最終話 見張った結果

 あ~あ。

 結構、殺る気になってたから。

 それがポシャって、残念な気持ちがあるけど。


 しょうがないよね。

 この子、殺すわけにはいかないし。


 そうすると、必然、連中を殺る前に気絶させなきゃなんないけど。


 ワーディング使えば、UGNだとかギルドの連中に嗅ぎ付けられる恐れあるから避けたいし。

 だったら、心臓打ちでも繰り出して、失神させる方法くらいしかとりあえず無いけど、それ、下手すると死ぬからね。

 この子の身体にも、痣残るかもしれないし。

 やらないで済むなら、やらないに越したことはないよ。


 アタシたちは、二人で廃業したラブホテルを出ようとしていた。

 あの子はアタシの後ろについてきてる。


 一言も、喋らない。


 ……うーん。

 つい、興奮して、殺る気で笑ってしまったけどさ。

 その時の顔、見られて無いよね?


 あの顔、見て引かないのはセルメンバーくらいだしねぇ。


 ちらりと後ろを見た。

 ……別に、怯えてる様子は無いみたい。


 じゃ、大丈夫かな?


 アタシの殺る気になってるときの顔、相当怖いらしく。

 マトの連中、ガタガタ震えるんだよね。

 そこのところ、正直愉しい。

 快感だよ。いっつもゾクゾクしてる。


 そして。


 ラブホを出て、アタシは布鞄を隠した茂みを探る。


 ……あった。


 中を探る。

 ウィッグも財布もちゃんとある。


 盗まれてなかった。ホッとした。

 日本は治安良いとは言うけれど、過信はできないし。


 現に、今日は一人の女の子がクズどもに拉致されて、玩具にされそうになってたわけで。

 何か放置したら、盗まれるものと思わなきゃ。


 ……っと。


「あなたの荷物は?」


 女の子を振り返る。

 そういや、この子も手荷物持ってたよね?

 確か。


 でも、今手ぶら。


 奪われた?

 落とした?


 そしたら。


「……多分、車の中です。私を、攫った……」


 はじめて、口をきいてくれた。



★★★



 佛野さんは、私の手荷物を気にしてくれて。

 ラブホテルに引き返し。

 私を攫ったミニバンを調べようとしてくれたけど。


 ミニバンには鍵がかかっており、しょうがないのでまたあの部屋に引き返し。


 そこにまだ留まっていた連中に「アンタたちの車のキーを出して」って言った。

 すると連中、ビクビクしながら、特にあのハヤシとかいう男は卑屈に笑いながら「どうぞ。存分に使ってください。差し上げますんで」と言ってキーを差し出して来た。


 ……ホント、あのとき、何があったんだろう?


 あの男、佛野さんに足を折られたのに。

 その痛みに耐えながら、折った相手に愛想笑いを浮かべてヘコヘコしてる。


 あの種の人間には、そんなの、あまりにも屈辱的なんじゃ無いの?

 なのに、なんで?


 車の前まで来て。

 電子錠をスイッチで開錠し。


 私に探索を促した。


 乗り込んで、ちょっと探したら、あった。

 私の鞄!!


「ありました!!」


 言うと。


「じゃ、行こうか。そのまんま、乗ってなよ」


 とニッコリ笑って、運転席の方に回った。


 ……?


 ちょっと、何をしようとしているのか分からなかったけど。

 乗り込んできて、シートベルトつけて、エンジンを始動させたので。


「え?佛野さん、免許持ってるの?」


「もってないよ」


「無免許!!」


「ナイショでお願い。アタシ、実技はできるから……って、やっぱり同じ学校の子か」


 振り返って、また微笑んできた。


 すごく悔しいけど。


 メチャクチャ、可愛かった。




「……まぁ、何も無いところ抜けるまでは車で行こうよ。多分歩くと結構あるし」


 車を出しながら、佛野さんは言った。

 実技は出来る。その言葉通り、運転には何も不安が無いみたい。


「あなたの名前は?どこのクラス?」


「……2年A組の、千田、です……」


「あぁ」


 運転しながら


「あやとのクラスと同じ子か」


 ……彼女の口から文人君の名前が出たとき。

 胸が、ズキリと痛んだ。




「ここらへんでいいかな」


 何も無い区間が終わりそうなところで。

 佛野さんは車を停めて、そのまま乗り捨てた。


 車を降りて、二人で歩く。


「……今日、ずっとつけてきてたよね」


 先行する佛野さんはそう、独り言を言うみたいに言って来た。

 ……今日も、バレてたんだ……


 悔しかった。

 気づかれていたうえで、お情けで尾行させてもらってた。

 そういうことなのか……


「……なんで?」


 ……ここで、ダンマリはかっこ悪すぎる。

 悔しかったけど、私は言った。


「……文人君にあなたの悪口言ったら、怒られたから、悔しくて」


「へぇ、アイツ、アタシのために怒ってくれたんだ」


 なんだかすごく嬉しそうだった、

 ……悔しい!!


 悔しくてたまらないけど、後を続けた。


「……文人君が悪口言うと怒る、佛野徹子ってどんな女の子なのか、調べてやろう。知ったうえで、もう一回彼に悪口を言ってやる」


 そして声を張り上げた。


「そう思ったからつけたのよ!!」


 佛野さんの足が止まった。


 そして、振り返ってきた。


 正面から向かい合う。


 ……止まらなくなった。


「何なのあなた!!文人君、絶対あなたのこと、好きなはずなのに!!」


「昨日、ファミレスで会ってたよね!?そのときに文人君の顔見た!あれ、絶対に友達に向ける顔じゃない!!」


「それなのに!!」


「今日のあれは何!?あなた、恋人居るのに他の男の子と遊んで!!しかも、絶対……え、エッチに誘ったよね!?」


「最低じゃない!やっぱ最低よあなた!!あんな文人君みたいな、素敵な男の子を裏切るなんて!!」


「助けてもらったのは感謝するけど、私、絶対あなた許せない!!文人君に謝って、その上で、これからはちゃんとするか、そうじゃないならもう彼を解放してあげて!!」


 激情のままに、言いきってしまった。

 自分でも、よくここまで心の内をさらけ出せたかと思う。

 言い切った後、涙が出ていることに気づいた。


 ……佛野さんは、そんな私の言葉を黙って聞いていた。


 そして、それに対して怒るでもなく、嘲笑うでもなく。

 穏やかに、返してきた。


「……誤解があるね」


「まず、アタシとあやとは恋人じゃない」


「嘘!」


「嘘じゃないよ。本当。ただの、大親友……」


 そう言ったときの佛野さんは、何だか、寂しそうだった。


「だから」


 佛野さんは、平然としてた。


「裏切るということも当てはまらないよ。だって、恋人じゃないんだもの。フリーである以上、アタシが誰と寝ようと、不貞でも何でもない。そゆこと」


 嘘を吐いているようには見えなかったけど。

 到底、納得できなかった。


「だったら!!」


 佛野さんを睨みつけながら。


「あの文人君の顔はどう説明するのよ!?」


「そりゃ、彼がアタシに特別な感情を持ってるからでしょ」


 はぁ!?


「だったら恋人じゃない!!」


 意味不明!!


「違うよ」


 まったく嚙み合わない。理解できない。


 佛野さん、ため息をついた。


「あのね」


 そして、諭すように、言って来た。


「あなた、あやとの事、素敵って言ったけど。勘違いしてるね」


「何がよ!?すごいじゃない文人君は!!」


「……じゃあ、どこが素敵なの?」


「勉強すごくできるし!」


「……あなた、東大出の男なら躊躇いなく寝るんだ?」


 ……ッ!!

 間髪入れず、佛野さんが言ってくる。

 揚げ足を取るようなことを。


「す、スポーツだって出来るし!!」


「今日のクズどものうち、金髪のデカイやつ、きっと運動相当できたよ?コンビネーション綺麗だったし」


「や、優しいし!!」


「はい。そこが最大の勘違い」


 佛野さん、そこで言葉を止めた。

 そして、絞り出すように、言った。


「……アイツは異常に頭良くて、真面目なの。ほとんど狂人レベル。だから、結果的に優しく見えるだけ」


「アイツの基本行動原理は、損得勘定よ」


「だから、他人に嫌悪されて生きるより、好かれた方が何かと都合がいいから、基本誰にでも優しくするのよ」


 差別しないように見えるのも、理由は一緒。

 と、佛野さんは付け加えた。


「いい加減なことを言うな!!」


 反射的に佛野さんの言葉を、そうやって否定したら。

 彼女の顔が、変わった。


「……へぇ?」


 目に、怒りが籠っていた。


「アタシが、アイツに対して、いい加減?何を根拠に?」


「だって、だって……!」


 言葉が継げない私を、一喝するように佛野さんは言った。


「この学校来る前から、ずっと一緒に居て、苦しいときも、辛いときも、ずっとアイツと一緒に居たのよ、アタシは!」


「昨日今日、アイツの外面に憧れただけの頭空っぽのクソ女が、知った風な口をきくな!!」


 佛野さんが私に近寄ってきた。

 目がどんどん険しくなってきて、そこに、憎悪が宿ってくる。


「……千田さん、だっけ?アンタ、アイツのこと、好きなんでしょ?」


 佛野さんの声は冷たく、嘲りと、憎悪と、嫉妬に満ちていた。

 そこに嫉妬を感じた理由は、全く分からなかった。


「だったら、何が悪いの!?」


「……やめといた方がいいよ。アイツ、絶対に誰のものにもならないから」


「私じゃ釣り合わないって言いたいの!?」


「そうじゃない。いつ言ったよ?そんなこと?」


 せせら笑われた。話はちゃんと聞け、と続けられた。


「……どうせ、アイツ以上に見た目が良くて、優秀な別の誰かが現れたら、そっち行くんだろ?」


 佛野さんはもう、私の目の前に居た。

 その手が、ゆらり、と持ち上がる。


 そして


「あぎっ……!!」


「お前ら恋愛脳の牝豚は、ホントむかつくわ……死ねばいいのに……」


 佛野さんの手が、私の首に巻き付き、両手でぎりぎり絞め始めた。


「お前らがキャアキャア、誰がかっこいいだとか、誰が素敵だとか、騒いでるの聞くたびに、イライラする……殺したくなる……!」


 苦しい……!

 私の首を絞める佛野さんの目は、私への殺意と憎悪に満ちていた。


 ものすごい力……振りほどけない……!!


「……良いこと教えてあげるよ。アイツに告白しても100パー振られるけどさ」


 佛野さんの表情が、歪んでいく。


「もし、万が一、億が一、アンタになびくようなことがあったら……」


 続く言葉で、心臓を掴まれた気分だった。


「アンタも、アイツも、ぶっ殺す」


 目が、本気だった。

 脅しじゃない。本気で言ってる。


 そして。

 おそらくその場合、その後自分も死ぬつもりなんだな。

 それが、見て分かってしまった。


 そのぐらい、強い想いを、佛野さんは、文人君に持ってる。

 それなのに……それなのに。

 何で、恋人じゃないなんて言うのよ!?


 わけがわからなかった。


 苦しい……!


 ……絶対。殺される。

 このまま。絶対。


 そう思った。


「……た……たすけて……」


「あやとはお前なんて助けない。死ね、牝豚」


 佛野さんには、もう、言葉が届かなくなってるようだった。


 ああ、このまま死ぬんだ……

 理由は分からないけど、佛野さんの逆鱗に触れることをやってしまったばかりに、私は殺される……


 口をついて、出た。


「おかあさん……」


 その、瞬間だった。

 急に、解放された。


 呼吸ができるようになった私は、必死で酸素を貪った。

 へたり込んでゲホゲホ咳き込む。


 私を絞殺寸前まで追い込んだ佛野さんは、立ったまま、何だか呆然としていた。

 そして一言。


「……ゴメン。ちょっと狂っちゃった」


 本当に、すまなさそうに、そんなことを言ったんだ。

 本気で私のことを殺そうとしていたのに。


「警察に、言う?それは、しょうがないよね……」


 さっきまで、私を殺そうとしていたときは鬼そのものだったのに。

 まるで別人だった。


 喉を押さえて、呼吸を整えながら。

 私はそれに答えた。


「……言わない。けど」


「佛野さんのこと、教えて欲しい……」


 何で自分が殺されそうになったのか。

 それぐらい、知りたかったから。




「……アタシの母親ね、アタシが5歳のときに、他に男作って家族捨てて出て行ったの。腐った牝豚」


 あの場所から最初に見つけたファミレスに入って。

 私は佛野さんの身の上話を聞いた。


 酷い話だった。


 佛野さんの母親、5歳の佛野さんと夫を捨てて、不倫相手に走ったらしい。

 不倫相手は、チャラチャラした、顔が良いだけのヤクザみたいな男だったよ。父さんは、真面目が取り柄の地味な人だったから、あの牝豚としてはつまらなかったんだろうね、と続けた。


 佛野さんは自分の母親のことを終始「牝豚」って呼んでいた。

 大嫌いなんだな。自分のお母さんの事。


 私は佛野さんが奢ってくれたオムライスを食べていた。話を聞きながら。

 正直、今日は見張りでろくなものを食べてなかったんで、美味しくてたまらない。


「だから、そんなクズの娘のアタシは、遺伝子が汚れているからどうせ裏切る。だから生涯恋人は作らないって決めてたんだけど」


 中学の時、文人君と出会って。

 諸事情で、だいぶ一緒に行動してて、その中で、どうしようもなく好きになって。


「裏切ったらアタシに何をやってもいいから、結婚して欲しい、ってお願いしたんだけど」


 そこまで……!

 しかし、一緒に行動する諸事情って、何?

 そこは、聞いても教えてくれなかった「それは勘弁して」って。


「彼も、個人的な理由で『自分は恋人を作ったり、結婚する資格無いから』って思っててさ」


 その個人的な理由って?って、聞きたかったけど。

 どうせ聞いても「それは彼に聞いて。アタシからは言えないな」って言われると予想できたから、スルーした。


「だから代わりに、一生大親友で居ようって決めたんだ」


 そこまで言ったとき。

 佛野さんは笑ったけど。

 悲しそうだった。


「気持ちと折り合いつけるの、大変だったよ」


 遠い目をしながら言う佛野さん。


「悪い噂立つの分かってたけどさ」


 母親を寝取った男が嫌いだったから、正反対の属性の男の子に身体を差し出して、経験させてあげて。

 女慣れさせてあげて、クズみたいな女に引っかからないようにしてあげる。

 そういうこと、佛野さん、中学の時からやってたらしい。


「だって、あいつ、女とやったことがあるくらいしか、自慢できるところが無いクズだったからね」


 自分が卒業させてあげるたび、仕返ししたような気になったらしい。

 これでお前の自慢なんて、ゴミだね、と。


 当然、文人君に求婚したときは、一切そんなこと止めるから、とも言ったけど。

 彼の事情で断られて、それに納得してしまった佛野さんは、そういう行為を前以上に熱心にやるようになってしまったらしい。


 そうすることで、彼への気持ちを遠ざけられれば、って。


「最近だよ。だいぶ折り合いついてきたの」


 自分で自分を洗脳することもしてるんだよ~って笑いながら言ってた。

 自分は頭ぶっ壊れてるから誰とも恋ができない、って。

 まぁ、半分くらいは事実かもね、って微笑んでた。


「……ごめんね。最低なんて言って……」


「いや、ま、それはしょうがないよ」


 佛野さんの身の上話を聞いて、前みたいに悪口が言えなくなった。

 確かに、何も知らなかったんだな……


『あいつの名誉のために言うけど、あいつ不倫めいたことは殺されてもやんないから』


 なんで不倫なのよ。そこでいうなら浮気でしょ、ってちょっと引っかかってたけど。

 文人君、佛野さんのこういう事情知ってたから、ああいう言い回しになったんだ。きっと。


 確かにね。

 自分の親友が、「大嫌いで、最低」だと断じている存在とその親友が同質だって、最大級の侮辱だろうし。

 そりゃ、怒るよ……。


「アタシが頭おかしいことしてるのは言い逃れできないんだからさ」


 佛野さんは本当に気にしていないようだった。


 で。


 ふいに聞いてきた。


「……首、大丈夫?」


 ちょっと跡になってる、って佛野さん。

 本当かな?


 だったら、ちょっと明日は首を隠さないといけないかな……?


 私が首を絞められた理由。

 なんとなく、理解できた。


 多分、佛野さん。

「誰が一番素敵だ」とか「誰が一番かっこいい」って言葉が嫌いなんだ。

 自分の母親を思い出すから。

 自分の夫より魅力的だと感じた相手に、家族を捨ててあっさり乗り換えた、最低の母親を。

 だから恋の嫉妬で狂って、ストーカーまでして、自分を非難してきた私にだんだんイライラしてきて。

 それがふとしたことで殺意にまで膨らんで、ああなっちゃったのかもしれない。

 私の彼を好きになった理由が、余計逆鱗に触れたんだろうね。知らなかったんだけどさ。


 ……でも。


 どうして、助けてくれたんだろう?


 考えたくないし、ゾッとするけど。

 完全に、絞殺されるコースだったと思うのに。


 ……教えて、くれるかな?


「……佛野さん」


「何?」


 この人、本当に綺麗で、可愛い。

 さっきまで、ごつい男を10人相手にしても、余裕で撃退したり。

 鬼みたいな表情で、私を殺そうとした人とは思えない。


「どうして、助けてくれたの?」


「そりゃ、犯罪に巻き込まれたのを目撃したから」


「そっちじゃなくて!!」


 それで、分かってもらえたみたい。

 スッと、真顔になった。


 そして、言ってくれた。


「……アンタさ、あのとき『おかあさん』って言ったじゃん?」


 ……言ったの?


 必死過ぎて、気づかなかった。

 死にそうになって、母親を呼ぶなんて。


 恥ずかしかった。


「それがさ、羨ましくて」


 ……え?

 しかし。佛野さんの言葉は、予想外だった。


 彼女は続けた。


「……自分だったら、絶対出ないと思うんだ。だって、この世で一番大嫌いなのが自分の母親だから」


 佛野さんは私を見た。


 そして、言った。


「アンタの母親みたいな人が、アタシの母親だったら本当に、良かったのに」


 それで、我に返ったんだよね。

 ごめんね。ホント。


 どうしても怖いとか、許せないなら、警察に駆け込んでもいいよ。

 アタシの責任だから。恨んだりしないし。


 カラカラ笑っていた。


 ……うん。

 佛野さん、普通じゃない。


 普通じゃ無いけど、多分、悪い人じゃ無いし。

 学校の女の子たちが言ってるような、最低の女の子でも無い。




 それから。


 クラスでの昼休み。


「こないだのテスト、赤点とったから補習だよ~」


 お昼ご飯が終わった後。

 友達の一人が、机に突っ伏して嘆いていた。


「ちょっと遊び過ぎたんじゃない?」


「しょうがないじゃん。テスト前に面白い漫画見つけちゃったんだし~」


 ……先日、定期テストがあって。

 結果が返されてきた。


 成績上位者は名前と順位が貼り出されるので分かるけど。

 非上位者は、自分がどの程度に居るのかは周囲には分からない。


 文人君は10位。


 ……佛野さん曰く、わざと数問間違えているらしい。

 本当は1位取れるけど、目立って、トラブルを引き寄せるのが嫌だからだとか。


 エスパー●美の高●君か、と笑ってた。

 こっちもお笑いだよ。ドラ●もん以外にも手を出してんの?って。


「あ~あ。補習、嫌だな~」


「佛野でさえ、補習になってないのにさ」


 赤点とった友達に、反省しなよ、と別の友達。

 あの見た目で、補習の現場には一回も姿を現したことが無いのが、この学校の七不思議のひとつ。

 だった。私の中では。


「……佛野は違うでしょ~?」


 どうせ、教師を誘惑して、点数弄ってるんだし~。

 そう友達が口にする。


 ……ちょっと、カチンと来た。


「……あのさ」


 私がそう切り出すと、友達二人がこっちを見た。

 続ける。


「実は、佛野さんのノート、見たことあるんだよね。思い付きで、こっそり覗き見たの」


 二人をしっかり見据えながら、続ける。


「……すごく、びっしり書き込んでたよ。板書だけじゃなくて、そのまとめだとか、裏話、歴史的背景まで」


 まぁ、反感買うかもしれないけど。

 一応、友達やってんだから、これで敵に回るならその程度なんだよね。きっと。


「相手の評判悪いからって、全部が全部、否定するのは違うんじゃ無いのかな。少なくとも、佛野さん「勉強は」真面目だよ」


「……マジ?」


「まじ」


「まじかー」


 二人、私の言葉を否定しなかった。

 ……ちょっと、ホッとした。


「まぁ、モテない子ばかりデートに誘ってるのは本当みたいだけどね。どういうわけか、モテる男の子に興味ないみたい」


「何それ意味不明ー!」

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殺し屋やってるFHエージェントを一般人が見張る話 XX @yamakawauminosuke

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