第12話 杞憂なら、それでいい。
高校2年の冬。
俺はバスケットボール県大会の会場に、雑用要員として駆り出されていた。
試合会場が学校と近く、出場チームの中に当校も含まれているから。
そんな理由で大会委員からうちの学校に「運営補助要員として数人、人を貸してくれないか」という要請があったのだ。
学校側はその要請を、快く引き受けた。
そしてその年の秋に生徒会長になっていた俺は生徒の代表として、必然的にそのメンバーに選出された。
作業は、存外簡単なものばかりだ。
各校の勝敗に合わせて、会場内に張り出されたトーナメント表の更新をしたり。
昼食用の弁当やペットボトルのジュースを、希望者に対して販売したり。
トロフィーを良い感じにディスプレイしてみたり。
そういう作業だから、常に忙しいという訳でもない。
自分の学校の試合を観戦する余裕くらいは十分に用意されている。
準決勝。
当校のバスケ部は依然として快進撃を続けている。
残り時間が1分の時点で、10点リード。
(これなら多分、勝てるだろう)
そう思えるくらいには、安定した試合だった。
試合終了直前に小さなトラブルがあったものの、結局試合は逃げ切る形でうちが勝利した。
しかしその『トラブル』というのが、少々問題だった。
シュートを決めようとした当校の生徒に、他校の生徒が接触した。
『トラブル』とは、コレである。
コレが小さなトラブルとして片づけられたのは、それによって大きな混乱が起きなかったからだ。
その時も試合後も、一見するとぶつかられた選手に変わった様子は見られない。
でも。
(……アイツ、もしかして)
その『当校の生徒』というのがアイツだったからこそ、俺はアイツの僅かな表情の違いからその違和感に気付く事が出来たのだと思う。
試合が終わった後、本当ならすぐにでもアイツのところに行って問い詰めてやりたかった。
しかし俺は仕事を与えられている。
間が悪いことに丁度周りが出払っていて、誰かにその役割を変わってもらう事も出来ない。
曲りなりにも、俺は当校雑用要員の代表者だ。
まさか代理を立てることも無く無断でそこを抜けるわけにはいかない。
しかしどうしてもアイツの様子が気になった。
だから。
(……ただの杞憂だったなら、それでも良い)
俺は与えられた仕事を自分史上最速で終わらせると、会場に幾つか常備されている救急キットを一つ、乱暴に引っ掴んだ。
決勝戦までの時間は、後25分程。
俺は急いでアイツを探した。
探して、探して、探し回って。
そうしてやっと、アイツを見つけた。
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