9話 条件
前に見た、すべてが停止した世界。
その中で動けるのは俺と、あと一人、
「管理者」を名乗るそいつだけだった。
「いやでも意外だな。結構多めに管理者として
ユーザ招待したんだけど、『残った』のは
もう君一人だけかぁ。」
目の前の少年はそうボヤいた。
「お、お前は…開発者、ってことは…」
あまりの衝撃で上手く声が出せなかったが、何とか言葉を振り絞れた。
「ん?…ああそうだよ、僕がこのライフアリーナを作ったんだよ。個人制作。」
カヤツリは俺とは対称的に、軽快な口調で答える。
いや。
今はそんなこと、どうでも良い。
「ふざけるな!!なんでこんなゲームを作ったんだ!!大勢の人がここに連れて来られたせいで、死んでいったんだぞ!!」
「大勢の人が死んだ、か…まぁ『そういうふう』に作ったからね。」
「…は?」
カヤツリは淡々と事実を口にした。入った人が死ぬように、つまり殺すつもりで、このゲームを作った。と
そしてこう続ける。
「あとライフアリーナを作った理由だけど…
うーん。知りたいなら教えてあげても良いんだけどね、その為には一つ条件があるんだ。」
「条件だと…?」
「うん、単刀直入に言うとね、君に『ここ』の正式な管理者になって欲しいんだよ。僕一人じゃ手の回らない部分も多くてさぁ。それに制作チームの仲間になら、目的を共有すべきだと思うしね。どう?」
どう、と言われても。
こんな世界を作った理由を知るためだけに、
管理者になんてなる訳が。
なりたい訳が無い。
そんな頼み、直ぐに断ってやる_
そう思った瞬間、カヤツリはこう付け足した。
「あぁそうだ。勿論、僕に認証されて正式な管理者になれば、何時でもこのゲームから現実の世界に帰れるよ。」
「…え?」
「当然でしょ、管理者だもん。」
「今すぐ…出られるのか?ここから?」
「『なれば』ね。」
「…そ、そういうことなら俺と、あとこの人達も管理者にしてあげてくれ!管理者になれば外に出られるんだろ!?」
ここで、一抹の希望が見えた気がしたが、それはすぐに否定された。
「それは駄目だよ、て言うか無理だね。」
「なっ、なんで!!」
「管理者ユーザは初めから一般ユーザと違ったログインをしてるんだよ。管理者ユーザになるには、ログイン前に僕の送った『ユーザ招待コード』をpcで受け取っておく必要があるんだ。」
少年ははそう言うと、停止したままのサガミ達を一瞥した。
「そこの人らは、一般ユーザだろ?っていうか
一般ユーザだね。既にログアウト出来なくなってる仕様上、無理。」
「…そんな。」
ショックを受ける俺に対して、少し苛立つような口調でカヤツリはこう言い放つ。
「うーん、そろそろ決めて欲しいなぁ。管理者になってくれるの?ならないの?」
…迷う。
正直迷った。
ここの管理を手伝うことで、少しでも死亡者を減らせるかもしれない、
もしかしたらサガミ達を救う方法も見つかるかもしれない。そう思ったからだ。
でもやっぱり一番大きいのは、管理者になれば『少なくとも自分だけは元の世界に帰れる』という点だ。
自分は助かりたい、当然だ。
そういう考えって、間違いじゃないと俺は思う。
「俺は_」
だけど、彼らには何度も助けられた。
はじめのエリアでサガミさんに拾われなかったら。
ジンリョウさんがエネミーの脅威を知らせてくれなかったら。
タマノさんが動けなくなるまでサポートしてくれていなかったら。
俺は多分どこかで、簡単に死んでいただろう。
俺の命の恩人達に対して、
全ての元凶の同胞として働くことが、恩返しになるのか?
それは…わからない。
でも多分、正しくないことだ。
「俺はここの管理者にはならない!!」
だからはっきり、そう答えてやった。
数秒、沈黙が続いた。
先に口を開いたのはカヤツリの方だった。
「そうか。うん、分かったよ。」
先程からの表情を一切崩さず、少年は答えた。
「でも、こっちとしては簡単に諦めるわけにはいかないね。さっきも言ったけど管理者ユーザになれるのはもう君しか居ないんだよ。」
「しつこいぞ、俺は意見を変えるつもりはない。」
「…まぁ今はそうだろうね。意見が変わったら、今度は君の方から来てよ。」
「なんだと?」
「管制塔の最上階で待ってるから。あぁ、君のマップに追加しとくね。」
余計な情報が追加された。
そして去り際に少年はこう言い残した。
「そうだ、最初に君に渡した権限について説明してなかったね…君の権限は『ロールバック』。
簡単に言うと、ゲームシステム上の時間とか起こった出来事をちょっとだけ巻き戻してその後停止させられるんだ。」
今までの謎の現象についてカヤツリからサラっと説明を受けた。
「今ってエネミーと戦闘中だったんだろ?まあ、死にたくなければ上手く使って倒すといいよ。
じゃあ、管制塔でね。」
少年の姿はすぐに消えた。
この停止した空間の中で動いているのは、俺だけになった。
「…まずは、兄貴を何とかしなくちゃな。」
そう呟いて俺は、スキルパネルの再生ボタンに触れた。
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