第10話 オーガ戦

 俺はいま、会社の目の前でたたずんでいる。目線の先には、一匹の人型の化け物。2メートルを優に超す体躯と、その右手に握られる野太刀。まぁ、見るからに今までの敵とは一線を画すような雰囲気の敵である。


「見るからにやばそうじゃん。」


大鬼オーガは、通常種でもオークの二倍ほどの強さですからね。まぁレベルが高くなってるので、大丈夫だと思いますよ。〉


「二倍かぁ、若干怖いな。レベルだけを見るなら二倍ってわけじゃないしな。」


〈大丈夫だと思いますが・・・。まぁ、生き急ぎ野郎よりは、慎重過ぎるほうが好感をもてます。じゃあ、スキルでも取りますか。簡単に強くなるスキルがあるにはあるのですが、MP消費が少々きついかもしれません。〉


「どんなやつ?今はとりあえずあいつの対抗できる手段は何でも欲しい。」


〈[身体強化]スキルです。10秒に一回、5MPずつ消費します。今だと、7分半の連続使用でMP枯渇ですね。〉


「MPが枯渇するとどうなる?」


〈死にはしませんが、かなりの倦怠感に襲われます。戦闘中になったら一環の終わりですね。というか、前にも言いませんでした?〉


「そうか?まぁ、気にしないでくれ。そのスキル、どれぐらいの効果が見込める?」


〈そうですね、スキルレベル1だと、5割、といったところでしょうか。〉


「了解、じゃあ大丈夫だ。そんだけあれば安全マージンを作って足りるだろ。」


『スキル[身体強化]を獲得しました。』


「じゃあ、行きますかね。」


[高速]と、[隠密]を発動させながら、一気に近づく。

 真後ろをとったあたりで、大鬼オーガに気づかれた。ただ、大鬼オーガ自体はもう目の前、[身体強化]を発動し手始めの一太刀。

[先駆け]の称号の力により、通常より強化された一撃。首を狙って振るったそれは、大鬼オーガに届く一歩手前で差し入れられた腕によって無理やり防がれる。しかし、大鬼オーガはその代償として腕を一本失うことになった。


 この時点での、[身体強化]発動からの経過時間は10秒に満たない。一撃目の威力向上というカードはなくなったが、相手にも手痛いダメージを与えることができた。これなら余裕かも?


 という甘い期待は一瞬にして崩れ去る。


「GURAAAAAAA!」


 オーガの放った咆哮は、会社のビル全体をグラグラと揺らした。


〈あの鬼、切り札を隠していたようですね。〉


「どういうことだ?」


〈先ほどの咆哮とともに、あの鬼のステータスが伸びたようです。生存の本能、といったところでしょうか。何かしらのスキルだと思われます。〉


「うへぇ、まじかよ。どう、やれると思う?」


〈大丈夫だと思いますよ。まぁ、まず逃げたところで追ってくると思うので、ガンガン攻めたほうがいいと思いますが。〉


「そうか、了解。で、ステータス的にはどれぐらいの伸び?」


〈そうですね。STRのステータスのみですが、約2倍になっています。もともと、あなたのSTR以上のステータスでしたので、当たると厳しいかもしれませんね。〉


「ぜってぇ、痛い。まぁ、当たらなければどうということはない!」


 弱気でいても何も始まらないので、大声で自分に活を入れ、また一気にオーガに近づき、一太刀当てる。その後、一瞬でその場を引く。

 すると、先ほどまでいた場所にはオーガの持っていた野太刀が振り下ろされていた。そこの地面は蜘蛛の巣状にひびが走り、その一刀の威力を思い知らされる。


「やばいなあの威力。ほんとに当たったら即、ゲームオーバーじゃねえか、っよ!」


 振り下ろされた野太刀が再び振るわれる前に、少しでもダメージを稼ぐつもりで振るった刀は、オーガの体に傷をつけるも、致命傷には至らない。やはり、一太刀目で仕留めそこなったのはかなりの痛手だったようだ。


 その後も、ヒットアンドアウェイを繰り返し、少しずつ相手のHPを減らしていった。しかし、相手の攻撃はやまず、しかもこちらはタイムリミットが迫ってきている。残りのMPは65、あと二分ちょっとで仕留め切らねばならない。


 しかし、一気に攻め立てて攻撃を食らい、はい、終わり、では何の意味もないので、そのままヒットアンドアウェイを繰り返すほかはない。遠距離から攻撃できる魔法も、俺のスキルレベルではただの牽制にしかならないので、その分のMPを[身体強化]に回したほうが、圧倒的に1MP当たりの効率ダメージレートがいい。


 そのまま1分が過ぎ、あと一分で、というところでなんとオーガが膝をついた。[鑑定]をしてみると、オーガのHPは、〔20/2000〕となっていた。さすがのオーガも、HP不足には勝てない。チャンスなので、これ幸いと倒してしまうことにする。刀の一刀で首をはねると、〔0/2000〕となり、やがてその表示も消えた。


 その後、すぐに例の声が聞こえる。


『レベルが上がりました。』

『レベルが上がりました。』

『レベルが上がりました。』

『レベルが上が…


『レベルが上がりました。』

『スキル[膂力増強]を強奪しました。』

『スキル[鬼の咆哮]を強奪しました。』

『この世界において、初のレベル50突破を確認。称号[韋駄天]を獲得しました。』


 レベルは8上がり、スキルも二つ奪い、さらに称号ももらうことができた。かなり厳しい戦いだったが、得られたものは多かったと思う。しかし、あのオーガが使っていた急に攻撃力が上がったスキルは、[膂力増強]だったのだろうか?


〈いえ、[鬼の咆哮]ですね。このスキルは、咆哮を聞いたものがレベルが下の場合は、恐怖を与え動きをにぶらせる効果が、レベルが上の場合はそのレベルに応じた倍率で、自身にSTRにバフをかけるスキルのようです。〉


 ほぉん?便利そうなスキルだな。あ、味方はどうなるの?


〈咆哮と称していますが、まぁ一種の魔力の波をぶつける攻撃のようなので、指向性さえ絞れば、何の問題もなく使えると思いますよ。〉


 ほう。それならよかった。今後妹や親父なんかと共闘するときにも、ぶちかましていいわけだ。


 そんなことを考えナビゲーターの話を聞いていると、後ろから一人の女性の声が聞こえた。


「なんでぇ!とんでもない揺れを感じて、怖くてトイレから出た瞬間によくわからない化け物に追い掛け回されなきゃならないのぉ!」


 なんとなく聞き覚えのある声に、不幸そうな話。会社にいた生存者二人はどちらも知っている人だったらしい。




 ***

 こんにちは、作者です。ちょっと説明が足りないかも?と思ったので、補足を。

 今回の話で、敵のHPを見るために使った[鑑定]ですが、これでステータスは見えるのに、スキルは見えないのー?ってなったかもしれません。

 一応これは、主人公の[鑑定]のレベルが足りないからってことです。ちなみに、[鑑定]は、スキルレベルがマックス5のつもりです。スキルレベル1では、ステータスぐらいしか見えないってことですね。まぁ、そんなふわふわ設定な作品ですが、これからものんびり投稿していくので、応援よろしくお願いします。


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