第120話 優勝したら
『マジカルバイオテクノロジー! 余の細胞! そして、器に必要な大魔の力! つまり、ヤミディレの目的は、貴様とクロンをくっつけて子供を作らせ、その生まれてきた子を次代の神にすることだったのだよ!』
「なっ……なんだってーッ!?」
世界連合、帝国、七勇者すら知らない六覇残党の真の目的。
トレイナが導き出した衝撃の真実は……
「って、いきなりすぎて分からねえよ! これまでの説明が意味不明過ぎて、その結論がまるで飲み込めねーよ!」
『……だろうな……余も途中からそう思った。噛み砕いた説明をしても伝わらぬだろうし、だからといって長々説明してもな……』
「特に……なんだ? 遺伝子情報? それで同じ細胞を持つ者を作る? それがクロン? ……ワリ、何がどうなって何でそうなるのかが初めて聞く言葉が多すぎて分からねーよ」
海を眺めながら過去の事を語りだしたトレイナ。
「しっかし、本当に理解が追い付かねえほど壮大な話だな。一体、そのシソノータミって何だったんだ?」
『言っただろう? シソノータミではなく、シソノータミの地の下にあった遺産だ。シソノータミの連中が生み出した技術や魔法ではない』
長々と説明した挙句、最後に物凄い迫真の表情で迫るように告げるトレイナだったが、言われた内容のほとんどが、そこそこ賢いはずの俺でもよく分からないものだった。
「そして俺が気になるのは……その……」
『ぬっ?』
「色んな言葉で長々説明されたけど……ほんとに……クロンが……あんたの実の子供……ってわけじゃねーのか?」
『違う! 余は生涯独り身だ!』
「でも、血が繋がってるんだろ?」
『というより、同じ遺伝子の生物だ』
ダメだ。分からん。ただ、とにかく言えることは、クロンはただの魔族じゃないということ。
そりゃ、あのヤミディレが「女神」なんて言って過保護にしているぐらいだからな。
そして、そのクロンはどうやらトレイナの実の娘ではないものの、トレイナと同じ存在。これは意味が分からんかった。
「う~ん、よーく見たら……あんたと似てなくも……ないのか? うーん……今朝会ったばかりで、そこまで顔をマジマジと見たわけじゃねーしな……」
『まぁ、育った環境も学んだことも経験も何もかもが違うからな……』
トレイナが認知してないとかそういうことではなく、本当にクロンが実の娘ではないということ。
で、トレイナは生涯独身だったということか。
「まぁ、今の俺にはその、シソノータミの地下に眠る遺産の一つとやらがまだよく分からねーが……とりあえず、それは一旦置いておくとして……問題はこっちだ」
『ん?』
「何でヤミディレが俺とクロンを結婚させようとしてるんだ?」
そう、一番の問題はそれだ。その理由だけがまるで分からなかった。
『結婚ではない。子を成すことだ』
「同じだろうが! 子供なんて、結婚しないと作っちゃダメだろうが! 愛し合って結ばれる男と女が……その……交換日記とか、デートとかして親密になって……家庭を築けるぐらいの収入とかあって……」
『何なのだ? 貴様のそう言う所だけは純情なのは……』
「な、なぜ、そこで溜息を吐く!? 俺が今、何か間違ったか!?」
『いいや……もう、それでよい。貴様はそのまま健やかに育て』
ものすごい生温かい眼差しで俺に頷くトレイナ。バカにされてるのやら、子ども扱いされているのやら……
だが、それでも俺の疑問そのものは間違ってないはず。
なぜ、俺がクロンと子供を作るんだってことだ。
『単純なことだ。余と同じ遺伝子を持つ者が……大魔の技や魂を受け継ぐものと交わることで……遺伝子と魂を持った存在が生まれる……正に、余そのもの。ヤミディレはソレが欲しいのだろう』
欲しいのはクロンではなく、クロンが生む子? しかも、トレイナの技とかを受け継いだやつとの間にできた子?
『今のクロンという存在は、像を作って魂入れず……ということ。いかに余の細胞から余と同じ遺伝子を持った生物を作り出しても……それだけでは余と同じとは言えぬ……とか何とか、ヤミディレはそんなことを考えているのではないのか?』
「ま、マジか? どうしてそんな理屈になるんだ?」
『おそらく、三か月後の大会の優勝者がその対象となり、マチョウがその第一候補だったのだろうな。だが、マチョウは大魔の中でも大魔螺旋という余の代表的な技を使えん。そして、大魔螺旋を使える貴様の存在をヤミディレは知った。恐らくヤミディレは、マチョウよりも貴様こそがクロンと子を成す相手にふさわしいと思っただろう』
「いや、でも、俺は人間だけど、そこんとこあいつは気にならねーのか? しかも、その神を倒した男の子供だぞ? 一応」
『大魔螺旋を使える……その事実の前には些細なことなのだろうな』
正直、今の話は全てトレイナ自身の予想でしかない。ヤミディレの真の目的が本当にトレイナの言う通りかどうかはまだ分からない。
だが、あまりにもメチャクチャなヤミディレの思考でも、もしそれが本当なのだとしたら……
「まさか……ツクシの姉さんがマチョウさんを好きなのに、俺に優勝しろとか言ってたのは……」
『マチョウが優勝してしまえば、クロンと……ということになるので、それが嫌だったのだろうな』
ヤバい……なんか……話の辻褄が合ってきたような気がする。
でも、そこで納得するには、もう一つ疑問があった。
「でもよ。それなら、ヤミディレがクロンに魔極真を教えりゃいいじゃねーかよ。わざわざ、魔極真の実力者とくっつけて子作りさせないでよ。あんたからすれば不完全な技術みてーだが、それでもその方が手っ取り早いんじゃねーのか?」
わざわざヤミディレが弟子を取って、鍛えて、そしてトレイナの技を中途半端でも教える。
そして、その中でも一番の使い手をクロンと子供を作らせて、その子供を次の神にする。
そんな回りくどいことをやるぐらいなら、最初からヤミディレがクロンに直接教えればいい。その方が手っ取り早い。
何故、そうしないのか?
『それも……理由があるのだろう……それに関しては、まだ確信は持てぬが……』
「ん?」
そう言って、トレイナはその点は濁した。
少し暗い表情を見せて、まだ俺に言える段階ではないのか、それ以上は言わなかった。
つまり、どっちにしろクロンは大会の優勝者と子供を作らせるというのが、ヤミディレの計画であるというのがトレイナの予想。
だが、そうなると……
「あれ? ちょっと待て。もし、今までの話が本当だとすると……俺……優勝したら……クロンと……す、するのか? そ、その……」
『ヤミディレはそのつもりだろうな』
「な、に……」
いやいやいや、そんなメチャクチャなことあっていいのか?
クロンと子供を作る? それって、クロンと結婚しろってことか?
でも、俺に子供の親なんてなれるのか?
シノブともそういう話が出たときに思ったこと。
っていうか、俺、シノブにはまだ何も答えてないのに、あいつに答える前に子供を作るとか、そんなの非道にも程がある。
いや、確かにクロンは結構可愛いかもだけど……それこそ風呂場で見たあいつの裸体。思わずキャノニコンで……アレを俺のにしていいと言われると確かに……でも、それならシノブも綺麗だし……まぁ、胸は二人ともサディスには……って?!
「ぬおおおお!」
その瞬間、俺は砂浜に思いっきり頭突きした。
「くそ……なんでここでサディスが頭を過っちまうかなぁ~?」
いや、理由なんて分かってる。
今はどうあれ、サディスが俺の初恋であったことも、片思い期間も、そういうやらしい妄想をした期間もずっと長かったんだ。
恋愛だの結婚だの子作りだの、そういう話題になれば結局嫌でも過るってもんだ。
「優勝はするつもりだったけど……結婚して子供かぁ~……」
『結婚は置いておくとして……子作りの方だが、悩ましいのは……今のままでは三か月後……マチョウに勝ったとしても、流石に余も貴様がヤミディレに抵抗できるまで力を付けさせることは計算していなかった。それがどういう意味か分かるな?』
そう、仮に優勝できる力まで成長しても、俺はヤミディレには逆らえる力が無い。
つまり、そうなると力づくでヤラされるってことだ。
『貴様が……クロンが好みの女で、そういうことをしてもむしろ役得くらいに考えるのであれば何も問題ないが』
「いやいや、ダメだろ。そんなの……そんなのでデキちまったら……生まれる子供が可哀想だろうが……」
『お、おぉ、そ、そうか……ま、しかし……だからと言って、大会で負けたら……用の無くなった貴様は、ヤミディレの逆鱗に触れ……』
「理不尽すぎるだろうが! 悪魔か!?」
『堕ちた天空族だしな……』
何だか急に色々と衝撃的な事実やら事態やら情報やらがあり過ぎて、何だか疲れちまった。
ただ純粋に力を追い求めて、大会で優勝する。
それだけじゃダメそうで、だからと言ってどうすればいいかの答えが出ず、俺はトレイナと二人でしばらくぼんやり海を眺めていた。
だが、結局分かっているのは、どちらにせよ強くならなくちゃいけないことに変わりないということだけだった。
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