野菜か、果物か

 霧が深く立ちこめる草地を、杖をついた四人の若い男が進んでいく。ボロボロのマントを被り、疲れきった様子の彼らは、重たい足を引きずるように歩いていた。

「腹減った……」

「ここを抜ければ、町があるはずです」

「さっきもそれ、言ってなかったか?」

「もう、限界」

 一番後ろを歩いていたあかねが、力尽き倒れ込んだ。

 ゴツン、と何かにぶつかったような鈍い音に、前を歩いていた三人は振り返った。

「大丈夫か、あかね」

「イタタ。なんだろ、これ」

 彼が倒れた先には、黒々とした球体が転がっている。日差しの殆ど差し込んでこない緑に覆われたこの地で、黒くつや光りするソレはとても異質だった。

 そっと手を伸ばしたあかねの腕を、十字くろすが掴んだ。

「触るな。何か生き物かもしれないぞ」

 十字は杖代わりにしていた木の棒で、ソレを軽く叩いた。

 動く気配はない。

「警戒しすぎだって。ボールか何かだろ」

「こっちにも、同じようなものがありますよ」

 辺りを探っていた斑鳩いかるの手にも、少し大きな黒の球体があった。

「へい、パス」

 大きく腕を広げた宅也たくやに、斑鳩はソレを投げた。受け取った彼は、大きくよろける。

「重たっ」

「そうですか?」

 ソレを今度は手で叩いてみると、中に何かが詰まっているような音がした。

「もしかして、これを割ると男の子が生まれてくるとか」

「それは桃ですよ」

 近づいて来た斑鳩は、一回り小さいソレを持っていた。

「この大きさでも重たいですし、鈍器か何かですかね」

「おいおい、まさか不発弾とかねえだろうな」

 三人はまじまじとソレを見つめた。

「えいっ」

 地面に転がっていたソレに、あかねがナイフを突き立てた。中からは赤い液体が流れ出してきた。

 彼はその汁にそっと唇をつけた。

「おいっあかね」

 慌ててその襟首を十字が掴んだが、あかねは目を輝かせていた。

「おいしいっ!」

「え?」

「これ、すっごく甘くて美味しいよ。皆も食べてご覧よ」

 再びナイフを入れて二つに割ると、ソレの中は真っ赤に熟れていた。

 一口含んでみると、シャリシャリとした食感と、溢れ出てくる甘い汁。空腹だった四人は夢中で口に運んだのだった。

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