第11話 嫉妬の種
嫉妬の種。
自分とそれ以外の誰かとの情欲の関係において発生する感情で、自分の恋愛対象の人が別の誰かに思いを寄せることに対し自身の愛情を失うことを怖れ、その誰かに妬む感情。
これが嫉妬である。
愛というポジティブな感情に対し、自分ではどうすることもできない無力感、恋愛が成就しない不安、相手と自分を比較して感じる不足感など様々なネガティブが複雑に絡み合った複合的な感情で取り扱いが難しい。
複数の種が一つの感情を構成した時、行き着く先は神秘的な花畑か、それともおぞましい樹海か。
私は答えを探したい。
***
「はあっ……はあ……」
私_
運動なんてしていないはずなのにエネルギーが体外へ放出しまったよう。
「はぁ〜みこち成分補充かんりょ〜」
フードとアッシュべジュの髪が同期してふわっさぁと揺れる。
ご満悦の
「神子様と告森先輩が仲が非常にいいのは分かった」
私とこよりさんのやりとりを総評して関係する
「何か誤解していない?」
そもそも私が屋上にやってきた目的というのは、こよりさんが送ったメッセージと彼女と希空くんのツーショット画像について説明責任を果たしてもらうこと。
あれ?なんか私、浮気した彼氏さんと間に割り込んできた女性を決定的な証拠で問い詰める面倒臭い彼女さんみたいな感じになっていない?
そもそも希空くんは彼女じゃないし違うか。
じゃあわざわざ聞く必要なくない?と携帯に件の画像を表示してから逡巡する。
整理しましょう。
私は希空くんから「分からない問題がいくつかあるから解説してください」と勉強の約束をされ、私はそれに了承した。何かわけがあって遅刻していると思い、忘れていたら忘れていたでも全然構わないので安否確認も兼ねてメッセージを送ったり、通話してみたけど反応はなかった。約束から2時間経過したところでこよりさんからメッセージが送られる。そして私は即座に屋上に向かう。一悶着あって、今ここ。
言い方はちょっと悪くなってしまうけど、私は約束を破られた被害者側だよね?うん、間違っていないはず。遅刻した上に女性と一緒に寝ていた理由を聞くだけ。何もおかしいところはない。
自分の手元で止めていたスマートフォンを希空くんへ。
「まずはこの画像を見て欲しいの」
「…!?なんだこれ!?」
だいたい想像はついていたけど希空くんが寝ている間に撮影されたようだ。
万に一つもない可能性かもしれないけど、希空くんが寝たふりしてこより先輩に写真を撮ってもらっていたかもしれないけどそんな喧嘩を売るような真似はしなかったみたいで一安心。だから別に咎める必要はないね。
「あーこれわたしが撮ったやつだー」
棒読みこより先輩。やはりあなただったか。
「告森先輩…何が目的でこんな画像を?」
期待はしていない感じの希空くん。
「え〜わたしも匂わせ…ってやつ?一度やってみたかったんだよね〜」
「匂わせって…他人の感情をいたづらに弄ぶだけじゃないですか」
「んーそうだよー?一人はこうして誤解してこの屋上にやってきてくれたわけ〜ねーみこちー」
「一体なんのことでしょうかねぇ?わたしは屋上に風を感じにきただけですすし、たまたまお二人がいただけですよよ?」
「神子様、声震えてますよ?」
「それは冗談で、約束を破って居眠りしている希空くんに喝を入れにきただけです」
「それは…その…マジすいませんでした。煮るなり焼くなり好きにしてください」
いつの間にか土下座体勢の希空くん。
「あっはは〜修羅場じゃ〜ん」
火に油を注ぐように炎上を図る主犯のこよりさん。
「別にいいんだよ?勉強をサボって女性と添い寝してもらってもね?それは希空くん自身の問題だし…」
「うっ…」
厳し目のわたしの言葉に希空くんは吃ってしまう。
希空くんが私と競えるくらいまでの学力になってくれればいいのであえてここで発破をかける。
「今のままじゃあ、一生私の足元には及ばないよ?勉強面ではね?」
「…!」
今の希空くんのトレンドは勉強だから痛いところを突いてしまうことに罪悪感は感じる。でも彼には少し頑張って欲しいと期待している私がいる。
今回の期末試験ではおそらく学年トップクラスの伸び率だと思う。うかうかしていると次の瞬間には彼は私を抜き去ってしまうかもしれない。
私にだって競争心はあるし、いつまでも2位に甘んじていたくはない。
それに希空くんの成長具合に焦ってすらいる。自分が停滞している気がして、冷や冷やする日々だ。
また、彼の近くにいるのは単に勉強を教えるだけではなくて、彼の成長している姿を利用して自分も頑張らないといけないなという向上心や活力をもらっている理由もある。
だから、約束の時間に来ない彼がどこかで真剣に問題に取り組んでいるのではないかとどんどん私の方に迫ってくる感じがして焦燥感に駆られた。
はあ…いけないね、こんな邪な考えは。
こんな醜い自分が嫌になってくる。
いまだに正座をしていた希空くんは再度謝罪を述べてくる。
「約束を破ったのは本当に申し訳ないと思っている」
こっちの心が痛くなりそうなのでそろそろ許してあげよう。
「遅刻・ドタキャンはいいんだけど連絡くれればいくらでも対応するからね。気をつけてね」
「ありがたきご慈悲!」
「じゃあ今から教室で勉強しよっか」
「わかりました!先に行って準備しとくんでよろしくお願いします!告森先輩また機会があれば!」
「じゃあねー」
立ち上がって最敬礼をして即座に屋上を後にした希空くんに手を振るこよりさん。
人をおちょくるのが大好きな彼女が黙ってやりとりを見ていたのは珍しい。
そんな彼女が私に尋ねてくる。
「ねーみこちー?」
「どうしたんですかこよりさん?」
「みこちーって、のあのこと好きなの?」
「うーん?どうでしょうか?最近は彼の近くにいますがなんとも言えませんね…」
私が希空くんをどう見ているか…彼は私よりも優れているところがある…。
彼との関係はただ勉強を教えている教師と教わる生徒の関係。
これから変化するかもしれないがどうなるかは当事者である私にも分からない。
「そっかー、後悔のないようにねー。私はみこちのこと応援するからー」
「何を応援していただけるかはわかりませんがありがとうございます」
薄目で眠そうだけれど口角を上げて答えるこよりさん。
だいたいこんな感じだけど少なくとも私の味方だと思っている。
「あとーまた今度あそぼー」
「はい、いつでもどうぞ」
「じゃあ今から〜」
「今から!?さっきの希空くんの話聞いていました!?」
「え〜何にも聞こえなかったな〜」
「うそでしょ!?」
「いいじゃ〜ん、勉強よりも楽しいこと…しよ?」
再度、こよりさんに体のあちらこちらを触られる私は諦観する。
希空くんの成長力にこよりさんの自由奔放さ。
自分以外を見ていると自分に足りないものが浮き彫りになって、悔しさや焦りが私の心の内から覗いてくる。
こよりさんが私にした質問と私が屋上に向かって廊下や階段を走っていたときに心に発言したあの感情の種はなんだったのだろうか。
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