、その上でノジャから一定の距離以上離れないようにした。
その結果、ノジャは俺に対して尻尾攻撃が出来ず、単純な爪とか踏みつぶし攻撃しかしてこない。
それらの攻撃は大振りで、特にフェイントやジャブのような技術があるわけでもなく、力任せに振り回すだけ。
「ほれええええ!」
「ここだ! ラガーンソニックスマッシュ!」
「ぬおっ」
今の俺なら避けるのは造作もなく、その上でちゃっかりとカウンターを叩きこむこともできる。
的がデカい分、どこだろうと拳を入れ放題だぜ。
と言っても……
『とはいえ、決定打にかける。あやつの林や山の防御も巨大な魔法やヒイロの魔法剣などの破壊力重視の攻撃に対してやるのであって……素のあ奴の耐久力には半端な攻撃ではビクともせん』
そう。俺がかなり拳に力を込めて叩き込んでいるが、ノジャにそこまで効いている様子がねえ。
体毛とか、単純な獣の筋肉みたいなものに阻まれて、芯まで響いてねえ。
そしてノジャもそのことを分かってやがる。
「にはははははは、ペチペチとやってくれるのじゃぁぁ~!」
ケラケラと笑いながらも目は真剣。
俺の攻撃をあえて受けながら、まるで俺の全てを観察しようとしているかのようだぜ。
『そうだ。あやつも貴様のブレイクスルーや、単純な動きや技術に興味を持ったのだろう……ジワジワと貴様を追い詰めながらも、色々と引き出そうとしている』
ノジャは油断している訳じゃねえが、俺相手に負けるとは思っていない。
ただ、俺を知ろうとしているかのようだ。
その証拠に、俺があいつの目とかそういう急所を狙ったら、それはちゃんと回避するしな。
こうなると……
『こうなると、重要になるのがどのタイミングでどの箇所に……大魔螺旋を叩きこむかにかかっている』
ああ。俺もまさにそう思っていたころだ。
「ほれほれほーーーーれぇぇぇ!!!!」
風林火山とかいうのを発動させないようにしたとしても、俺の攻撃が通用しないんじゃ意味がねえ。
ならば、俺の攻撃で最大最強……大魔螺旋を叩きこむしかねえ。
だけど、アレには発動にちょっとタメとか必要だし、何よりも大振りだから、普通に正面から打ってもノジャには回避される。
なら、どうやって当てる?
『ならば、決まっている。奴の死角から隙を突いて叩き込むしかあるまい』
でも、それができないから……
『そのためには奴に隙を作らせるしかあるまい』
『だから、それが――――』
『そのために……あえて、奴に風林火山を使わせる』
「……は?」
ん? 思わず声に出しちまったぞ?
つか、砂ぼこり舞ったり、大地が抉れるほどの爪が叩き落とされたりと、結構神経使ってるときに、トレイナは何を言ってるんだ?
『おい、どういうことだ!? ノジャに風林火山を使わせないようにこうして接近戦してるのに、使わせる? どういうことだよ?』
『そう、風林火山を使わせないようにしている中で……貴様がワザと隙を見せ、ノジャがチャンスと感じて風林火山を使う……そのときにこそ最大の隙が生じる』
『……? ……は?』
『とにかく、今は避け続けてあやつの攻撃や動きに慣れろ。レーダーを使える今の貴様ならば十分避けきれる。その上で、徐々に心を落ち着かせながら、余の話を聞け』
ノジャと戦う前のアドバイスと矛盾したことを言い出したトレイナ。
ダメだ。言っている意味がよく分からねえ。
『つか……今の攻撃だって当たれば死ぬかもしれねぇのに、これより強力な風林火山とかいう必殺技をワザと出させる……? それって……結構ヤバいだろ……つか、避けられるとはいえ今も結構あぶねえし!』
とにかく、ノジャの攻撃を一発でもくらえば一溜りもねえことを考えると、今はとにかく集中力を高めながら避け続けるしかねぇ。
「ラガーンクロスオーバーステップ!」
迷ってる暇はねぇ。とにかく動き回れ。
ノジャの攻撃を一手二手三手先まで予測予知した上で。
レーダーを駆使し、全神経を研ぎ澄ませろ。
「……ぬっ……ぬぅ……」
すると、激しい衝撃音が響き渡る中、ノジャの機嫌よさそうな笑いも徐々に収まりだしてきた。
なんだ? 急に不機嫌にでも……
「……本当に当たらないのじゃ……アッパレなのじゃ」
違った。なんか普通に褒められた?
『ふっ、相手は六覇だ。種族の違いがあろうとも、相手が強者であればちゃんと評価をするさ』
トレイナがそう言って、そう言えばヤミディレもパリピも何だかんだで戦いながら俺のことを認めてくれてたよな。
俺が勇者ヒイロの息子とかそういうのは抜きにして。
そして、それはこの時代の六覇だけじゃなくて……
「な、何者だよ、あいつ! あ、当たらねえ、回避してるぞ!」
「ボスのあの台風みてえな攻撃を全部……逃げてるんじゃなくて、避けてるんだ!」
「大将軍のあの強力無比な攻撃を……あの仮面……できる!」
離れた場所でこの状況を眺めているアマゾネスたちも、最初は乱暴に「やっちまえ」みたいに騒いでいたのに、見る目が変わってきている。
俺を評価……か。
ちぇっ、なんだよ……どうして魔王軍の関係者ばかりが、俺自身のことをちゃんと認めて……
『―――ばかり……ではなかろう? この時代においてはな』
「……あ……」
トレイナに指摘され、俺はアマゾネスたちとは別の場所で、ポーっとした表情で、だけど目を輝かせているあのガキに気付いた。
あの、仏頂面でひねくれていて、ちょっとメンドクサイあのガキが、俺を見て目を輝かせている。
あいつまで、俺を……
『それに……忘れたら怒る娘がいるだろう?』
『だな』
そう、それに今の俺にはエスピが居る。
そうだ……だからこそ……
『どうせなら、もっと驚かせてやる』
『うむ、それでよい』
ちょっとビビっていた心も、もっと度肝を抜いてやりたいと思うようになった。
だが一方で……
「アッパレ……しかし……なるほどなのじゃ」
「ッ!?」
攻防の中で、ノジャが再びほくそ笑みやがった。
「キレがあり、何よりも豊富なフェイント、足さばき……わらわの動きを読む洞察力……見事なのじゃ。しかし……それだけでわらわには勝てない。わらわの隙をついて、ペチペチ叩いている攻撃力ではの。そして、おぬしほどのレベルならばそのことに既に気付いているはずなのじゃ。それなのに、おぬしの戦いには目的や何かを狙っている匂いがするのじゃ」
「……ぬっ……」
「つまり、あるのじゃな? わらわにダメージを与えられそうな必殺技が。しかし恐らくそれは、タメとかあったり、大振りだったりで、真正面からではわらわに当てられぬ。ゆえに、それを当てるためにわらわの隙をどこかで突こうとしているのじゃな?」
いったん手足を止めて、ノジャがどこか得意気にペラペラと喋りだしたけど……バレてるよ……俺の狙い……
『ふっ、流石はノジャ……野生の勘、豊富な経験値……簡単には策にハメられぬか……しかし、それをペラペラ喋るか……まぁ、こやつらしいが……』
どうやら、簡単にはいかないようだな。トレイナも苦笑しているよ。
どうなる? ヤバいのか?
『べつに関係ない。童よ、足を止めるな』
「っ、お、お?」
『こうやって、あえて相手の狙いなどを口にして煽ることで、そこから貴様がどう動くのか、どのように反応するか、嫌がる反応を見せたりするか、などを観察しているだけだ』
観察しているだけ?
それに何の意味が……
『余の予想以上に、ノジャは貴様に興味を持ったということだろう』
「?」
『しかし気になるのはむしろ……あの時代……あの時のノジャの執着は確かにヒイロに……しかし、ラガーンマンにこれほど興味を示すとは……果たしてこれは史実に基づいているのか……考えるだけ無駄ではあるが……ふむ……まぁ、よい! 動け、童!』
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