epilogue

「待って。おねがい。待って。こっちを向いてください」


「そこで止まれ」


「うっ」


「それ以上近付くな。俺が振り向くことはない」


「じゃあ、ここからでも。ひとつ、訊かせてください。おねがいします」


「だめだ」


「どうしても、訊きたいんです」


「だめだっ」


「ひっ」


「すいません。俺は、こわいんです。こわい。口に出して、それで、この感覚が、なくなるのが、こわい。だからすいません。喋ることは何もないです」


「私も」


「なに?」


「わたしも、です。こわい。違ったら。でも。訊かずには、いられない」


「勘弁してくれ。これ以上、思い出に土足で踏み入ってこないでくれ。頼む」


「それでも」


「だめなものはだめだ。いくら追っても、あそこには、もう、行けない。行けないんだ。あなたの思っている場所じゃないし、あそこは、もう、存在すらしていない」


「そんなこと、いわないで」


「ないんだ。ないんだよ、もう」


「やめてっ」


「ごめんなさい。もう行きます。写真はメールで送りますから。さよなら」

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