第162話 奴を許すなぶっ殺せ
今……なんて?
なんか、サディスから物凄く妖艶な空気が……
「え? あの……サディス?」
「はい」
「……どうし……」
「ですから……約束は……約束です」
「で、でも、俺はもうサディスから卒業で……だから無理に約束なんて……」
全てのキッカケは俺からだったはずなのに、俺はサディスのまさかの行動と言葉に動揺を抑えきれない。
酒を飲んで一度熱くなって、でもサディスに怯えて冷めて、なのにここに来てまた体が熱くなって、頭がグルグル回り始めた。
「無理は……していませんが……」
「え?」
無理していない?
「なん……で……そんな……」
「そ、そんなことまで聞かないと分かりませんか!?」
「だ、だって……その……せっかく……サディスと向き合えて……だけど、ここでまたバカやって嫌がられたり……嫌われたらと……」
本当なら今すぐにでも飛びつきたい。
だけど、俺は酔いの残っている頭に最大限のセーブをかけ、拳もこれでもかと握りしめて耐えている。
だって、これでもしまた……サディスと気まずく……なんてことになったらと思うと、その方が怖かった。
だが、サディスはゆっくりと手を伸ばして俺の頬を撫で……
「そ、それは……心配ないと思います、坊ちゃま」
「ぇ……」
「私も……経験が無いので説得力ないかもしれませんが……仮に余程のことだったとしても……嫌がったり……ましてや、私が坊ちゃまに何をされても……嫌いになどなるはずもありませんし……」
嫌いにならない。しかも、別にサディスも嫌がっている様子はなく……むしろ……
「そ、そう……なの? それって、俺に対する償いとかそういうので我慢してるわけじゃ……」
「坊ちゃま……私も……女ですよ? 償いで胸を触らせるぐらいなら、死んで償います」
「ふぁふっ!?」
「それに……私とて……坊ちゃまにこういうことを教えられる日が来るのを……むしろ……」
もう、その瞬間、頭の中がもう何かが切れそうで、でもそのギリギリ保っていた糸は……
「あ……お、ああああああ……でも、でもぉ……こんな……」
「坊ちゃま……ご安心ください。……旦那様と奥様には……内緒にしておきますので」
「ふぁっ!?」
もう、プチンと切れた。
ベッドに腰を下ろしているサディスは、「女」の顔をして微笑み、年上女性としての立場を保とうとしたのか、恥ずかしがりながらも人差し指を口元に当てて「し~」って内緒のポーズをして……俺はそれに吸い込まれそうになりながら自然と手を……
「え?」
「ひっ、あ、え? サディス?」
しかし、俺の手がサディスの双丘に触れようとした瞬間、サディスは驚いたような声を出し……え? なんだ? やっぱダメだったか?
「あ、いえ……申し訳ありません……ふ、服の上からだとは思っていなかったので」
「……………?」
「あっ、いえ、いえ、その……坊ちゃまがそれで満足というのであれば別に……」
服の上からだと思ってなかった?
「服の上から……じゃなく……っ!? え?! え、ええ!?」
「あっ、ぼ、ちゃ、ちが……い、いえいえ、それでも私は……」
「いい、いっままま、まあああ、ななあ、にい!?」
「ぼ、坊ちゃま! ど、どー、どー、どー……あ、あまりがっつかないでください。逃げませんから」
服の上から揉むんじゃなくて……じゃあ、サディスは何を思ってたの?
え? 俺の言うおっぱいって、何のことだと思っていたの?
「あ……その……い……いいの?」
「あの……その……べ、別に私は……そもそも最初から……」
ッ!? サディスが目を逸らし……顔が真っ赤!? サディスが照れてる? 恥ずかしがっている!?
こんなサディス初めて見た!? なにこれかわいい!!
「そ、その、私も経験がありませんので……童貞ふにゃちん坊ちゃまには難題かもしれませんが……で、できれば最初は、ゆっくりしていただけましたら……」
口元で人差し指の第二関節を軽く噛みながら目をトロンとさせるサディス。
「ゆっ、くり!? ゆっくりって、そんな時間をかけていいのですか?!」
バカ、何で俺は敬語を使っているのですか?
「坊ちゃま……その……よろしければ……服の背中から手を……その……ホックを……」
「なん……の……ホック?」
応援用の服を着ているサディスは上のシャツを少し上げる。
ほっそりとしたウェストとど真ん中の……へそが見えて……レースの白い布が少し見え――――!?
「坊ちゃま……背中から手を……」
「あ……わ……う……あ……」
白き何かが俺の視界に完全に収まる前に、一回俺に背中を向けるサディス。背中から手を入れて何のホックを外せと!?
あ、背中に……見える。こ、この部分を外すの?
「こ、こ、こここ、これ?」
「あぅ!?」
「ひゃっ、え、あ……ごめ……」
手が震えて俺の爪がサディスの背中に……でも、サディスは痛いというよりは、くすぐったかったのか、苦笑しながら……
「坊ちゃま……慌てないでください。がっついて、間違って引き千切るような真似は女の子に良く思われないこともありますので、覚えておいてくださいね?」
「ご、ごめ……ん……」
「力もいりません。ちょっと指を動かすだけで……」
「は、はいい……ごめ、俺、知らなくて……」
「……自分で脱ぎましょうか?」
「やっ、はずさせてく……が、んばります……」
「ふふふ、レッスン1……ですね♪ ふぁいと、坊ちゃま」
背中越しからでもサディスの顔が真っ赤になっているのが分かる。
俺は……あ~、でも俺はシノブに告白されて、今日はクロンとお話ししなくちゃいけないわけで、でも、おっぱいは別腹ということに? いや、俺、そんなんでいいのか?
――好きよ、ハニー!
――アース、ごきげんよう♪
違うだろう! 俺は……帝都で誰も俺のことを俺として見てくれなかったから、だから俺を俺として見てくれた……シノブなんて、そんな俺を好きだと言ってくれた。クロンは俺の話を聞いてくれた。
だから……どうしよう。触りたい。ん? あれ? 考えがまとまらん!
だが、色々な意味での分岐点になりそうだ。
少なくとも、ご褒美という名目だけで触ったら、たぶん、俺は一生軽蔑……と同時に俺の指がホックに触れる。下着にも触れる。少しザラっとした感触だ。
これをゆっくり、横にズラすだけで……
「あんちゃーん、大変だー!!??」
と、その時だった。
「「……?」」
廊下を駆ける音とカルイの騒がしい声が聞こえて……同時に外からも、悲鳴のようなものまで……なんだ?
「大変だよー! なんか、なんか……外で、ヨーセイ先輩が来て……急に、あんちゃんを出せって……『試合なんてリハーサルじゃなくて、本当の殺し合いを』とかどうとか……なんか普通じゃないんだよ!」
何事かと思えば……はははは……あの野郎……
「……坊ちゃま?」
「……い、いや……別にもうちょい……」
なんでよりにもよって今!? せめて、せめてひと揉みだけでも……
「あんちゃーん! おーい! サディスさん、もうあんちゃんを怒ってる場合じゃないっすよ! あんちゃん!」
「「…………」」
鍵をかけたドアの向こうで何度もドンドンノックして騒いでいるカルイ。
いや、俺は今、取込み中で……つか、ヨーセイ?
よりにもよって、心底どうでもいい野郎が来たから何だって……
「あっ……」
「……あ」
その瞬間、俺たちの居た部屋の壁が吹き飛ぶように爆発した。
「「……………」」
咄嗟に気配を察知してベッドから飛び退いた俺たち。
そして壊れた壁の向こうからは悲鳴と……
「ふー、はー、ふー、はー……出てこい……あんな和やかなお祭りでの遊びで……結果なんてどうでもいいとはいえ……あれで、俺の女たちは傷ついた……こふー、こふー……お前の所為だ! お前を倒す! そして、試合とは違う、実戦の厳しさってやつを―――――」
なんかものすごい顔……顔面崩壊して神経やら血管が浮き出て、滅茶苦茶息を荒くして興奮していて、目も血走って……
「お……まえ」
「出てきたな? ぜー、ぜー……う、ぷ……はあ、はあ……実戦に足を踏み入れるからには……自分が狩られる覚悟も――――」
「どうでもいいわあああああああ!」
「へぶっ!?」
でも、本当にどうでもいいのでとりあえず殴ってぶっ飛ばした。
「ちくしょ……が……じゃま……しやがって……くそがあああああああああ、俺に恨みでもあんのか! こんな不幸があるかぁ!!」
正直、ヨーセイの顔を見た瞬間に殴ってしまったので、外の状況がまだよく分かっていない。
しかし、それでも俺はお預けくらったこの状況に、これ以上ない自分の不幸を呪った。
だが……
『いや……一番不幸なのは、一部始終を見せられながらも、部屋の隅でのけ者にされながらも、邪魔をしないように黙っていた余だろう……というか、むしろ邪魔をしてくれたあやつを、でかしたと思ってしまった……』
あっ……なんか……トレイナが部屋の角でポツンと座って寂しそうに呟いていた。
『あと、服を着ろ』
「……あ」
そして、俺は慌てて服を着た。
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