7話 エンカウント
「よし、今すぐに討伐に行くぞ!」
サガミはそう言うと立ち上がり、力強く槍を握った。
サガミに続いてタマノさんと一緒にギルドを出る。
「町の東方向に多数、西方向に少数のエネミー反応が確認された。ここは二手に別れて行動しよう。サガミ、東方向を頼めるか。」
ジンリョウの提案にサガミは即座に答える。
「よし任せとけ。タマノ、一緒にこい。」
長髪のスナイパーは俺を一瞥し、こう言った。
「新顔、お前は俺とだ。行けるな?サポートをしてくれ。」
「はい。よろしくお願いします!!」
…ジンリョウと呼ばれたこの男の声は、なんとなく、どこかで聞いたような気がした。
西門に到着すると確かに少数の「怪我持ち」がたむろしていた。
幸い近隣住民の避難は完了しているようだ。
「あれが怪我持ちの…元は人間だなんて…」
「彼らから説明はもう受けたか…そうだ。奴らはシステムがバグを起こして正常な思考を奪われ、完全にゲームと同化して現実世界に帰れなくなってしまった者達だ。しかもそのバグは通常のプレイヤーに感染する事が解っている。見つけ次第始末せねばならない。」
言い終わると長髪のスナイパーは敵1人の頭部を撃ち抜いた。
弱点を突かれた敵の身体は即座に崩れ、消えた。
「あぁ…」
「無理にやれ、とは言わない。これは殺人と何ら変わらないからな。それにこれは俺の「クエスト」でもある。」
また1人、撃ち抜かれた。
「えっ…ジンリョウさんのクエストって…?」
ジンリョウはスコープから目を離さず
「ああ、俺のクエストは『バグエネミー1500体の討伐』、今ので《955体目》だ。」
と語る。
まて、ちょっとおかしくないか?
なんで、ミッションに「バグエネミーの討伐」なんてものがあるんだよ?まるで…
俺の顔色を察したのか、スコープから目を離さないままでジンリョウはこう続ける。
「お察しの通りだ。バグエネミー、怪我持ちは始めからこのゲームのデータ上に仕組まれていたんだよ。っと…残り一体だな」
また、人が砕け散った。
「そ、そんな…このゲームにログインした時点で救われないプレイヤーが《1500人も》決められていたなんて…」
いや…1500人「以上いる」かもしれない。
なんなんだ、なんなんだよ?このゲームは!?
俺はやり場のない恐怖と怒りでどうにかなってしまいそうだった。
「ー!?」
その瞬間、ジンリョウは初めてスコープから目を離し、最後の一体に直接目をやる。
「なんだあれは、あの最後の一体…スコープのステータス数値が《超絶難易度》を示しているぞ…!?」
「えっ…!?」
ジンリョウに釣られて俺も狼狽える。
「超絶級の怪我持ちプレイヤーは今まで居なかった!!これは俺と新顔だけでは厳しいかもしれない…俺が足止めしている間にサガミとタマノに連絡をつけてくれ!!」
そう言い残すとジンリョウは敵に近づいて行った。
俺は指示に従う。
「は、はい!えっとメニュー画面から…通話機能で…もしもし、サガミさん!?」
サガミはすぐに応答した。
「おう!どうした!!」
「ジンリョウさんからの伝達で、超絶級の怪我持ちが出たから至急西門までタマノさんと来て欲しいって!!」
「なんだと…超絶級…!?分かった、すぐ向かう!!」
そこで通話が切れた。
そして俺はジンリョウに近づきながら叫んだ。
「ジンリョウさん!すぐ来てくれるそうです!!」
ジンリョウはスコープから目を離さず答える。
「了解!あいつらが来るまで、俺に何か支援してもらえると助かる!こいつは無駄に装甲が固い!!」
「はい!」
俺は腰からマシンガンを取り出し銃口を敵に向ける。敵は背を向けていたし、俺でも十分掩護射撃ができると思ったからだ。
しかし気配を察知したのか敵は俺の方に振り向く。
そいつの正面の姿を見た瞬間、俺は固まってしまった。
この怪我持ちプレイヤーは超絶級のエネミーであっても、システムバグを起こしたプレイヤーであり、「現実世界を生きていた人間」だ。
だから、そのうち1人くらいは見知った顔がいてもおかしくはなかった。
そして、よりにもよってこの怪我持ちは…
「…兄貴。」
そう、どう見てもあの日、半狂乱を起こして気を失った俺の兄貴だった。
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