第252話 悪魔の援助

『ボス~、もすも~す。応えてくれないと~……はい! コマンちゃん! アースくんの使用頻度が高い艶本のタイトルは!?』


『ふぇ? あ、あなた様は、お、女の子に何を聞いているのですか!? そ、そんな、アース君の使用頻度の高いエッチなのって……『快楽狂い! クールな巨乳お姉さま大全』ですけど……う~、錆びたノコギリであなた様の舌を切っちゃいますよ?』

 


 聞きたくない声と同時に、もう一人の声が聞こえて来たので、俺は慌てて懐から魔水晶を取り出して声を上げた。


「コラァ、コマンッッ! テメ~はどんだけ俺を怒らせれば気が済むんだ!」

『ひぅ、ご、ごめんね、アース君!』

「つか、その弱々しい演技はやめろ! だいたい、お前は何にも悪いとか思ってねーだろ!?」


 裏切り者でパリピの手下だったコマン。

 俺の隠し事までちゃんと調べていたみたいだが、正直どこまで把握されてるか分からないぶん、一番たちが悪いかもしれねぇ。



「で、何だよ急に連絡してきやがって」


『つれないな~、ボス。例のマスターキーの受け渡しとか、君が旅先で困っていないかの確認だよ~』


「そのボスはやめろ! あと、マスターキーとやらを渡してくれたら、後はかまうな。余計なお節介だ」


『またまた~、で、そこはゲンカーン漁港だよね? なら、オレの息がかかった……密輸を取り仕切ってる奴が居るから、君に援助しておくように言っておこうか?』


「だーかーら! 余計なお世話だって言ってんだろうが!」


『そうだ、女の子に困ってない? なら、コマンちゃんを送ってあげようか? いつかクロンちゃんと子作りするときの練習台に使ってみてもよし。誰も触れてない穢れのない女の子を君にプレゼントしてあげるよ!』


「そんなのいるか―――ッ! テメエはなんつう提案してんだよ!」

 


 あ~、ビックリした。つか、ここってあいつのテリトリーの一つなのか?

 密輸ってなんだよ? そりゃ、こんだけデカい漁港なら悪いことしてる奴らも一人や二人ぐらいいてもおかしくないだろうけども……

 あと、女ってなんだよ、女って!

 クロンとかシノブに好かれてなければ、ちょっとは考えたかもしれないけども……


『そんなのって……ひ、ひどいよ、アースくん……私、確かに胸も大きくないしスタイルだって……でも、肉人形の役ぐらいはこなせるよ?』


 いや、ないわ。この女、正体晒して開き直ったら、余計に分からなくなっちまった。

 


『ヒハハハハ、まっ、コマンちゃんが好みじゃないなら他も用意するよ? それこそ、百戦錬磨の娼婦を記したカタログ送ってあげるから、そこから選んでも良し♪ とまァ、それはそれとしてだ……本題に入ろうか?』


「何が本題だ! テメエから話をメチャクチャにしたんだろうが!」



 最初から休みなく俺も怒鳴ってる気がする。本当にこいつと関わると碌なことには……でも、カタログってちょっと……いや、別にいらないぞ? だけど、チラッと見てみたい気も……


『ヲイ……童……』


 いやいや、冗談だ。だから、そんな顔して俺を蟲を見るような眼で見てんじゃねえよ、トレイナ。



『え~と、マスターキーの到着は数日かかるけど、そこに入る密輸船の責任者に預けておくから。到着したら連絡するんで、ちゃんと受け取ってねぇ?』


「……密輸船……おい……なんか、ヤベエもんじゃねえのか? なら、全力で関わりたくねーんだが……」


『ヒハハハ、安心して。ただのハッパだよ。ハッパ♪』


「……葉っぱ? そんなもん密輸してどうすんだ?」



 パリピは賞金首ではない。だが、こいつは天空世界でもそうだったように、悪意ある事を楽しそうにやる。法律だとかそんなもん、何も気にしちゃいない。

 そんな男が密輸するものが何なのかと気になったが、ただの葉っぱか……


『おい、童……何の植物の葉か聞いてみろ……まぁ、どうせ……使用すれば……常習性があるものだろうがな……』

「ん? 使用すると常習性?」


 と、俺が大したことないのかなと思ったとき、隣のトレイナはムッとした表情で呟いていた。

 すると、俺がそれを口に出したことで、魔水晶の向こうから……


『おっ? ヒハハハハ、随分と鋭いねえ、アースくん。いや……誰か隣に居て親切に教えてくれたのかな~?』

「あ? なん……テメエ……」


 こいつ、答えをほとんど分かっているだろうに。とはいえ、それを確かめてくることはしない。

 それが何だか気持ち悪い。



『ヒハハハハ、まあそれはそれとして、ちゃんとマスターキーは受け取ってよね? で、あともう一つ君に渡しておきたいものがあるんだよね』


「な、なにい? 何だってんだよ……」


『軍資金に困ってるんじゃない~? どうせハンター登録とかできないんだろうし』


「ッ!?」



 その瞬間、少し俺はカチンときた。

 それはつい今さっきまで、汗水たらして地道に金を稼いだ達成感みたいなものを知ったからこそくる苛立ちだ。


「なんだ? まさかテメエ、俺に現金でも渡す気か? だとしたら余計なお世話だ。こちとら、労働のありがたみを少しずつ学んでいる最中なんだ。テメエみたいな野郎から恵んでもらう気はサラサラねぇよ」


 話の流れから、きっとパリピは俺に金の援助もしようとしているのかと思った。

 だからこそ、俺はその前に受け取り拒否を申し出た。

 しかし……



『ヒハハハハ、現金はいらないかい? でも、別のモノは必要になるでしょ? それは受け取ってもらわないと』


「な、なに?」


『だってそれは、ボスがこれから世界を回るためには、絶対に持っておいた方がいいものだからねぇ』



 世界を旅するのに、絶対に持っておいた方がいいモノ? 金以外で?

 それが何か分からず、俺もトレイナも一瞬顔を見合わせて互いに首を傾げた。

 すると、魔水晶の向こうからパリピは……



『決まってるじゃない。君の……『偽造身分証明書』だよ』


『「んなっ?!」』



 いるかそんなもん!

 たのむから、息をするように違法なことを口にして、人を犯罪に巻き込むんじゃねえよ!!

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