第177話 最悪
突如天から響き渡ったのは、どこか威厳に満ち溢れた声。
言い換えれば、スゲー偉そうな声。
状況からして、こいつらの更に上の身分の奴……っていうか……親?
「ダディ……」
【先発隊を自ら志願しておきながら、このザマが? ……これだから、出来損ないは……】
こいつが王子なら、こいつの親となると……王?
とはいえ、親子なはずが、あまり仲はよろしくない? まぁ、親子だからって仲良しである必要はないんだが……
「この声……まさか……」
一方で、ヤミディレは何か心当たりがあるのか、天から聞こえた声に目を大きくしている。
いや、今はそんなことよりも……
【武装した部隊で赴いても脅しにならぬなら、力差を見せつけて徹底的にやればよいというのに】
「ま、待って、ダディ!」
【天も地上も、地の奥底の魔の連中も、圧倒的な武力の前には従順になるはず! こんな風にな】
なんだ? 何をする気だ?
【テラ・ストーム!!】
なに……をっ!?
「なっ……おい……」
「あれは!?」
穏やかな水平線の先に突如現れた。
「風の魔法……嵐!?」
「ででで、でかっ!?」
何もない海に巨大な渦巻く竜巻が吹き荒れて、海岸に激しい波を打ち付ける。
それは正に、何の前兆も無く現れた天変地異。
『……テラ級か……一応……半端者ではないようだな……』
『トレイナ!?』
『そしてアレは……警告だろうな』
そうだ。あの巨大な竜巻が天空の王とやらの仕業だとしても、今、この場に居る俺たち全員を巻き込むこともできたはず。
しかしそれをせず、あえて少し遠い海の上であんなものを出現させた。
ってことは……
【ヤミディレ。そして、人形よ。大人しく来ないのであれば、次はその島国で……最も人の多い居住区を壊滅させる】
「ッ!? な、に?」
【二度も言わすな。地上の種が何人死のうと、ワシは一切容赦はせん】
そう。今のはただのデモンストレーションで、大人しく言うことを聞かなければ次は……。
そしてその脅しは、ヤミディレだけが相手だったら微妙だったかもしれないが、連中の目的の中にはクロンが居る。
心優しいクロンは……
「っ、ま、待ってください! やめるのです! 皆さんには手を出さないでください!」
こうなる。当然のことだ。
これは、力ずくで来られるよりも効果的だ。
このやり方で来られては、大人しく従う他ない。
しかし……
【ワシに指図するな、人形が】
「ッ!?」
【テラ・スパーク】
そして、相手もまた、胸糞悪いだけじゃなく、本当に容赦も躊躇いも無かった。
唱えられた雷の呪文。
しかし、それは海にも、そして俺たちにも降り注がなかった。
代わりに……
「ちょっ!?」
「なっ……え?」
少し離れた場所に落ちる雷。弾ける閃光と轟く雷轟。
その全ては……街の方から聞こえてきた。
「お、おい……!」
「な、い、いやああああ! な、な……なんてことを!?」
「こ、れは……」
「うそっ……」
ここからではどうなったかがすぐには分からない。
だが、巨大な雷は間違いなく街へ落ちた。
街は……
「あ、ああ……そんな! な、何でこんなひどいことを!」
「……ちっ……貴様……」
「ダディ! 待ってくれ、なんで……こんなことをしなくても、僕たちが!」
あまりにも容赦も慈悲も無い天空からの攻撃に、崩れ落ちるクロン。
歯軋りして雲を見上げるヤミディレ。
そして、その子でありながらも悲痛な顔を浮かべるガアル。
「く、そ野郎が……! っ……おい、シスターの姉さんたち! ツクシの姉さんもカルイも、サディスも! 今すぐ、街へ戻れ! 早く! 助けが必要かもしれねえ!」
街は今、どうなっている? 被害状況は分からないが、どうしても最悪を考えちまう。
無事か? 生存者は? 被害状況は?
「坊ちゃま……しかし!」
「早くしろ、サディス! お前の回復呪文も必要かもしれねえ!」
「ッ、……くっ……」
とにかく、考えている場合じゃねえ。だからって、全員街へ戻るわけにもいかねえ。
このままクロンとヤミディレを連れて行かせるわけにもいかねえ。
なら、俺だけでも……
【不愉快だ。次は、そうだな……そこに居る、女どもでもまとめて――――】
まずい! 今度はここに居る皆に?
「っそが! このクズ野郎が! 大魔――――」
雷? 嵐? もういい、何が来ても、残る力全てつぎ込んでも、大魔螺旋で受けて、そしてぶち壊して……
「……あ……」
『童!』
「坊ちゃま!?」
アレ? 俺、どうして? 急に……瞼が重く……体に力が……
『魔呼吸の多用……魔力放出量の多い、ブレイクスルーと大魔螺旋の連発……単純に大会やマチョウやヤミディレとの戦い……その全てが合わさって、既に貴様の肉体が限界なのだ……』
限界? バカな。今、動けないと……このままじゃ……
「坊ちゃま、しっかりしてください、坊ちゃま!」
ああ、起きろよ……俺……男だろうが! 今、動け……ないと……強くなった意味が……あ、だめだ……
「わ……分かりました! 私は、大人しく―――――」
「「「「「ッッッ!!!??」」」」」
だが、俺たちが何かをしようとする前に、クロンの口からソレを言わせ……
「おい! 聞いているか、『ディクテイタ』! 貴様なのだろう?」
【ほう……ワシを……覚えているか?】
「そんなものどうでもよい! とにかく、……クロン様だけは諦めよ! さもなくば、今この場で私はこの両目を自ら潰したうえで、自害する!」
「「「「「ッッッ!!!??」」」」」
だが、そのとき、もっと予想外の言葉がヤミディレの口から発せられた。
【……ほう……そう来るか……】
「ふははは、まさか貴様が天空王になっているとはな! ただでさえ見せかけだけのクソカスだった天空族の格も、数百年で更に大きく失墜したものだな! どうせ、貴様のことだ! 国民からの支持もそれほど得られていないのだろう?」
【………………】
魔力も底をつき、更に俺との戦いで負った痛みも治っていないというのに、ヤミディレは天空王に向かって激しく挑発し、その言葉に天空王も反応している。
どうやら、本当に知り合いのようだ……って、やべえ、俺も……もう、意識が……
「私を捕らえ、公の場で処刑をすることで貴様の支持率を上げようとでも短絡的なことを考えているのだろう? そして、あわよくば私の紋章眼もストックとして入手しておきたい……そんなところだろう?」
【……くだらんな……そんな見当違いな認識で、ワシと交渉のつもりか? 数百年経っても相変わらず思い込みの激しい……】
「ならば今……この両目を潰したうえで舌を噛み切ってやろう……どのみち、我が計画が頓挫した以上……もはや、この世に未練もない!」
【………………】
薄れゆく意識の中、ついに俺も限界に達した。
脅しではない、ヤミディレの言葉……そして……
「ヤミディレ、待ってください! あなたが行くのなら、私も……」
「クロン様……どうか……何があろうとも……あなたが……最後の希望なのです……」
「でも!」
「何を犠牲にしようと、誰が死のうと、何が滅びようと……あなた様は何があろうと生き延びるのです」
「いや! そんなのダメです! あなた一人を犠牲になど……あなたは、私の――――」
俺が最後に見た……そして聞いたのは、涙を流しながらヤミディレに縋りつくクロンと……
――アース・ラガン……クロン様を……
俺に託すかのようにそう告げるヤミディレの声だけが、最後に聞こえた。
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