6話 エネミー

獲物(エネミー)の鳥は素早く滑空し、捉えづらい。

小柄なボディが空中を舞う以上、単純な攻撃はすぐに躱されてしまう。

そういう時は、先程町で購入したマシンガンを装備し、適当にぶっぱなしてみる。

「くらえ!」

散乱した玉のうち一発が羽を掠めた。

敵は機械的な鳴き声をあげてよろめき、飛行バランスを崩す。

そこに一瞬の隙ができる。

「今だ!!」

俺の合図で重装騎士は槍を投げた。

「任せなっ!!」

見事命中。鳥を貫いた槍が落下する。

「ふう…一丁上がりだ。」

「いやぁ、流石サガミだ…!」

「まーこの程度楽勝よ。それに、お前も大分こなれてきたな!」

「そうかな…でも大分自信が付いてきたぞ!」

「その意気だ!さてと槍を…。」

サガミと呼ばれた男は落下した自身の槍を拾い上げようとしたと同時に、ある物を目にした。

「…っこのエネミーは、『怪我持ち』だったか!動き回るもんで、『傷』に気がつかなかったか…」

「ど、どうしたんだ?」

急に緊迫するサガミに俺は動揺した。

「こいつはその…通常のモンとは違って『怪我持ちエネミー』と呼ばれている。体の何処かに切り裂かれたような紫色の傷が付いてるエネミーだ。」

ゆっくり塵となり消えていく鳥形エネミーの首には、縦に長い紫色の傷が刻まれていた。

「ん…?そう言えば、さっきも町で『怪我』がどうとか…」

「その事なんだが…今ここじゃ話し辛い、町のギルドでゆっくり話そう。タマノも交えてだ…」

「あ、あぁ分かった。」

こうして俺たちは町に戻り、プレイヤーギルドの大広間、その端の丸テーブルに座った。既に着席していたタマノさんも加えて、俺は説明を受けた。

その後、俺は説明された内容を頭の中で整理した。

『怪我持ち』とはつまり、基本的にはエネミーが抱えるバグのことだ。

通常エネミーが感染した状態で低確率でクエストに出現する。仕様ではなく、あくまでバグと言われている。

『怪我』に感染したエネミーは通常のaiからは逸脱した行動を取り、暴走する。

『怪我持ちエネミー』が負っている傷からはウイルスが漏れだしており、それが他のエネミーにも感染する。

そして、そのウイルスは希にこのゲームのプレイヤーにも感染する事があり、そうなるともう手遅れ。プレイヤーの自我は喪失し、ただ暴れまわるだけの『エネミー』と化す。

そんな『エネミー』が人に被害を与えないように、サガミを含め数人の高レベルプレイヤーは、それらを「討伐」して周っていたらしい。タマノはそのサポートを。

もしあのとき、俺が感染させられた状態でサガミに見つかっていたら…

「クルクマ、そう言うことだ。黙っていて済まなかった。」

「…いや、サガミが悪いんじゃないだろ…こんなゲームを作った奴が!!」

「そう言ってくれるか…でも俺はもう、人殺しなんだよ。やったことは変わらねぇ。」

サガミは険しい顔で俯いたままだ。

咄嗟にタマノは。

「サガミさん…どうか自分を責めないで…あなた達のしてくれたことは…正しいことだと、この町の皆…思ってるわ、それに私だってその手伝いを…あなただけ罪を抱えるなんて…」

「タマノさん…」

「クソッ!!どうして…」

最初に町で出会った落ち着いていて優しげなタマノさんと、いつも快活なサガミからは想像することができない、否。

想像したくない表情を同時に見つめ、俺はそれから、何も言えなかった。

その数秒後の事だった。

ギルドの入口、そこの大扉が勢いよく開き、一人の男が飛び込んで来て、大声を上げた。

「サガミ!!タマノ!!いるか!!」

その声を聞くや否やサガミは素早く顔を上げ、遅れてタマノも答えた。

「…ジンリョウ!?何があった!!!」

遅れてタマノも反応する

「ジンリョウさん!?」

ジンリョウと呼ばれたスナイパーライフルを装備した長髪の男は声を荒らげてこう伝えた。

「町に奴らが出た!!『感染プレイヤー』だ!!今すぐ討伐しなくては!!」

心の整理の暇は、無いようだ。

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