第223話 告げ口と提案
ヤミディレほどの女でも、やっぱこうやって驚くんだな。
「パリピ……お、い、ちょっと待て……アース・ラガンの……部下?」
『そうだよ、姉御。オレは部下になりました! 』
「貴様、何を企んでいる! クロン様の未来の夫となる、アース・ラガンに対して何を!?」
『オレは心を入れ替えた。そう、今日からオレは!』
「ふざけるなぁ! そんなこと、絶対に認めん!」
うん、俺もパリピが部下とは認めない。
しかし、それをヤミディレに言われるのもどうなのかとも思うが……
「なんだか、子供の結婚を認めない親のようなやりとりね、ハニー」
「な、なぜ、六覇のヤミディレがこれほどアースと……? 我にはもう何が何だか……そそ、それに、お、夫……」
「なぜこの者たちは坊ちゃまのことを勝手に……ぐぅ……」
だから、こういう周りの反応はもっともだった。
呆れた様子のシノブ。
混乱してる姫。
そして、自分にはもう何も言えないと思っているのか、複雑そうな表情のサディスを見ると俺も胸が痛む。
『まっ、姉御はアースくん……ボスのこと、何にも気づいてないようだね……な~んにもね』
「なに?」
『行き過ぎた恋と同じように、崇拝や信仰心は真実を曇らせる……まっ、そーいうことだから♪』
パリピはもう俺の秘密をある程度勘づいている。ただし、その答え合わせをする気もないし、向こうも俺に追求してくる様子はない。
一方で、ヤミディレは何も気づいていない。俺の中に、俺の傍らに常に居るトレイナの存在を。
そのことをパリピは鼻で笑うが、その意味を教える気もない様子で、余計にヤミディレをイラつかせた。
『さて、ボス。さっきの話の続きだけど……』
「待て、パリピ! この私を無視して話を進めるな!」
『あ~、はいはい……ボス。そこのバk……お姉様がうるさいから、少し離れてくれるかい? 内緒話っちゅうことで』
このままでは埒が明かないと、俺とコソコソ話を提案してくるパリピだが……
「ざけんな。テメエと話すことは何もねーよ」
まず、俺がこいつと話をしたくないので、その申し出も却下だ。
なのに……
『あ~、そういうこと言っちゃうんだ~、我がボスは~』
「誰がボスだ、ざけんじゃねえ! いいか? 俺はテメエなんか―――」
『お願いだよぉ、ボス! 絶対にボスの役に立つ情報だからさ! 聞いてくれないと、口が滑ってボスが一番好きなエロ本が『快楽狂い! クールな巨乳お姉さま大全』だってことを―――』
「うるああああああああああああああああああああ!!!!!」
その瞬間、俺は全ての音を遮るように叫んでいた。
だが、振り返った時、皆の表情が既に手遅れである事を告げていた。
「ハニー……男の子だものね。でも……ぐっ、巨乳……いいえ、諦めたらそこでバストは終了よ。私だって成長の可能性は……いざとなったら、忍法・豊胸の術が……」
「我は知らんぞ! サディス、本当か? アースがエッチな本は持っていたら、全て我に報告を義務としたはず」
「申し訳ありませんが、間違いありません。その艶本に関しては坊ちゃまが衣替え用のタンスの中に隠していたものです。しかし、あまりにも私には好都合なジャンル故に、それだけは処分も姫様への報告もせずに見てみぬフリし……ゴホンゴホンゴホン……ナンデモアリマセン。サディスワカリマセン」
「きょ……にゅう? アースは、きょにゅうというものが好きなのですか?」
シノブは溜息吐きながら自分の胸をモミモミ……なんかその拗ねた表情……かわ……い……。
つーか、姫の奴、何様だよ! 人のプライベートや趣味を何であんたが知る必要があるんだよ!
そしてサディスには実はバレてたとかこんな時にこの場所で知りたくなかった。
唯一よく分かっていないのは、クロン。そのまま健やかに育ってくれ。
「……アース・ラガン……クロン様は大きさではなく、美しさ……美乳だということは、貴様も風呂で見たであろう?」
「で、テメエも真に受けんな、ヤミディレ!?」
この暗黒戦乙女は何故そこで対抗してくる!?
いや、確かに見たけども! つか、キャノニコンしたから今でも鮮明に思い出せるけども。
でも、そんなことをここで言うと……
「「風呂で分かっ……え?! 一緒に入っ……え!?」」
ほらぁ、そのことを知らなかったシノブが反応するじゃん。
で、昔からこういうことにウルセー姫も。思えば俺が小さいときサディスと風呂に入ってるってことを聞いたこの姫はギャーギャー喚いて……
「はい? ええ、私はアースとお風呂に入りましたよ? 体もふきふきしました」
「「「「………………」」」」
「あと、アースのプラプラさんも見ました!」
「ハニーのぷらぷら!?」
「アースの……我ですら五歳の時に一緒にお風呂に入ったときに見たのが最後だというのに!?」
「頼むからクロン、もうお前は少し黙っててくれ!?」
こうなっては、シノブと姫だけでなく、フーとかリヴァルとかも物凄い軽蔑したような目で見て来るし。
一応事情を知ってるサディスだけは苦笑しているが、フォローしてくれる様子はない。
つか、ダメだ。早く何とかしないと……
『ちなみに、そのエロ本は二十冊のエロ本と共に、転校してしまった『オウナ・ニーストくん』から提供された中の一冊……だよね? コマンちゃん』
『……はい……』
「コマン! テメエは一体、何のスパイしてんだよ! つか、テメエら二度と会いたくねえけど、今度会ったら覚えておけよぉ!」
やっぱりあのクソ魔族、ぶっ殺しておくべきだった! コマンの邪魔さえなければ!
つか、あの時の事、コマンにバレてたのか。まぁ、オウナから貰った本の実際の数は十八冊だったけど……アカデミーから家に帰って念入りに数えたから間違いない!
『そう……実は中身確認のためにコマンちゃんもそのニ十冊のエロ本をアースくんが家に持って帰る前にアカデミーの休み時間中にチェック……それがコマンちゃんにとっても初めて読んだエロ本で、気付けばコマンちゃんは二冊ほどコッソリとネコババ、ほぎゃあああああああああ!?』
「「「「「ッッ!!??」」」」」
『ちょ、コマンちゃん、ま、ちょ、見えない、何も見えない! な……オレの両眼球を指で抉るとか……ちょ、これの再生も時間かかるのに!?』
急に聞こえてきたパリピの悲鳴。姿は見えないが、とてつもなくゾッとすることが起きたようだ。
ったく……
「あ~もう……どいつもこいつも……わーったよ。ちょっと皆はここに居てくれ」
「アース!?」
「ハニー?」
「坊ちゃま……」
「これ以上は精神が……ちょっとこいつと二人で話してくる……」
これ以上、こいつに変なことをバラされても困るしな。
俺は魔水晶を持ったまま、パリピとの会話を誰にも聞かれない距離へと離れた。
「で……何だよ、話って」
『はあ、はあ……いや~、女の子は怖いねえ、ボス。君も気を付けなね』
「さっさと言えよ……」
『あ、うん。あのね――――――』
「…………は?」
そして俺は、悪魔からの情報を得て、確かにその情報は悔しいことに必要ではあった。
『――――――というわけだ。まっ、既にカクレテールは姉御がほとんど統治と管理を行っていた……一方で、鎖国を頑なにしてきた旧体制が姉御たちによって滅ぼされているし、何よりも天空世界の攻撃でカクレテールは外部からの復興支援が必要不可欠な状態。連合が……ミカドのジジイが……ヒイロが干渉しないはずがない。もう、カクレテールに姉御とクロンちゃんは戻れない』
「……だろうな」
『だからこそ、コマンちゃんの親……コアソが帝国を離れると同時に、『彼』も裏工作して外に出した。もし、姉御の釈放に力の封印が条件で、今後ただの女になってクロンちゃんと路頭に迷うことになるのなら……オレに……そして用心棒として『彼』に預けてみないかい?』
その悪魔の提案に、俺はすぐに断ることもできず、しばらく黙って考えてしまった。
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