第42話 女子二人、語らい。

 「ねぇ、陽菜ちゃん」


 シフト終わりの休憩時間、私は陽菜ちゃんを連れて、少しだけ盛り上がりから離れて休むことにした。陽菜ちゃんとも、ちゃんと話したかった。


「ごめんね。迷惑かけて」

「相馬君が言う友達理論、私はとても感銘を受けたので、気にしなくても良いです。と言います」

「うん。ありがとう」


 あぁ、優しい。

 こんなにも良い友達に恵まれて、何で怖がっていたのだろう。

 だからこそ、これから切り出す話題を、少しだけ躊躇う。


「ねぇ、陽菜ちゃん。実はもう一つ本題があって」

「はい」


 息を一つ吸い込む。これはある意味裏切り。でも、これは秘密にはできない。


「陽菜ちゃんに宣戦布告します」


 きょとんと、何を言っているのかわからないと首を傾げる。うーん、可愛いなぁ、勝てる気しないなぁ。

 でもそれでも、私は言う。


「油断していたら、相馬くんの事、容赦なく取っちゃうから」

「えっ? ちょっと待ってください。夏樹さんに本気を出されたら私、勝ち目無いのですが」


 自己評価低いな~。

 相馬くんに恋しているのかははっきり言ってわからない。だって、恋は見ていて楽しいもので……お兄ちゃん以上に誰かを思えたこと、無かったから。

 はっきり言えるのは、今の私の気持ちが相馬くんに向いているということだ。


「まぁ、良いです。決めるのは相馬君です。夏樹さんが選ばれても恨みはしません」


 この恋がいつか本気になれば良いと思う。本気になってはいけないけど、私を連れ出してくれた人はこの人なのだから、自然な流れだと思う。

 陽菜ちゃんはいつもの表情、仮面の下ではどんな顔しているのかな。苦笑いかな、多分。


「ねぇ、陽菜ちゃん。嫌いにならない?」

「なりませんよ。相馬君の気持ちが夏樹さんに向くなら私はそこまでの女ということですから。私の自分磨きがさらに必要になったということですから……夏樹さん?」


 陽菜ちゃんに抱きつく。そんな私の背中をポンポンと優しく叩いてくれる。


「少しだけ遅れて行きましょうか。落ち着いたら言ってください」

「ありがと」



 「おつかれー」

「うん。お疲れ様。それじゃあ、陽菜、夏樹。一日目の反省会と行こうか」

「うん。ちなみに聞きたいんだけど相馬くん、相馬くんはちゃんと遊んだ? ずっとここか、生徒会のブースにいたみたいだけど」


 夕暮れの教室。

 他の人を帰して、僕ら三人、机に座る。

 自販機で帰って来た飲み物で乾杯したのはさっきのこと。


「仕事してた方が落ち着く」

「……陽菜ちゃんどうしよう。これが噂に聞くワーカーホリック?」

「……近いと言えるかもしれません」

「いや、流石に中毒では無いから」


 そんな戦慄した、みたいな顔されても。


「仕事してたほうが、なんかね、楽」

「それを中毒と言います」

「あれ?」


 淡々と陽菜にそう告げられる。


「ではそうだね、相馬くん。私か陽菜ちゃんか、選んでもらおうか?」

「え?」


 夏樹は指を一つ立て、陽菜と自分を指差す。


「明日、どっちとまわりたい?」

「へ?」


 陽菜と夏樹を交互に見る。


「選ばなきゃ?」

「流石に、トップが3人とも遊び歩くのはね。せめて一人は残さなきゃ」

「じゃあ、僕が残るから二人で行ってきなよ」

「先程からの話の流れは、相馬君に文化祭を堪能してもらい、しかし一人では仕事に戻ってきそうなので、監視の意味で私達のどちらかがつく、というものです」

「な、なるほど」


 納得……できなくもないな。


「ちなみに言い出しっぺは?」

「はーい」


 夏樹が手を上げる。


「なら夏樹だな。言ったんだから、付き合ってもらうよ」

「よろこんでー」


 一瞬。ほんの一瞬だが、棘のある視線を感じた。

 その正体を確かめる暇もなく、チクリとした感覚は消える。


「それじゃあ、シフトの最終調整はオッケーと。なら、これで明日を迎えられるね。頑張ろう!」

「うん」

「はい」

「終わったら打ち上げだね。楽しもう」


 掲げられる缶ジュース。もう一度、子気味のいい音が、放課後の教室に小さく響いた。


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