10話 攻略

スキル「ロールバック」の再生機能が作動し

止まっていた時が動きだす。

サガミは敵を見据えながら、さっきと同じ指示を出してくる。

「良し!俺は正面からヤツの相手をする、ジンリョウは後方から狙撃での援護を頼む。クルクマは側面から言い感じに敵の隙をついて攻撃しろ。」

「…はい!」

俺は思考を巡らせていた。

どうすればあの「超絶級」の防御力を持つ兄貴を倒せるのか。

どうすれば決定的な攻撃を食らわせられるのか。

とにかく、今俺に出来ることは敵をよく観察することしかない。


「来るぞ!!」

先程と同様に恐ろしい勢いでこちらに突進してくる異形。

そして即座にスナイパーを構えた長髪の男は、的確に敵の右膝を撃つ。

やはり外皮は恐ろしく固く、この敵にとっては衝撃でバランスを崩す程度の攻撃でしかない。

しかし、このよろめきを起点とすれば、サガミが攻撃を仕掛けることが出来る。

「隙あり!!」

鎧の男は槍を横に構え、目一杯の力を込めて頭部を右に薙ぐ。

「おらぁあっ!!」

鈍い音が上がる


…ここだ!!

この瞬間敵は、サガミの渾身の一撃を頭部に受けたことによって軽く気絶していた。

身体強化系スキルは、ある程度自分の意識とリンクしているため意識が途切れれば、同様にバフの効果も途切れるのだ。

「それなら…」

地面に叩きつけられた敵を見てから、俺はもう一度「ロールバック」を発動した。


「俺は正面からヤツの相手をする、ジンリョウは…」

操作にも少し慣れ、さっきの場面辺りまで戻ることが出来た。しかし時間が少しズレている気がする。

このスキルで遡れる時間はせいぜい数分程度らしい。管理者権限としてカヤツリが与えた能力にしては、少しショボい気がした。奴はこれを「体験版」とでも言いたいのだろうか。

先程と同じサガミの指示を聞いてから、俺はジンリョウにある提案を持ちかけた。

「どうした新顔、何か…ふむそうか…そういう事ならば…」


…これで上手く行くはずだ。


突進してくる敵を同じ手順でよろめかせ、サガミが頭部に槍の一撃を食らわせる。

ここで慎重にスキルを発動し、確実に意識を失っているタイミングを狙って少しづつ一時停止を繰り返す。

「よし、今だ…!」

的確なタイミングを見つけ、俺はマシンガンを構える。

サガミが槍を打ち込んだ中心辺りを狙って、弾丸を放つ。

弾が切れるまで撃ち放った後、俺はジンリョウから預かったスナイパーを構え、銃口を敵の頭部に押し付けた。

バフが途切れている最中に1フレームのうちでマシンガン全弾と、スナイパーでのゼロ距離射撃を与えられれば、流石に耐えられないはずだ。

「じゃあな兄貴。今はまず、お前を倒さなきゃいけないんだ。」

俺は引き金をひいて、スナイパーを降ろした後

兄貴から十分に距離をとり、一時停止を解除した。

瞬間、凄まじい衝撃が炸裂し、1つの弾丸は勢い良く敵の頭部を穿った。

「グギャアアアアアア!!」

エネミーはそれだけ叫んで頭部と、その身体ごと崩れ落ちていった。

「うおおっ!!やったか!?」

一瞬の事なので、サガミは上手く理解できていない。

ジンリョウは無線で話し掛けてくる。

「倒したようだな新顔?お前の作戦とやらが上手くいったのか?」

「はい、武器貸してくれてありがとうございました…」

「あれを使いこなせる奴が、俺以外にもいたとはな…どうあれ、よくやった!!」


『_臨時クエストをクリアしました。報酬がプレイヤーに分配されます。』

機械的な声とともにクエストクリアが宣言される。

報酬、といってもレベルとステータスが多めに上がっただけで別に今までと感覚はさほど変わらない。

それにこんなゲームのレベルが上がったところで今さら俺に関係無い。

「それにしてもクルクマ、お前何をしたんだ?それなりに強そうな奴だったんだが…」

不思議そうにサガミは俺に訊ねた。

「あぁ、それについては…」

俺はさっき起きた出来事、カヤツリの事、このスキルの事についてサガミ達に説明した。

二人とも今の戦闘の流れについては、すんなり理解してくれたようだ。

俺が話し終わると、サガミは俺の目を真っ直ぐ見据えてこう言った。

「…クルクマ、これからお前はどうするつもりなんだ?」

「俺は…管制塔に行って、カヤツリを倒してから、皆を元の世界に帰す方法を聞き出して、こんなゲームは消させようと思ってます。」

「ははっ」

サガミは俺の言葉を聞いて少し笑ったが、そこに嫌味は感じられ無かった。

「随分やることが多いなぁ。俺が加わりでもしなきゃ、達成は難しいと思うぜ?」

「サガミさん!…一緒に来てくれるんですか?」

「一緒にってお前、本当に一人で行くつもりだったのかよ!!」

ははは、とサガミはまた笑いだした。今度はちょっと馬鹿にされてるみたいだったが、嫌な気はしなかった。

「それは流石に無茶だと思うぞ?新顔。」

ジンリョウもニヤついている。そろそろムカついてきた。

「まぁこのゲームの制作者が判明して、場所も割れてるってんならよ、そこに早く行って、俺からも文句と拳の1つや2つ御見舞いしてやんなきゃってな。」

「だからクルクマ、『最後まで』よろしく頼むぜ。あと、もう丁寧語じゃなくていいぞ?」

気を取り直して、サガミは俺にそう言った。

「あぁ…こっちこそ宜しく頼む!サガミ!」

俺とサガミは力強い握手を交わし、決意を共にすした。

「すまない2人とも、俺も力を貸したい所なんだが…」

申し訳なさそうに口を開くジンリョウに、サガミがこう答えた。

「わかってるよジンリョウ。タマノが心配なんだろ?今俺から頼もうと思ってたんだ。」

「そうか。では悪いが、俺は先にギルドへ戻るぞ。余裕が出来れば俺もそちらへ向かうが、先ずは2人とも…頼んだぞ。」

「おう!任せとけ!」

挨拶を残し戻ろうとするジンリョウに、俺は声をかけた。もしかしたら、最後の会話になるかもしれないと、ふと思ったからだ。

「…ジンリョウさん!」

「なんだ?」

「あの…上手く言えないけど、一緒に戦ってくれてありがとうございました!俺、ジンリョウさんに凄く助けられたと思います!」

ジンリョウは驚いた表情をして、こう答えた。

「フッ…そうか?さっきの戦いで、お前を助けられたとは余り思わないが…

俺が少しでもお前の救いになれたなら良かった。良い結果を期待しているぞ、新顔。」

「はい!」

長髪のスナイパーは少し微笑んでから、歩いて去っていった。

「…よし、俺達も行こう!サガミ!」

「ああ!」


マップを頼りに、俺たちは管制塔へと足を進めていった。


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