第13話 変な所で不器用なヤツ。



(俺の予想が間違っていないなら、きっとコイツは誰も来そうにない場所を選ぶ筈だ)


 そう思って人気ひとけの無い場所を優先的に探したのが、おそらく良かったのだと思う。




 アイツが居たのは会場の裏手。

 草がボウボウに生えている、整備の手が入っていない様な所だった。


「――此処に居たのか」


 アイツはいつも、何かにつけてはよく分からない根拠の下に自信満々だ。

 しかしそんなアイツにしては珍しく、すっかり丸まっている背中越しに、俺は声を掛けた。


 するとアイツは俺の声に反応して、バッとこちらを振り返った。


 どれだけ俺の登場に驚いたのだろうか。

 その目が大きく見開かれている。


(……あぁ、もうバカだなぁ)


 目に、大粒の涙が溜まっていた。


 「痛いのだ」と、聞かなくともすぐに分かる。

 だから顎でしゃくりながら、単刀直入に尋ねた。

 

 「ソレ、どうすんの?」


 走って来たので息がまだ整わない。


 なるべく肩で大きく息をして呼吸を整える様に心掛けながら言えば、アイツが一瞬怯んだ様な顔をした。

 しかしすぐにその感情を、ポーカーフェイスで懸命に覆い隠そうとする。


(そんな小細工した所で俺には分かるんだっつうのに……)


 何故かなんて分かり切っている。

 俺がコイツの怪我に気が付いたのと同じ理由だ。



 なるほど、今の反応でコイツが『怪我をした』という事実を誤魔化したがっている事は、伝わった。


 しかし最早座っている状態でさえ、涙が滲むくらいには痛いのだ。

 そんな状態でこの後すぐの試合に出れる筈が無い。


「その足だよ、足」


 俺は、アイツの意図を敢えて汲まない道を選んだ。


(此処はきちんとしないと、出来る物も出来なくなる)


 そう思ったからだ。


 言いながら、俺はため息と共にアイツの正面に周り込んだ。

 そしてスッとその足元にしゃがみながら考える。


(確か接触した時に着地した軸足は――)


 左足首に手を遣り、靴下の上から患部を軽く抑えた。

 するとアイツが痛みに顔を歪める。


(熱を持っているかどうか……は靴下の上からじゃ流石に分からないか)


 でも痛めてるのは間違いない。

 そう確信した。


「で? 棄権するのか?」


 患部を抑える手の場所を僅かに変える。

 そうやってどこを痛めているのかを慎重な手つきで探らながら答えを待っていると。


「……したく、ない」


 それは、まるで絞り出したかの様だった。

 その一言だけで十分、今正にコイツの中には様々な葛藤が渦巻いているのだろうと分かる。


(コイツ、変な所で頑固っていうか……人に頼るのが下手な所があるんだよなぁ)


 人の事はよく見えるのに、自分の事になると中々「助けて」と声を上げることができない。

 それはもしかしたら、頼られる事に慣れてしまったからこその弊害なのかもしれない。


 でも、それじゃぁ。


(お前の事は、一体誰が助けてやるんだよ)


 コイツはもう少し、周りに助けを求める事を覚えた方が良い。

 じゃないと、近い内にいつかパンクする。

 


 ――全く、危なっかしくて見ていられない。


 だからこそ。


「分かった」


 俺は短く、しかし一瞬の躊躇も無くアイツの言葉を受け入れた。


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