5話 町
「スキル発動、俊敏向上!」
男がそう言うと、足下から赤い波状のエフェクトが出現した。
「さっきは油断して悪かったな、ウサギさんよ。今度は手早く仕留める!はぁっ!」
数メートル離れていた筈の大戦兎の身体にたった一歩の跳躍で近づき、その得物で頸、額、脇腹をそれぞれ一呼吸の内に貫いた。
「グギャアアアアア」
雄叫びを上げた兎はやがて黒い塵となり消えていった。
「やったぜ!」
俺は自分の手柄のようにはしゃいでしまった。
『_クエストをクリアしました。報酬がプレイヤーに分配されます。』
「よし、これでお前もレベルが上がるはずだ。」
「そうなのか…おっ!」
『クルクマ レベル5 昇格』
『New! 新スキル「威力向上」「防御向上」「俊敏向上」を習得しました! なお超特殊スキル「ロ…』
後で見返せばいいと思って、俺は途中で画面を消した。
「へーレベル5か、それにスキルって、さっきサガミも…」
「あぁ、向上系スキルは初期のレベルアップで全員が習得できる。全部で5つある基本型の内3つを習得したみたいだな。」
「おお!じゃあ俺もさっきみたいに早く動いたり出来るのか…なんか面白そうっすね!」
「そうだな…ただ、いくつスキルを覚えようが、丸腰だと奴らにされるがままだぜ。」
サガミはニヤリと笑う。
「そ、そうだった…俺今、装備も武器も何も無いじゃん!」
「ははは大丈夫だ、今からお前の装備を見繕いに行くんだからよ。」
「あっ!ショップか何かがあるんすね!」
「いや…ショップよりももっと規模のでかい、町だ。」
「町…そんな場所があるのか…」
「あぁ、店の他に、居住区、ギルドなんかもある。プレイヤーは普段そこに集まってるな。」
「やっぱ本格的にゲームの世界なんだな…よし!早く行こうぜ!」
「俺のメニュー画面からそこへテレポート、と行きたいところなんだがな、これがまたバグってやがって…すまんがちょっと歩くぞ。」
サガミはすまなそうに俺を見た。
「そこがバグるってめっちゃ不便じゃ…まあ、わかりましたよ。」
俺たちは北へ数十分歩き、突如現れたトンネル空間を抜けるとそこには、オンラインゲームとかでよく見るような、中世っぽい町並みが広がっていた。
「すげぇ…ここが町かぁ!さっきの殺風景な景色と全然違うし、人も賑わってるぞ!」
「驚いたか、個人制作にしちゃあ意外と作り込んであるだろう?」
サガミと町並みを眺めていると、向こうから1人の女性が駆け寄ってくる。
「お帰りなさいサガミ!帰って来たのね!?『怪我』はない?」
サガミの知り合いと思われる女性は、俺を眺め悲しそうな表情をする。
「あら…その子はもしかして…また…」
「あぁ、フィールドで『新規プレイヤー』を保護してきたとこだ。俺もこいつも『怪我』はない、安心してくれ。」
サガミの口から『怪我』という言葉が発せられた。ここは仮想世界なはずなので、どこか身体に怪我をする事はない。戦闘でのダメージの事を指しているのであれば、それはクエストクリア時に自動で全快してしまっている。
「怪我…?」
何か違和感を感じた俺はつい、口走った。
「あっ…!」
「いや、大したことじゃねぇんだ。今度ゆっくり説明するよ。」
女性の言動を遮るようにサガミがそう言った。
「そうか…わかった。」
「おう。そういや…紹介がまだだったな、ステータスにも書いてあるが、彼女の『名』はタマノ。俺より少し遅れてこの世界にログインしたプレイヤーだ。」
「タマノと言います。よろしくね。」
「あっプ、プレイヤー名はクルクマと言います!
こちらこそよろしくおねがいします!」
サガミに紹介されたこのタマノというプレイヤーの落ち着いた雰囲気に俺は少し動揺してしまった。
「ふふっ。私に課されたクエストはこの町のギルドでの受付と各エリア毎の調査なの。わからない事があったら何でも聞いてねクルクマ君!少しは頼りになると思うから!」
「はい!」
「ははっ今日一元気だなお前!」
「はは…」
指摘され、俺は少し恥ずかしくなった。
「じゃ、そろそろ装備調えにいくとするか。タマノはどうする?」
「私は一度ギルドの仕事に戻るわ。」
「そうか、じゃまた後でな。」
「えぇ、ギルドで待ってます。」
タマノと別れてから俺たちは装備屋へ向かうことにした。
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