3話 チュートリアル

「おい、大丈夫か?」

男の声がして、目が覚めた。

「え…ここは…」

白い空に白い床。所々に岩や草のオブジェクトが配置されているだけの、不思議な空間が目の前に広がっていた。

その空間に1人横たわる俺に、妙な鎧を纏った男が話しかけてくる。

「意識はあるようだな、安心したぜ。…立てるか?」

「あ、なんとか…あれ?」

男の肩に捕まり立ち上がったが、どうにもおかしい。立ち上がろうとすると妙にふらつく。いや、ふらつく感覚はあるのだが、身体バランスは安定しているように思える。なんというか、上手く足腰に力が入っていないような…

「上手く立てねぇだろ?最初はみんなそうさ。なんせ、ゲームの中に意識だけ飛ばされてんだからな」

男はとんでもないことを言い出した。

ゲームの中に意識だけ飛ばされただって?

漫画や映画の世界じゃないんだから、そんなことあるはずがない。いやでもこの感覚は、確かに…そうだ、たしか俺は兄貴のパソコンに触って、それから意識が…いや、まさかまさか。

「あの…これ夢ですか?」

混乱した俺はそんな言葉を口にした。

「残念ながら夢じゃねぇ。マジにゲームん中だ。」

男はハッキリとした口調で否定した。

「俺の頭上を見ろ、プレイヤー名とレベルが表示されてる。まあお前にもあるが。」

男が指差す頭上には《SAGAMI LV13》と表示されていた。

「サガミってのが俺の『プレイヤー名』で、レベルはこのゲーム内のクエストをクリアして、もらえる経験値を貯めると上がってく数値のことだ。」

「ほ、本当にゲームの中なのか…あっ、お名前はサガミさんって言うんすね。俺の名前は…」

「そこなんだがな…」

自己紹介をしようとした瞬間、サガミの表情が曇る。

「お前、自分の名前言えるか?」

「えっ?」

サガミはまた、突拍子も無いことを言い出した。

自分の名前くらい言えるさ。

「俺の名前は…あれ、えっと、名前。」

出てこない。俺自身の本名、名前が頭に全く浮かばない。どういう事だ。

「俺も思い出せねぇんだよ、自分の名前。どうやらこの世界に来るとな、自分の名前を頭から消されちまうらしい。その代わりのプレイヤー名ってか?ふざけてるぜ。」

ブツブツ呟きながら「サガミ」は俺にそういった。

「そ、そんな。なんだよそれ。」

「どうしたもんかね…あと、もう一つ悪いニュースがあるんだが。」

もうなんでも来てくれ、という気分になった。

「このゲームの中に入ってから、現実世界で7日ほど経つとな、死ぬ。」

抱えきれない情報のヘビーさに、俺はまた意識を失いそうになった。


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