8話 管理者

銃を構えた手が止まる。

「なんで…いるんだよ…?」

顔、体格、どこをどうみても俺の兄貴だ。

茫然としている俺にジンリョウは強く呼び掛ける。

「おい、どうした!?よけろ新顔!!」

既に敵は俺をターゲットにしていた。

敵の狂気的なタックルを避けようとしても、間に合わない。

その刹那、突如現れた金属の塊が目の前の異形を弾き飛ばす。

「させねぇよ!!」

脇腹を蹴りあげられた異形は呻き声をあげ、十メートルほど離れた場所でうずくまった。

「ふぅ…危ないところだったな、クルクマ。」

重装備で槍を手にした男は得意気に言い放った。

「サガミさん!!」

「サガミ、来たか!」

「おう、無事みたいだな。よかったよかった!

ジンリョウも無事だな?」

サガミはそう俺たちに笑いかける。

「タマノは休ませてきた。俺にありったけの支援スキルを使ったから疲弊しててな。」

「そうか、来れないか。」

ジンリョウは残念そうに答える。

「今の尋常じゃない素早さ、タマノさんのサポートによるものだったんですね…」

「あぁ、タマノは前線での戦いはあまり得意じゃないが、高ランクの支援スキルを多数保持している。」

「だから今の状況だとかなり頼りにしたかったんだが…まぁ、仕方無いな。」

気落ちするジンリョウに対してサガミが自信満々に語り掛ける。

「落胆することは無いぞ、ジンリョウ。今の俺はタマノのバフ盛り状態だからな。超絶級のエネミーだろうと負ける気がしないぜ!」

「油断はするなよ」

…敵の討伐に意気込むサガミに、俺は伝えないといけない事がある、気がした。

「あの、サガミさん。」

「なんだよ?」

「実は、あの怪我持ちエネミーは、俺の兄貴…かも知れないんです。」

瞬間、サガミの顔が強ばった。

「…何?」

「お前の兄貴って…最初に言ってた、意識不明の…?あれが?」

「それは本当な…」

そこまで言いかけたサガミを遮るように、淡々と、ジンリョウは俺にこう言った。

「残念だが新顔、あの怪我持ちがお前の兄さんであろうと、そうでなかろうと、俺達はあれを消さなければならない。…分かっているだろ?」

「おい、ジンリョウお前な…」

「…いや、良いんですサガミさん。そうですよね、怪我持ちになるともう助からない…やることは一つでしたね。」

「あぁ。新顔…すまないな。」

ジンリョウは顔を俺から少し背けて、そう言った。

「グルオオオオオオオオ!!」

突如、猛獣のような咆哮が轟く。

「チッ…敵が持ち直したらしいな…クルクマ、俺はいつも通りやる。それで良いな?」

サガミはそう言うと、敵を真っ直ぐ見据えた。

「…はい!」

「良し!俺は正面からヤツの相手をする、ジンリョウは後方から狙撃での援護を頼む。クルクマは側面から言い感じに敵の隙をついて攻撃しろ。」

「分かりました!」

「了解。」

俺への指示がかなりフワフワだった気がするけど、今は俺に出来ることをやるしかない。

それが兄貴を殺すことになっても。今はそれしかないんだ。

「来るぞ!!」

恐ろしい勢いでこちらに突進してくる異形。

即座にスナイパーを構えた長髪の男は、的確に敵の右膝を撃つ。

しかし敵の外皮は恐ろしく固い。

並みのエネミーなら一撃で狙撃された部位が吹き飛ぶが、この敵の場合せいぜい衝撃でバランスを崩す程度だ。

だがチームプレーの場合、このよろめきが起点となる。

「隙あり!!」

鎧の男は限界まで強化された素早さを用いて、瞬時に敵との距離をつめた。

槍を横に構え、目一杯の力を込めて頭部を右に薙ぐ。

「おらぁあっ!!」

鈍い音を上げ、敵は遠くへ吹っ飛ぶ。

地面に打ち付けられるが、暫くすると起き上がり、突進してくる。

今度は側方へ回り込んだ少年がマシンガンで全身を撃ち、足止め。

隙を見て、鎧の男が槍の一撃を打ち込む。

「…これで倒れろよ!!」

うまく敵を転がす事には何度も成功するが、異様な耐久性を持つ敵はやはり何度も立ち上がる。

「くっ…ヤツの体力、どうなってやがる…?」

「キリがないっすね…」

無線でジンリョウが発言する。

「何か、弱点は無いのか?」

「いや…色んな所狙って攻撃してんだがよ…アイツ、全身が固くってしょうがねぇぜ。しかも毒の耐性もあるらしい、毒槍も使えねえ。」

「ど、どうしたら…」

「まずいな、そろそろタマノの支援も切れてきた、これ以上粘られる訳にはいかん…!!次で決めるぞ!ジンリョウ、クルクマ、頼む!」

分かりやすく何度も突進してくる敵に対し、慣れたムーブで起点を作る。

「今だ!!スキル発動、攻撃向上!」

鎧の男は最後の支援スキルを自分にかけ、敵の眉間に向かって槍を突き刺す、が。

「…な!?」

「グルアァ!!!!」

敵エネミーは眉間に刺さりかけた槍を両手で受け止め、鎧の男ごと恐ろしい力で宙に持ち上げ頭から地面に振り下ろす。

「何ぃ!!うおおおおっ!!!」

このまま行けば頭は潰れ、男は死亡する。

「サガミさん!!!!」

その瞬間、少年が咄嗟に突き出した手に何かが触れる。

「えっ…?」

一瞬の暗転の後、少年は「また」異様な光景の中に居た。

サガミはまだ敵に飛び込む直前で固まっていて、ジンリョウもまだ狙撃をしていない。

明らかに、時間が数分巻き戻った状態で、そこで停止している。

「あれ…これって、初めてサガミさんとクエストやった時になったやつだよな…?皆動かないし…」

「そうそう最初のやつだよ。ああ、安心してくれよ?これバグじゃないから、君の権限。」

時が止まった世界の中、知らない1人の男の声がした。

「え?お前…誰だよ…?」

「僕の名前はカヤツリ。このゲームの開発者兼、《君と同じ》管理者だよ。」


俺の問いに、そいつはそう答えた。












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