第15話 無性に焦る。


 あれ以来。

 俺は以前に比べてより一層、アイツの事が気になる様になった。

 

 その耳は、アイツの声をどこからともなく勝手にキャッチするようになったし。

 その目は、無意識にアイツを探し出す様になったし。

 体に至っては、放課後なると何かと理由を付けては部活中の体育館へと足が向く様になった。



 何故そうなったのかなんて、そんなの分かり切っている。

 認めるのは何だかとても気恥ずかしいけど。


(きっとコレは、アイツの事が好きだからだ)


 所謂、初恋だ。

 そういう事に対して今まで縁が無く、同時に興味も無かった。


 だからだろうか。

 どうしたらいいのか全くと言って良いほど分からない。



 感情に振り回されるのは正直疲れるし、面倒でもある。

 でもそれを不快には、思わない。


 その事が、とても不思議だ。

 



 ――アイツは案外、モテるらしい。


 アイツは目立つし、俺以外には愛想も良い。

 勉強は……まぁ万年赤点の様だが、顔は決して悪くないと思う。

 素直で裏表のない性格も、周りからの好感度が高い理由だろう。


 もしかしたらアイツは、男なんて選り取り見取りかもしれない。


 そう思えば、何だかよく分からない不安に追いかけられる。

 無性に、焦る。



 もしも、行動を起こせば。

 そう考えた事が無かったと言えば嘘になる。


 しかし。


(行動を起こせばその良し悪しに関係無く、俺とアイツの距離感は変わる。良い方に転べば良いが、もしも悪い方に転んだりしたら――)


 そんな想像が首をもたげてくるから、どうしても臆病風に吹かれてしまう。

 

 我ながら、非常に女々しい奴だと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る