第13話 発汗の種 続
*前回の続きとなります
「ここだな」
僕_
***
数時間前。
「えっ…?神様じゃないの…?」
一之屋は公園で素っ頓狂な顔をして僕に問いかけていた。
「申し遅れたが僕は神じゃない。残念だったな」
「そんなぁ〜」
「高峰希空、高校1年生だ」
名前と簡単な身分を明かす。
「一之屋咲です。同じく高校1年生だね」
タメだったか。同じ学校ではないよな?明らかに彼女は目立っているし。学校のことは別にいいか。この場において重要じゃない。
妹の
「高峰よ…」
「どうした一之屋、話したいことがあればどうぞ」
この会話はお互いの立場を知ってから初めてのコンタクト。お互いタメ口でいいってことだな。変に敬語使われるのも嫌だし、僕はこれでありがたい。
「私はその辺の女子校のサッカー部に所属している」
「おう」
女子校ってこの辺りには一つしかないな。うちの高校からかなり近いな。
「もちろんやるからにはレギュラーを目指す」
「頑張れよ」
1年生がレギュラーを取るとなると実力のある先輩方と渡り合うために練習しなければならないからな。
「だがこのように運動すると大量の汗が出て満足に部活動に参加できていない」
「大量の汗を常人が出すレベルのものにすればいいということだな」
「うん…」
風が僕らに沈黙を運ぶ。
木々の葉たちが擦れ、木陰のベンチに座る僕たちに安らぎを与えてくれる。
それをぶち壊すかのように。
「ま、僕には解決できない問題なんだけどな」
「えっ?」
「この場に合っているかはわからないが、善は急げだ。一之屋、今日この後時間はあるか?」
「あるけど、どうして?」
「解決してくれる人物が一人、心あたりがある」
***
そして今に至る。
そろそろここに来る必要もあったし、都合がよかった。
扉を開けて一之屋とともに中に入る。
「こんにちわ。ご無沙汰しています」
「こんにちわ〜」
もろみの蔵の中には、いつもの席に山下さんがいる。
「やあ、しばらくぶりだね希空くん。今日は美人な彼女さんを連れて、僕に自慢でもしに来たのかい?」
にへらっと笑ってくる山下さん。
「まさか、僕に彼女ができたらおそらくここには来ませんよ。それに僕はともかく彼女に失礼じゃありませんか」
「それもそうだね」
冗談を減らず口で応戦する。まだまだ言葉では敵わないけど負けてはいられない。
いつも見ている僕はおいといて初診の患者の方に山下さんは意識を向ける。
「どうもお嬢さん。僕はいつも醤油やお酒を作ることに必死になっている山下と言います」
一之屋は驚いて目を見開いて。
「いつも醤油やお酒を作ることに必死になっている山下さん!?そんな長い名前の人がこの世にいたとは…!世界は広いですね…」
「んな訳あるか」
素で驚く一之屋の頭を軽くはたく。
僕にだけかと思ったが、初対面の人間には挨拶みたいにボケなければならないみたいだな、この一之屋という女。
「いてて…一之屋咲です。今日は高峰くんのご紹介で連れてきてもらいました。よろしくお願いします」
礼儀正しい面があるなら最初から出しておけ。
「さあ、立ってないで二人とも座って座って」
***
「ふむ、確かに一之屋さんの代謝は良すぎるみたいだね。それに馬の霊が取り憑いているな」
「馬の霊って何ですっ…か?」
苦しい体勢からふんばって僕は声を出す。
『苦しい体勢』と言ったな。
僕は山下さんからもらった砂を指定された箇所に当てている。
今日は左足の甲と右膝だ。
両方を座りながら押さえているため少々不格好な僕。
「ぷっ…高峰!?そんな格好してどうしたの?くふっ…壊れた!?あはははは!」
それを見て堪えていた笑いが溢れる。
「うっさいわ!今はお前の話だろっ!」
「仲がいいねえ。微笑ましいよ」
「今日知り合っただけですよ…」
しっかりと便乗してくる山下さん。良識のある大人どこ行った?
「まあまあ、希空くんにいたずらするのはそれくらいにしてねー」
我らが救世主女将さんの登場です。三人分の飲み物を持ってきてくれました。
「はい、ここに置いとくね〜ごゆっくり〜」
そそくさと去って行ったが癒しとしては十分すぎた。
「馬の霊だったね」
「「はい」」
僕は先ほどまでのおかしな体勢から直り、一之屋と共に相槌を打つ。
「馬はね、人間と同じくらい汗をかく動物なんだよ」
それは知らなかったな。どちらかというと馬よりかは犬の方が汗をかいてぐったりと寝そべっている感覚があった。馬って茶色だからあまり汗をかいているかわからないな。もしも乗馬とかする機会があれば観察してみたいものだ。
「馬の霊が取り憑いているから、一之屋の体から大量の汗が出てくるってことですか」
「そうだね。ロールプレイングゲームでのデバフが付与されているみたいな感じで大丈夫」
「そうなんですか…?」
一之屋が戸惑うのもわかる。
いきなり「霊」という言葉が出てきて理解しろなんてそう易々とできることではない。見えない世界の存在は完全には肯定している人の方が少ないだろう。
心が存在しているのだから他にもこの世に不定形の事象というものは存在すると言われれば、その通りかもしれない。
見える人には見えるのだろう、山下さんのように。
霊に関する言葉達が作成されたのも彼らの存在を証明しているのかもしれない。
実際に見えないから、悪魔の証明に他ならない気がする。
「さて、どうしたものか…」
山下さんは眉間にシワを寄せているが、口元はどこか笑っていて、きっと頭の中で様々な方策を思案しているのだろう。
彼は椅子から立ち上がって。
「道具を取ってくるから会話でもして待っていて」
そうしてもろみの蔵から出て行った。
無言なのもいいが今日は僕以外の患者の感想に興味があった。
「正直なところ、胡散臭いなって思ったか?」
「怪しさ満載だよね、本当に信じていいものかと…」
青空色のホットパンツからのぞく一之屋のたゆんとした太ももに目が奪われそうになるが幸い、白色の透け透けなトップスがそこにはあった。結果彼女のどこを見てもアウト。
「あれぇ?どうしたの〜?高峰希空くぅん?発情しちゃった?」
「どこ見てもお前が淫らな格好に見えてしまうから目を背けるしかなかったんだ。僕は悪くない」
「それじゃあ私が悪いみたいじゃん!」
「だからそう言ってる」
「女性にそんなひどいこと言ったらモテないよ?」
「モテるつもりはないし、着替えてから出直してこい」
「そんなにダメかな、この服装」
せめて上にもう一枚くらい羽織れば違った印象を受けただろう。お洒落って難しいよな。僕もまだまだ勉強しないと。
「一之屋の服装はともかく、信じる信じないは現時点で特に重要じゃない。頭で理解するよりかは実際に経験してみてから自分で判断すればいいさ」
「ふーん。せっかく連れてきてもらったし最後まで経験しないのはもったいないよね」
「きっとすぐに問題なんて解決して、楽しい学校生活が送れるさ。僕が保証しよう」
山下さんが戻ってきた。
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