第2話 明朗の種
明朗の種。
皆の周りにも一人や二人くらいは見たことがあるかもしれない。
しかし、不思議に思わないか?
あんなにも明るく、暗い一面を一瞬たりとも見せないのはなぜかって。
山があれば谷が存在するように、上昇気流があれば下降気流が存在するように、感情にも必ず上がり下がり浮き沈みが存在する。
常日頃、人前で明るく振る舞っている彼ら彼女らにも気分が沈むことが絶対あるはずだ。
だから明朗快活な人間というのは、自分の中でよくない出来事を受け入れたり、寝て忘れたり、カラオケや食事など娯楽でストレルを発散したりと。どういう方法であれ、沈んでいる時間が気にならなくなるほどに明るい時間を過ごしている。
もしかしたら…
明るさの影に想像を絶する闇が潜んでいるのかもしれない。
***
「お兄ちゃ〜〜〜ん!ん!ん!ん?ん?ん?ん!?ん!?んんん!?!?!?」
エネルギッシュで通った声が驚きの色になって僕と神子様の前で急ブレーキをかけた。
ドドドドド!
キュッ。
ドスン!!!
リズムゲームみたいにテンポよく「走る」「止まる」「置く」を実行する。
そして僕の目の前まで来て首を振って僕と
うねる黒いポニーテールが落ち着いてようやく口を開く妹。
「お兄ちゃん!いつの間に彼女できたの!?」
「待て待て待て。この状況をどう捉えたらそうなる」
年の近い男女がいるだけでカップルと認識してしまう恋愛脳を持っている女子中学生だから仕方ないのか?思春期真っ只中だとこんなものなのか?僕は恋愛に関してはかなり疎いので理解が及んでいない。2ヶ月前の授業内容くらい理解が及んでいない。結局、側から眺めるとカップルに見えるもんかね。う〜ん恋愛ってマジでわからん。
たとえそう見えたとして、僕は別に構わないが神子様に大変無礼だろう。
というわけで腹いせついでに軽く妹の頭にチョップを下ろす。
「あだっっっ!?何するの!?」
「それはこっちのセリフだ。彼女がいないのは万年のこと」
自分で言って悲しくなってくるわ。
「そっか〜残念だな。早くお兄ちゃんに彼女さんができないか心配だな〜」
「もうちょっと心配そうな顔してから言ってくれ」
そろそろ帰宅したい感覚に包まれてきた。居た堪れない状況とはこういう場合に適切なんだな。初めて勉強したことが役に立ったわ。
「でー、この素敵な女性はお兄ちゃんのお知り合い?友達以上恋人未満の関係?」
「ああ、クラスの隣人だ」
後半の方に触れるとまた変な方向に話が逸れるのでノーコメントで。
「逃げるのが上手くなったね、お兄ちゃん♪」
鬼ごっこで逃げるのは得意分野だからな。
「公共の場で兄妹悶着とか需要ないから。ほら真那、挨拶しとけ」
「は〜い」
兄妹の絡みを見ていた神子様は幼児が新しい体験に触れるような期待感を含んだ美しいお顔をされてお待ちになられていた。
「こんにちわ!
いつもお世話になっています。主に勉強面と人間関係面で。
「こんにちわ。高峰希空くんの隣人をやっています。
妹と同級生(女性)の邂逅。
場合によっては修羅場だったかもしれねえ…。
僕としては仲良くしてくれるだけでいい。
「よく希空くんから真那ちゃんのこと聞いていたんだけど、すごく身長高いんだね」
神子様は手を真那の上まで持っていこうとう〜んと背伸びをする。いとうつくし。
それはそうと、妹が女子中学生と聞いて可愛らしいと思った紳士淑女諸君よ。
残念だったな。
我が妹の身長はなんと180センチメートルなのである。
兄である僕を差し置いて180センチメートルなのである。
ここで一つ。
もし君に弟か妹がいるとする。その弟か妹に身長を越されたらどういう気分になるだろうか。
何か負けた感じがしないだろうか。
ちなみに僕はしてしまうな。たまに見下ろされるのが屈辱的だったりする。
同じ両親から生まれてきたはずなのに一体、僕と真那の差はどこでできてしまったのだろう。思い当たる節はなくはないんだけど…。
一応僕の身長は175センチメートル。神子様はおそらく150センチメートルくらい。
「そうなんですよね〜私って寝るのが得意らしくて1日10時間以上寝ていたら、こんな身長になったいましたね」
自分の頭を触ってニコニコと身長を強張する真那。
「いいな〜。私もそれぐらいの身長がだったら見える世界が違ってくるんだろうな〜」
長身の真那を羨む神子様。
こうして2人を比べると身長差30センチってかなりあるんだな。
「え〜〜私も神子さんくらいの身長が羨ましいですよ〜見てると母性が出てきちゃうというか…」
流れ変わったな。
神子様に向けられる真那の目が胡乱な気配を漂わせていて。
「抱きしめたくなっちゃうというか…。あのぎゅっとしてもいいですか?」
「えっ?」
あっ。まずいかもしれない。止めにいかないと。
本能が反射するより先に真那の移動速度が勝った。
「真那、まてっ…」
僕は彼女を抑えようと手を伸ばすが空を切る。
神子様の正面に立っていたはずの真那はすでにそこにはいなく。
彼女は神子様の後ろに回り込んでくっつけるように自分の方に寄せるように抱きしめていた。
「はああぁぁ〜〜〜何この可愛い生き物ぉ〜。お肌絶対柔らかいし、シャンプーの香りがするサラサラのブラウンロングヘアをずっと弄っていたいし、もおおおぉぉぉ!!!」
アクセル全開の真那。
対する神子様はというと、「えっ?」とか「ちょっ…」とか「真那ちゃん!?」とかおっしゃっていてどうにかして真那の腕から解放されようとしているが圧倒的な体格差で完封されている。
ショッピングモールで若い女性2人がイチャイチャしていると少し如何わしい気もするし、見物人が増えているし、悪目立ちしているしでいろいろアウト。
流石に公共の場でセンシティブさが露呈してしまったのでショッピングモールに安寧を取り戻すべく僕は行動することに。
というわけで本日二度目のチョップを真那の頭へ。
「あだっっっ!?」
明るさを制御できずに暴走させてしまうのも難儀なもんだなあ、と。
妹にわずかに呆れる僕は次に向かうべき場所を考えるのであった。
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