Bifrost
空が晴れ渡っていたので、少年は日当りの良い丘にヤギたちを連れて行くように言われた。日当りの良い丘は昼寝にはもってこいで、少年はヤギを解き放つとさっさと芝生の上に寝転がった。
半時程すると、突如ヤギたちが大声で鳴き始めた。驚いて目を覚ました彼は、空を覆う黒い雲に気付いた。冷たい風が吹き始めており、遠くから雷鳴の音も聞こえてくる。
このままでは不味い。少年は慌ててヤギたちを集め、近くの小屋へ逃げ込んだ。
なんとか雨には濡れなかったものの雨風は強くなる一方で、ヤギたちは嵐が過ぎ去るまで大声で鳴き続けた。
ようやく雲の隙間から日差しが差し込んできた頃には、日が少し傾き始めていた。
少年が外に出てみると、黒い雲は遠ざかっていたが、足元がぬかるんでおりまだ歩き辛そうだ。ヤギたちは動きたくないらしく、まだ小屋から出てこない。仕方ないので一度扉をしめ、丘の方まで足を伸ばした。
開けた空には、綺麗な虹がかかっていた。少年が少し背伸びをしてみると、遠くに虹の根元が見えた。
――虹の根元には、宝物が埋まっているんだよ。
と、死んだ祖父が言っていたのを思い出した彼は、勢いよく地面を蹴った。
虹が消えないうちに、と必死に足を動かし辿り着いたのは、一件の家だった。木々に隠れるように立てられた小さな家の屋根から、色鮮やかな虹が伸びている。足音を忍ばせて、少年はその家を覗き込んだ。
家の窓辺には、虹の先を見つめている少女がいた。その手には角笛が握られている。
「君はだれ?」
少年は勇気を出して声をかけてみた。
「あなたは誰?」
少女の目が少年を捉えた。
「向こうの丘で、ヤギを飼ってるんだ」
「私はここで待っているの」
「誰を?」
「誰でしょうね」
少女は首を傾げた。
「ずっとここにいるの?」
「ずっとここにいるわ」
「向こうで一緒に遊ばない?」
「この家にいなければならないの」
「どうして?」
「どうしてでしょうね」
段々と虹が消えるのと同じように、少女の姿も薄くなってゆく。
「ねえ、君は知ってる?」
「なにを?」
「虹の根元には、宝物があるんだって」
「宝物?」
「うん。僕、それを探しにきたんだ」
「そうなの」
手元の角笛に目を落とした彼女は、それをそっと口に付けた。
「ここには、これしかないわ」
そう言って少女が笛を吹くと、笛の先から七色の音符が舞い踊った。音符はキラキラと輝く宝石になり、少年の手に集まって来た。
「それ、あげるわ」
「ありがとう」
少女の姿は殆ど見えなくなっていた。
「ねえ、また会える?」
「どうかしらね」
虹が完全に消えると少女の姿も消えており、古びた小屋と少年の手の上の宝石だけが残った。
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