第287話 嫌いじゃねえ

「くらえ、グレートシャイニングスターライトシャワー!!」


 そう言いながらナイフを投げて俺の動きを止めようとしてくるスレイヤ。

 刃物を軽々しく人に投げるなと思うが、俺が挑発した所為でもあるんだよな。

 だがどっちにしろ、シノブのクナイには及ばない。つか、たぶんこいつはナイフ投げる戦いに慣れてるわけじゃねえな。


「いいネーミングセンスだけど、ナイフ投げの腕前はそんなにだな。普通に追いかけっこしてた方が脅威だったぜ?」

「う、うるさいな! ならこれでどうだ!」


 スレイヤが両手を翳してまた魔法を練りだしている。

 今度はどんな武器が? 


「いでよ、ウルトラハイパーダークネスメテオストライク!!」


 するとスレイヤの手に、柄の先に鎖で括り付けられた巨大な棘付き鉄球が出現した。

 最初に出した対巨大生物用の大剣並みの仰々しさだ。


『おぉ、モーニングスターか……子供がアレを振り回すのは、なかなか奇妙な光景だな』

『はは、親父の武器庫にもたしかあったけど、ガキの頃はあれに見向きもしなかったな……』

『とはいえ、やはりガキか……ネーミングセンスが……』

『は、あんたがそれを言うか!? つか、あいつは子供のくせにカッケー名前を付けてるじゃねぇか』

『…………………もういい、なんでもない』


 子供にしてはなかなかマニアックな武器を造り出したもんだと、俺もトレイナも苦笑するが、確かにアレは当たればシャレにならねえだろうな。

 それをスレイヤは力いっぱい遠心力で振り回し、豪快な風切り音が甲板に響き渡った。


「おいおいおい、あぶねーぞ? 船壊すなよな?」

「うるさいって言ってるじゃないか! えい! 当たれ! 当たれ!」

「ったく……だからそんな重たいもの振り回してどうすんだよ……そんなもん、間合いさえ気を付ければ当たらねえよ」

「……ふん」


 自分の周囲にあるもの全てを吹き飛ばすような勢いで武器を振り回すスレイヤ。

 だが、巨大な武器ゆえにあいつ自身が走りながら使えるわけではなさそうだ。

 つまり、鎖の長さから、間合いは大体分かるので、距離さえ取れば当たらない……わけだが……それを分からずにスレイヤは無我夢中で武器を振り回している……わけじゃねぇ。


「今に見ていることだね……」


 スレイヤの目は明らかに何かを狙っている。


『童……』

『分かってる。間合いなんて……あいつの魔法の前じゃアテにならねー……だろ?』

『ふふ、そうだ。レーダーを習得してから、段々と余裕が出てきたではないか。まぁ、コジロウとの一戦が大きな経験値になったのだろうがな』


 トレイナの言う通り、俺は別にスレイヤを舐めちゃいねぇ。

 だからこそ、神経を張ってあいつが次に何をしようとしてくるのかが分かるからこそ、心も落ち着いている。

 そう、スレイヤの魔法は造鉄。つまり……


「……ここだ!」

「よっと」

「ッ!?」


 突然、スレイヤの振り回していたモーニングスターの鎖の個数が増えて間合いが伸びた。

 そう、あいつは武器を自分で造りだしているから、形状を変化させることも可能。

 つまり、使用中に武器の間合いを伸ばすことだってできるわけだ。


「そ、そんな……こ、これも……」


 俺に間合いの外なら当たらないと思わせておいて、間合いを伸ばして攻撃。

 しかし、それも事前に読んでいたからこそ、俺も冷静に対処することができた。


「残念でした♪」

「つっ、う……また……そうやって……またボクをバカに……はあ、はあ……」


 今のはスレイヤも相当な自信があったんだろう。

 さっきまでと違い、イラついてすぐに飛び掛かってくるわけではない。

 息も乱れ、その上で戸惑いとショックから、立ち尽くしてしまっている。


「いや、バカにしちゃいねーよ。お前はスゲーよ」

「なにを……」

「だからこそ、俺も油断しちゃならねーと思って真剣に集中して見極めようとしている。だから今のも回避できたんだよ。お前は……これからまだまだ強くなるんだろうな……」

「………………あ、え、あ……な、なに、今度は急に……」

「でも、俺だってそうさ。まだまだ、今のお前に俺は負けねーし、俺だってまだまだ強くなる」

「……む、う……ほ、褒めてるの? どっちなの?」


 戸惑い、ショックを受けていたものの、俺の言葉に何だか満更でもなさそうに狼狽えるスレイヤ。

 ちょっと照れてるように見えて、思わず笑ってしまいそうになる。

 そんなスレイヤに俺は思わず……

 

「俺もお前も結構スゲーんじゃねえの? ってことだよ。だから、お前も俺のことは少しぐらい認めてくれよな」

「あっ……」


 一歩近づき、その頭に手を置いていた。

 負けず嫌いで意地っ張りな子供のスレイヤに対して、アマエやエスピに今までしてやっていたみたいに。


「ぼ、ボクを子供扱いするな……」

「くははは、そっか、ワリーワリー。男の子だもんな」

「…………」


 しかし、アマエやエスピと違って頭撫でられるのは嬉しくなさそうなスレイヤ。

 ちょっと拗ねたように唇を尖らせて文句を言い、そして……あっ……こいつ、近づいた俺に対して様子を伺い……


「……たぁ!」

「おっと!」

「あ……」


 俺の隙を突いて捕まえようとして腕を伸ばしてきたが、その動きも俺は事前に察知したので難なく回避してやった。


「ったく~、油断も隙もねぇな~」

「う、うぅう……」


 ちょっと今のは卑怯だったと自覚があったのか、その上で不意打ちに失敗したことで余計にスレイヤは恥ずかしがって俯いてしまった。

 

「よし、ならお返しだ。俺の技を回避してみろ」

「え?」

「さぁ、構えろよ」

「ッ!? あなたの技……? ッ! な、何をする気だ……くっ、来るなら来い! 何が来ようと、ボクは絶対に……」


 今の仕返しを少しはしてやろうと、俺は笑みを浮かべてスレイヤに宣言。

 俺の技と聞いて、俯いていたスレイヤがハッと顔を上げて緊迫した表情で身構える。

 両目を大きく見開いて、俺が何をやっても絶対に見極めてやると意気込んでいる目だ。

 そんなスレイヤに俺は……


「……大魔よそ見」

「……? ……? ……あっ!?」


 あさっての方角へよそ見をし、それにつられたスレイヤもよそ見。

 俺の向いている方には特に変わったことは何も無く、スレイヤも訳が分からず一瞬首を傾げたが、すぐにハッとして慌てて顔を正面に戻す。

 だが、既に俺はそこにはいない。

 スレイヤの視線が逸れた瞬間に、俺はスレイヤの背後に回り込んで……


「どーん」

「……あぅ……」


 スレイヤの頭を背後からポンポン叩いてやった。


「またまた残念でした♪」

「…………」


 するとどうだ? スレイヤは無言になり再び俯いてしまった。

 しかし、徐々に肩が……いや、全身がプルプル震えだして……


「うううううう、あああああ、もう! ひ、卑怯者! 大人のくせに、うううう、ううううううう!!!!」

「くははは、いやいや今のはちゃんとした必殺技だ。この大魔よそ見は魔王軍の六覇だって引っかかる」

「そんなはずあるものか! そんな子供だましに引っかかるはず……ひ、ひっかか……いや、ボクはひっかかったけど……うぅぅぅぅう!!」


 スレイヤは最初のスカした棘のある生意気なガキの態度が一変し、怒ってその場で地団駄しだした。

  

「くははは、そんな怒るなって。言ったろ? 今のはちゃんとした技で……」

「うるさいな! だ、だいたい、あなたなんか……お腹さえ空いていなければ……」

「ん? なんだ、やっぱり腹減ってるのか?」

「……あ、いや、ちが……ちがくて……その……」


 そして、ついには言い訳。

 本当に負けを認めねぇ、意地っ張りなガキだな。

 で、墓穴を掘ってまた気まずそうに俯いて……


「ほら、じゃあソレは……カロリーフレンド、返さなくていいからさ、食って少しは補給しろよ」

「…………だ、だから、お腹は……」

「あっ、それとも……お腹が満たされても俺を捕まえられないと、他に言い訳が思い浮かばないからあえて食べないとか?」

「そ、そんなことない! ぼ、ボクは負けないさ! ああ、いいとも、食べるさ! 食べるとも! 補給してあなたなんかすぐに捕まえてみせる!」


 おぉぉ、チョロい! 俺の挑発でついにスレイヤがカロリーフレンドの袋を剥いてバクバクと食いだした。

 それが面白くて、俺は笑っていた。


『ふはははは、随分と童も意地悪ではないか』

『ん? そうか?』

『ああ。だが……スレイヤがどういう者かは分かったな』

『まーな』


 そう、このスレイヤについて大体分かった。


 結論、やっぱガキだ。

 天才で将来有望で、色々と素直じゃない性格だけどな。


 でも、天才だとかそういうのは抜きにして、俺はこういうやつ……嫌いじゃねえ。

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