第2話

 動けなくなってしまった。


 どうしよう。


 他人より、少しだけ頭がよかった。だから、化学者をやっている。


 単純な話だった。


 幼いころ、夢と現実の狭間に落ちたことがある。どうやったのかは分からないけど、とにかく、夢と現実の間。ちょうど中間の部分。


 そこで、誰かに会った。


 誰なのかは、覚えていない。


 それから、その誰かを探すのが、私の人生になった。まず勉強をして、夢と現実の狭間を再現しようとした。


 ドラマやファンタジーではなく実際に見て感じたことなので、物理的な研究に進んだ。そして、あたらしい化学反応にたどりついた。


 でも、何かが、違った。結局、化学反応は現実の代物でしかない。


 でも、いま見たスマートフォンの写真。色。景色。


 私の見た、夢と現実の狭間に、とても近い。


 それが分かっていて、この写真家のひとは、炎に近づいていったのか。


 写真家のひと。


 夢と現実の狭間について訊いたら、おそろしい声を出した。


 いま、研究室を出ていった、あの人。こわい。


 でも。


 もし、さっきの写真が私の見た景色と近いなら。


 あのひとが、私の探していた、ひとなのかもしれない。


 こわい。おそろしい。


 声が、ではない。


 訊いて、違う答えが返ってくるのが、こわい。なんの話ですか。なに言ってるんですか。そう言われたら、夢と現実の狭間のことが、私の生きている理由が、否定される気がしたから。


 追いかけるべきなのに。


 足が、動かない。


 なんのために、研究してきたのだろう。


 なんのための。


 私は。


 なんのために。


 走り出した。研究室を出る。あのひとは。だめ。訊かないと。


 私は、そのためだけに、生きている。

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