第215話 七つの星
リーチが違う相手と戦うのは初めてじゃない。
しかし、今回はアカさんやマチョウさんのように大振りな攻撃をする奴じゃない。
ブロやリヴァルよりも速くて強い力を持っている奴で、攻撃が掠っただけで致命傷。
まともな戦闘力だったらヤミディレの方が強いとのことだが、俺との戦いでは手加減していたヤミディレと違って容赦がない。
言ってみれば、過去最強の敵かもしれない。
これほどの奴と戦ったことなんて……
『さあ、左の衝撃波でリズムだ』
……ああ、そうだな。パリピより圧倒的に強い奴と戦った経験はほぼ毎日あったな。
「大魔ソニックフリッカー!」
「あ~あ、またそれかい。つまらねーな」
フットワークで常に動き、間合いを図りながら左の遠距離パンチを叩き込む。
とはいえ、六覇のこいつには多少うざったいと感じさせるだけで、致命傷までは与えられない。
「ペチペチビンタするだけじゃ、オレは倒せねーよ?」
そう、こいつにダメージを与えるには右の大砲や大魔螺旋を直接叩き込むこと。
だが、そのためにはこいつとの距離を詰めて、確実に当てられるシチュエーションを作らなければならねぇ。
「なぁってば……逃げてんじゃねーって!」
「ッ!」
「ち、オラ! ラ!」
視線、足の踏み込み、筋肉の軋み、パリピの全てに集中する。
パリピの攻撃が届かない範囲の距離を常に維持し、向こうが詰めてこようとしたら、その分だけ離れる。
その攻防を何度か繰り返すと、段々パリピがイラついてきているのが分かった。
「ふ~ん……本当にメンドクサイ足だねぇ……スピードというよりも、走りの質? まさか、ヒイロの息子が剣は二流だけど、パンチと逃げ足はまあまあとはねぇ」
『会話の流れで唐突に魔法を放ってくる気だ。多分、褒め殺しで貴様の心を緩ませた隙に打ってくるぞ? 構わず潰せ』
「だが、これは才能じゃねえ。間違いなく努力の結晶だ。なるほど、君はそういう意味では天才か……うん、努力の天才だ! 闇属魔法――」
「大魔ソニックジャブ」
「へぶっ!」
会話の流れでいきなり魔法を放とうとするパリピだが、トレイナに耳打ちされていたので冷静に事前に対処することができた。
魔法を発動しようとする手と口に左を叩き込んでやった。
「ペラペラ喋んなよ。どーせ、テメエの言葉なんざいい加減なんだからよ」
「……あ゛あ゛……そ゛う゛な゛の゛?」
口元は笑っているが、血管が怒りでブチブチと浮き上がっていく音が聞こえるかのように、パリピの額がすごいことになっている。
とはいえ、ヤミディレのようにこれで我を忘れて俺に向かってくるほど単純じゃねえ。
「もう……マジで……おこなんだけど……どーしてくれんだい!」
「知るかよ!」
「このガキ……なら……」
『童、注目しろ。ここで貴様の注意を逸らすために、パリピはひょっとしたらクロンたちに攻撃するかもしれぬ』
それは、最初のハゲがやられた時と同じ戦法。
俺の意識を逸らしたり動揺させたりするためだけに、あえて俺の周囲を攻撃する。
『もし奴の意識が貴様から向こうの連中に向いたら、容赦なく叩き込め』
だが、トレイナに事前に教えてもらえさえすれば、むしろこいつが俺から意識がそれた瞬間こそ俺の好機でもある。
ならば、逆にそれを狙うことも……
「……ちっ……」
「ん?」
そのとき、パリピが一瞬何かを考えるような様子を見せるも、皆に攻撃することは無く、俺に意識を向けたままだ。
『ほう。こやつ……どうやら、思ったより貴様を警戒しているようだな』
そんなパリピの様子に、トレイナも口元に笑みを浮かべた。
『貴様のこれまでの戦い方……動き……それらから、貴様の動揺を誘うためだけに貴様から一瞬でも意識を離すのは危険かもしれない……そうパリピは考えたのだろう』
それは何とも光栄だ……と思ってもいいのかな?
六覇相手に警戒されるってことに。
『だからこそ、より集中しろ。相手を侮らずに警戒し、集中した六覇を出し抜くのは骨だぞ?』
まあ、その通り。難易度がかなり上がったということだ。
そして同時に……
「あ~、まいったな……できれば知りたかったんだけどなぁ……君にまつわる謎。そのうえでお友達になって、これから先の新時代をパナイ盛り上げて欲しいんだが……」
「あ?」
「まいったまいった……ガキ相手におちょくられてムキになるのも大人げないが……いっか、まっとうに引き裂くかぁ!」
禍々しさが増した。これは……
「クソガキがぁ!」
「ッ、速いッ!?」
「おらぁ、ちまちまチョコマカしてんじゃ、ねーーよお!」
吼えて、スピードが更に上がっ―――だけど、俺のミスディレクションでそのタイミングをズラせば……
『広範囲攻撃だ! 大魔螺旋の竜巻で吹き飛ばせ!』
「引き裂かれちまいな……狂凶葬爪曲! ドレミファソラシドを奏でろォ!」
「大魔螺旋アース・スパイラル・ウォール!」
「ヒハハハ、出したか! しかも、意外といい判断! ……だが!」
打撃や中距離攻撃ではなく、広範囲の攻撃。
それならばと放った大魔螺旋を頭上に掲げることによって巻き起こる竜巻の壁で全てを弾き飛ばすが……
「ブレイクスルー状態で大魔螺旋を使えば、魔力はすぐにスッカラカンだろう!」
『そう思わせて、魔呼吸はまだ使うな! 『キロ級の魔法三つ分』だけの魔力を残せ!』
パリピは知らない。俺が魔呼吸を使えることを。
ならば、これもまた戦略の一つ。
「ヒハハハハハ、竜巻晴れてこんにちは!」
「アース・ミスディレクション・シャッ――――」
「おせえ! チョロチョロ目障りだが、要するに足元さえ砕けば!」
「ッ!?」
数日前のヤミディレとの戦いでもやられた、俺の足元を砕いてフットワークを使えなくする戦法。
僅かな攻防でパリピも俺の弱点を見抜いて突いてくる。
もっとも、その手は経験済み。
「土属魔法・キロアースロード!」
俺はしゃがんで砕けた床に手をかざし、足元に土を敷き詰めていく。
「ッ!? 初級魔法とはいえ土属魔法で……足場を?」
足場を作ってフットワークを使えるようにする。
これにはパリピも少し驚い――――
「ひははは、ちょこざいな! しゃらくせえ!」
「ぶぼっ!?」
しゃがんだ俺が立ち上がってフットワークを発動する前に、俺のボディにミドルキックを叩き込んできやがった。
「戦場では一瞬の出遅れが命取り! 僅かでもオレの前で止まっただけで命取りなんだよォ!」
『来るぞ! 接近戦だ! 奴の腕だけを見ろ! 足は見なくていい! 足の攻撃は覚悟を決めて食らえ! 全て回避は今の貴様でも無理だ!』
「しゃああああ!」
「がふっ!?」
ついに、捉えられた。
奴の爪を俺の動体視力とゾーンで回避するも、六覇の体術を全てそれだけで回避するのは不可能。
俺が上半身ばかりに意識を向けているため、下半身の蹴りまでは対応できねえ。
ふたたびパリピのミドルキックが俺の腹部に突き刺さり、内臓がイクぐらいの衝撃。
「ヒハハハハ、オレの爪にしか意識が向けられてない? いや、オレの爪をそれだけ警戒してるってことだが、その結果、オレの足技に何もついてこれてねーぞ! そして、その結果、爪もくらう!」
『頭上から振り下ろしの爪、それを左に回避し、すかさず回り込んで来る奴のトゥーキックは、額で受けて耐えろッ!』
「っと……ぶぐっ!」
俺の足が止まる。悶絶で顔が下を向く。トレイナの指示で飛びのくように地面を転がって逃げるが、そのまま回り込まれた奴のつま先で思いっきり蹴り上げられた。
「ガッ、が……大魔ヘッドバット!」
「うおっ!?」
額が潰れたか? 頭にガンガン響く……一瞬の「耐える」という覚悟が無ければ、確実に意識が吹っ飛んでいた。
でも、アカさんのパンチに比べれば……
『そこだ! 奴が一瞬つま先の痛みで止まる! 股間に向けてスマッシュを叩き込んでやれ! 勿論それは当たらないが―――』
「潰れろお! 大魔スマッシュッ!」
「おっと……ひはははは、世界の乙女のために潰せるかい! だが……やってくれたなぁ、ガキィ!」
「がっ!?」
大魔ヘッドバットで奴の爪先を打ち抜いたのにダメージがねえ。それどころか、もう一度俺の顔面を石ころでも蹴るかのように勢いよく……
「アース! あ……だ、だめか……」
「つ、強い……強すぎる……これが六覇……俺たちでは……」
「ハニー……」
ああ……聞こえてくる……俺を気遣う声が……
「も、もう我慢できん! やはり、我も!」
「ま……待って、姫様!」
「フー! 離せ! このままではアースが殺される!」
「でも!」
「でもではない!」
そう思われても仕方ねえだろう……でも……これは全て……
『ちっ、流石に向こうの我慢も限界か? だが、邪魔だけはしないでもらいたいものだが……』
これは全てトレイナの思惑通り。
勝つための。
俺が体術を駆使して、あいつに追い詰められ、そこから……だから……
「アース……私は……あなたを見てきました。今も目を離しません。あなたを信じて……だから……勝って! アース! 頑張って!」
そうだ。手出しはいらねえ。
応援して、あとは祈ってくれりゃそれでいい!
そして……
『そこだ! 奴が後ろ回し蹴りを放つ! その角度、その位置で受けて……吹っ飛ばされろ! そして、その直後に魔法を放て! 放つ魔法は二つ! 土壁で一瞬奴の視界を塞ぎ……そして『アレ』を拾ってからの雷!』
うまくやってやる!
この一回だけ通じてくれればいい!
これが生涯最後の……で……いいから。
『たとえ貴様を警戒していようとも……今のパリピは、『その攻撃』だけは完全に予想外だ! 思考の死角! 反応も対応もできぬ! 叩き込め!」
そして、悪いが……そこに落ちてるソレ……勝手に借りるぞ?
グランシャリオ。
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