芒の月
「退屈だわ」「退屈よ」
社の床に寝転んだ二人の少女は、ぼーっと天井を見上げている。彼女たちの周りには、歌留多や双六、碁石が将棋盤が散らばっていた。
「お二人とも、遊び終わったのなら片付けてください」
「嫌だわ」「嫌よ」
黒衣を纏った少年の言葉にも耳を貸さず、彼女たちは床の上を転がり回る。
「退屈なのだわ、
「では、散らばっている碁石を集めていただけますか?」
「嫌だわ」「嫌よ」
散らばっている遊具を避けて転がり回る少女たちに、少年はため息をついた。
社の中を一通り転がりまわった少女たちは、部屋の周りに並べられている鉢植えの前で立ち上がった。
棚の上に置かれているそれを取ろうと、少女たちはめいっぱい腕をのばした。しかし届かない。軽く跳ねてみたが、やはり届かない。
少女たちの目から涙が溢れ、社内に悲鳴のような泣き声が響き渡った。
泣き声を聞きつけた少年は、慌てて少女たちのもとへやってきた。
「どうしたんですか?」
「届かないのだわ」「届かないのよ」
少女たちの指差す鉢に彼が手をのばすと、黒衣の裾を引っ張られた。
「違うのだわ」「違うのよ」
少年が首をかしげると、さらに強く裾を引かれる。
「私たちが」「そこへ行くのよ」
ああ、と気付いた彼はしゃがんで二人の少女を腕に載せた。
泣き止んだ彼女たちは、棚の上にあった鉢を覗き込む。
『葉』と刻まれているその鉢には、小高い白い山があった。
「禿山だわ」「禿山よ」
「芒です」
「まだ禿山なの?」「もう禿山なの?」
「お二人が楽しみにしているのは、あちらでしょう」
彼は少女たちを抱えたまま、二つ隣の鉢までいった。『神無』と刻まれている鉢には、生き生きとした葉色の紅葉が茂っている。
「この紅葉が綺麗な朱色になるまで待ってください」
「あとどれくらい?」「一ヶ月?」
「二月もすれば色付きます。もう少しの辛抱ですよ」
少女たちは元気よく少年の腕から飛び降りた。
「分かったのだわ」「分かったのよ」
再び社を元気よく駆け回った精舎たちは、それぞれ碁盤と歌留多を持って来た。
「それまで相手をするのだわ、仁」「それまで相手をするのよ、仁」
「せめて同じものにしてもらっていいですか」
肩を落とした少年は、そっと二人の頭を撫でた。
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