第21話 更に二人
演習場での魔法訓練の時間。
俺はアカデミーのクラスメートたちが、魔法の訓練をしているのを眺めながら、物思いに耽っていた。
「あ~……なあ、トレイナ。あんたは人類滅ぼして何をしたかったんだ?」
進路に関して一度悩み出したら答えが出ずに悶々としている中、俺はふとトレイナに聞いてみた。
『なんだ、唐突に』
「いや、さっきあんたに言われて……色々と考えちまって」
『ほう』
「あんたは何をしたくて大魔王になり、そして人類を滅ぼそうとしたんだ?」
相談相手としては非常にズレているような気もするが、しかしこのとき俺は、両親にすら一度もしたことない進路についての悩みを、自然とトレイナに打ち明けていた。
そして、トレイナもまた特に断ることもせずに答える。
『まぁ、人間は醜く滅ぼしてやりたいという単純な想いもあった……魔界で魔族を統一するには共通の敵を作る必要があった……そもそも太陽のない地の奥底の暗雲に満ちた魔界から地上を手にしたかった……あげればキリがない』
そして、あまりにもスケールが大きすぎることばかりで、ピンとも来ないし、参考にもならない。当たり前ではあるが。
『ただ、なぜ大魔王になったかは昔のことすぎて、目標だの夢など青臭いことは忘れたが……』
「なんだ、忘れたのかよ……」
『ただ……一つ言えたのは……自分たちの世界を広げたい……そう思っていた』
少し遠くを見るような目でそう呟くトレイナ。
大魔王トレイナの根本。「世界を広げてみたい」という想い。
その想いがなぜ、大魔王に繋がるかは忘れたのか、それともはぐらかされているのかは分らないが、それでも「やりたいこと」はあったようだ。
「昔の俺は……親父みたいになりたいって……ガキの頃は思ってたけどな」
しかし、今はそのことに意欲的になれない。
それは、さっきトレイナに言われた言葉で更にそう思うようになった。
「やりたいことを見つけるために帝国騎士……ってのもな」
腰掛けに利用する進路でもない。
そもそも、やりたいことを見つける云々など関係無しに、恐らく帝国騎士になったら仕事ばかりでそれどころじゃなくなるだろう。
全然家にも帰って来ない親父を見てれば分かる。
『童……一ついいか?』
「ん?」
『余は今の世の人間の就職事情は詳しくないが……余が思うに、貴様の父たちの時代は……やりたいことを選べない時代だったと思うぞ?』
それは、どこかでいつも聞くような説教だった。
まさか、トレイナの口からもそんな説教が出てくるとは思わなかった。
こういう「俺たちの時代は」、「昔は今と比べて大変だった」とかそういう老害どもの説教は昔から嫌いだったから、いつも聞き流すようにしていた。
なのに、やはり今日の俺は何かおかしいのかもしれない。
トレイナの言葉に真剣に耳を傾けていた。
『平和な世、貴様のようにそれなりに能力もあり、金もあり、望むことができる環境に居ながら、怠惰に過ごすことこそ至上の贅沢であり、そして罪だ。そのことを理解することだな』
確かにそうだ。
俺もここ数日はいつも以上に努力はしているが、目的はオッパイと、親父や世間を驚かしてやろうっていうことぐらい。
人生を左右させるような、「これだ」というものが俺には無い。
すると……
『そこで、童よ。余も少し考えたのだが……』
そこで、トレイナは真剣な表情から一変して、何か悪巧みをしているような笑みを浮かべ……
『父の七光りになることもなく……それで居て、貴様がやりたいことを見つけられるようにする方法……無いわけではないぞ?』
「なにっ?」
『ただし、それは……甘やかされて育ったお坊ちゃまには、なかなか難しい進路だとは思うがな』
思わず俺も眼を見開いていた。俺のやりたいことを見つけるための方法?
そんなもんがあるなら、当然教えてもらいたいものだ。
だが、気になるのは……
「おいおい、ボンボンにはキツイ道? どういうことだ?」
まるで俺を挑発して試すかのようなトレイナの言葉に俺は少しムッとしながらも尋ねていた。
すると……
「おーーい、みんなー! ただいまーーー!」
「くだらん……はしゃぐな」
演習場に突如響く二つの声。
「あ……あいつら……」
それは俺にとってもみんなにとっても懐かしいものだった。
「フー! そして、リヴァル!……ただいま、特別海外留学から帰りました! えへへへ、皆ー!」
「まったく……騒がしいものだ」
そこに居たのは二人の男。
「「「「きゃああああああ、フーくうううん!」」」」
「「「「いやああああん、リヴァルくんよーー!」」」」
「「「フー、リヴァル!! 帰ってきたのか!!」」」
二人の姿を見た瞬間、クラスメートたちは歓声が上がり、女子たちなどは特に目を輝かせて叫んでいる。
『騒がしいな。なんだアレは?』
「……ああ……アレもクラスメートだよ……で……一応……俺の幼馴染だ」
そして、俺にとっては二人ともただのクラスメートというわけではない。
『ほう。しかし……ふむ……ほう……』
トレイナも二人の姿を見て、何かを感じ取ったようだ。
つまり二人は、大魔王にとっても反応するような奴ってことだ。
「えへへへ、みんな元気だった?」
「きゃ~ん、もう、フーくんったら全然背が伸びてなーい。かわい~!」
「わ、わわわ、もう、みんな、帰って早々いきなりやめてよ~!」
「だーめ! フーくん、ダッコしちゃう!」
「はわわ」
「あっ、ずるい私もするー!」
まずは、早速囲まれて女子たちに揉みくちゃにされている男。
アカデミーの男子の中でももっとも低身長で女子よりも低い幼児体型。
さらに、童顔とメガネとああいうガキっぽい振る舞いが女子たちにはいつも大人気。
そして何よりも……
「魔力量と魔法の力は姫よりも上……魔法分野では学年一位……そして、七勇者の一人でもある、大魔導士の息子」
『おお……なるほど……そういうことか……あやつの子か……』
そう、俺と同じ七勇者の息子ということで、ガキの頃からの幼馴染ではある。
そして、大魔導士だった父親の才能を色濃く受け継ぎ、『天才魔法少年』として名を馳せ、帝都でも特に女子から人気者。
そして……
「「「「キャアアアアアアアア! リヴァル様!」」」」」
「耳が痛い。用も無いのにこの俺に話しかけるな」
「「「「素敵ぃいいいい!」」」」
仏頂面でつまらなそうに腕組しながら、群がる女子たちをうっとうしそうにして冷たい態度を見せるが、そのクールな姿にすら女子たちを魅了するという、長髪の美形剣士。
『あっちの背の高い美形の男は?』
「ああ。あいつは、剣の腕前や戦闘能力ならば姫よりも上……俺らの代のアカデミー最強の男にして……七勇者の剣聖の血を引く男……」
『ほほう、ああ……居たな。魔法を一切使わずに剣のみで戦ってた、クールぶったかっこつけが、確かに居た』
そう、あいつも俺と同じ。
そして、フーと同じように『剣聖後継者』とまで言われているほどの男。
その実力は既に、上級戦士に匹敵するとまで言われている。
二人とも、親の遺伝子をちゃんと受け継ぎ、多くの人々から期待されている。
『ふん。懐かしいものを見たな。まさか、こんな奴らも居たとはな』
「ああ……去年、帝国が優秀な人材を他国との交流を兼ねて留学やら研修に出してたんだよ」
『……貴様は選ばれなかったのか?』
痛いところを突かれて、俺はイラっとした。
「留学生は二人まで。成績上位2名だ。去年も姫が総合トップだったが、姫は留学を辞退したから、当時2位と3位だったあの二人が留学生になったんだよ」
『ほう……なるほどな』
「んだよ……」
『つまり、貴様の学年2位という成績は、あの二人が居なくなっての繰上げということか』
「うるせえええ!」
そう、正にその通りなのである。
姫と同様にあの二人は、総合こそは姫に成績で敵わないが、「これだけは誰にも負けない」というものを持っている。
そしてそれは勇者である親の才を彷彿とされるものであり、誰からも期待され、そしてあいつらは期待にいつも応えてきていた。
俺とは違って……
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